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【設備設計】積算作業から考える価格と価値の関係

 公共施設や、官庁物件で求められる積算作業というものがある。設計したものがどれくらいの”価格”でできるのかを、物価が載っている本を元に1つ1つ材料、部品費用と作業費などを計算していく作業だ。算出した価格を元に入札価格が決められる。

 自動車会社でも同じような作業はあって、原価企画という呼び名で行われていた。自動車の場合は大量生産するので、部品費と作業費に追加して、量産するための型費(設備費)というものがプラスされる。

 依頼主、施主、請負業者を結びつける”お金”を計算することは大切な作業だが、その作業で算出されるのは設計したものの”価格”だ。設計したものの”価値”が計算されることはない。

 価格と価値。

 普段同じ様に使っているこの2つの単語は全然違うものだ。私はこの違いを日産GT-Rの開発責任者の水野和敏さんの講演で教えてもらった。

価値:時代が変わっても、場所が変わっても変わらないもの
価格:価値をその時の、その国での通貨で表したもの

 水野さんはGT-Rを開発するときに価格を決めて開発しなかったそうだ。その代わり開発部署に伝えたのは、どんな人が、どんな場所で、どんな使い方をする車なのかという事。そして、どんな気持ちで乗る車か。その2つの目的のために最適な無駄のない設計をしてほしいと各部署に依頼した。

 その結果できたのは1500万円のポルシェよりも速くて777万円で売っても利益が出る車だった。そして、その価値は時代が経っても変わる事はなく、17年たった今でも新車で売られている(価格は倍になっている)

 そう、価格はその価値に付けられるものであって、最初に決められるものではないのだ。最終的に価値を受け取るのはそれを使う人。寿命が長い建築物にとって、価格はその時々で変わってくる。何十年先も価値を保っていられる設計をすることの方が、その時の”価格”を算出するより社会的には重要だと思う。

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