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大雪解説のために寒気の規模を定量化

今回は、500hPa面高度の南北方向時系列図を利用した、強い冬型の気圧配置による大雪への危機感を早期にわかりやすく伝えるための、寒気の規模の定量化について記事にします。

寒気の規模の定量化にあたって

日本付近は冬になるとしばしば寒気が大陸から流れ込み、強い冬型の気圧配置が数日続きます。数年に一度程度は、日本海側の地方では道路に多量の雪が積もり、トラックや乗用車が立ち往生して大規模な車両滞留が発生することがあります。最近では、2021年1月9日に北陸自動車において大雪によりおよそ1500台の大規模な車両滞留が発生しています。

1日前になると降雪量をある程度正確に予想できるため、どの地域で大雪になるか示すことができます。3日以上前からとなると降雪量予測には不確定性が大きくなり、予想降雪量を示して大雪への早期警戒を呼びかけるのは難しいのが現状です。

日本付近へ流れ込む強い寒気により冬型の気圧配置がもたらされるため、この強い寒気の規模を定量化して災害との対応関係から、大雪への早期の危機感を把握できないか検討しました。

この強い寒気の規模の定量化にあたっては、次の点を考慮しました。
・全国的な影響を把握するため、強い冬型の気圧配置に伴う大規模な強い寒気を対象とする。(予測確度に幅がある場合は地方単位での定量化は変動が大きくなる恐れがあり日本付近を対象としています。)
・規模は強さと期間で示すこととし、強さは「真冬の寒気の南下の程度」を、期間は「真冬以上の寒気が入っている期間」とする
・実況も予想も簡単に定量化できるものとする
・大規模車両との対応についても把握できるものとする

ただし、この定量化では日本海側のどの地方で大雪の影響が出るかはわかりません。影響の大きい地域を予想するには他の予想資料を利用する必要があります。

寒気の規模の定量化

地上からある高度までの平均気温と、その高度は比例します。寒気が強いほど高度は低くなります。これを活用して、直接気温を使って定量化するのではなく、高度を使って定量化することとし、利用する高度は500hPa面の5400mとします。理由は、この高度以下になると降水があれば雪となることが多いことと、気象庁が週間予報支援図(FXXN519)に東経135度における500hPa面高度の実況・予想時系列図を毎日提供していて、これを活用して定量化できることです。図1に2022年1月1日21時初期値の週間支援図を掲載しておきます。この支援図は最新のものがテレビ局などのサイトからダウンロードできます。利用する時系列図はこの図1の一番下にあります。

図1 気象庁が提供している週間予報支援図(FXXN519)
2022年1月1日12時(UTC)初期値

この時系列図は解析値20日分と予測値8日分からなっています。5400m高度線はその高度以下ではハッチがかかっているため、5400m高度の変動がわかりやすい図となっています。

東経135度において500hPa面5400m高度が平年値で最も南下するのは、1月下旬で緯度37度でした。JRA-55を利用すると計算できます。5400m高度線が緯度37度より南下する場合は、真冬並かそれ以上の寒気が入っていると言えます。

500hPa面5400m高度線が緯度37度より南下している期間を、「強い寒気の期間(単位日)」と定義し、「寒気の強さ」はこの期間内で最も寒気が南下した緯度(37度からの偏差)と定義します。図2に、時系列図から強い寒気の期間と強さを算出する方法を示しています。補助線を書くことで、比較的簡単に求めることができます。

図2 強い寒気の期間と強さの定義
2017年2月10日 新東名高速道路(御殿場 JCT~長泉沼津 IC 間)で
短時間の大雪と気温低下により大規模滞留が発生した事例

寒気の規模と車両の大規模滞留事例

過去の大規模滞留事例を国土交通省が公表している資料などから調べ、事例毎に強い寒気の期間と強さを図2のようにして週間予報支援図から算出しました。この結果を図3に示します。

図3 車両大規模滞留の災害発生と寒気の規模の関連

この図から、平地での車両大規模滞留が発生する必要条件の目安は、寒気の強さはおよそ4度以上、期間はおよそ2日以上としました。山地での車両大規模滞留は、強さが2.5度程度でも発生していることに注意してください。

利用上の注意があります。実際の大雪現象は寒気だけで説明できないことから、寒気の規模感を示す指標・目安として捉えてください。特に、南岸低気圧による西日本から東日本太平洋側の大雪や、北日本中心の冬型の気圧配置による大雪はこの目安では把握できません

図4に南岸低気圧で大規模車両滞留が発生した事例を示します。このように、真冬並みの寒気が入らなくても、車両滞留が発生します。この目安は全国的に強い冬型の気圧配置となる際に活用できます。

図4 南岸低気圧の事例
東経135度における500hPa高度の南北方向の時系列図(2021/2/1 - 18)
2月14日、南岸低気圧により関東甲信地方では大雪となり、
山梨県で大規模車両滞留が発生しました。
2重線は、この低気圧に対応するトラフ
5400m高度は緯度37度より北にあり、真冬並みの寒気は流入していません。

予想への活用

図1の週間予報支援図の時系列は8日先まであり、予測に利用できます。図5に2021年の年末寒波を対象に予測した事例を示します。

図5  2021年12月20日初期値の時系列図と寒気の規模の予想指数値(上図)
車両大規模滞留事例と指数値との対応(下図)

図5の予想では、25日頃からの寒気の強さは3.9度、期間は2.2日と目安(強さおよそ4度以上、期間およそ2日以上)を満たしています。この予測から、平地でも車両大規模滞留がおこる可能性があると言えるでしょう。

また、図5の下図から、12月17日頃の寒気と比べて寒気は強く、期間もやや長いと解説できます。前回の寒波より影響が大きいことを伝えることで、より注意してもらえることが期待できます。

実際には12月25日から28日の強い冬型の気圧配置では車両の大規模滞留は発生しませんでしたが、彦根で記録的な大雪となるなど日本海側では各地で交通機関を中心に大きな影響がありました。

まとめ

寒気の規模を定量化して、強い冬型の気圧配置による大雪の影響で発生した車両の大規模滞留との関連を調べ、この滞留発生の目安を作成しました。この目安は、大雪現象直前では定量的な予測の精度がいいため活用できませんが、全国規模の強い冬型の気圧配置が予想された際に3日以上のリードタイムをとる場合には、解説などに利用できそうです。

車両の大規模滞留は、タイヤやチェーンなど冬用の装備が十分なされているか、除雪体制や排雪の状況なども発生に影響するため、気象現象のみから予測することはできません。必要十分な条件を作るのは困難です。ですが、冬用タイヤ装着の呼びかけや、除雪体制の強化を検討することには、この目安は利用できるのではないかと思います。



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