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湿球温度による推定雪水比を利用した2022年1月6日関東大雪のGSM降雪量予想

前々回の投稿「2022年1月6日関東地方南部の大雪時の湿球温度とアメダス気象観測データプロット図」では、雨雪判別で利用する物理量は温度より湿球温度が適していることがわかりました。今回は、降雪量予想に利用する雪水比の推定に湿球温度を利用することを検討し、ロジスティック関数でやや強引に近似して、2022年1月6日関東南部の大雪事例におけるGSMの降雪量予想分布図を作成しました。

雪水比を推定する際に湿球温度を利用するのがいい?

そこで雪水比(降水量に対する降雪量の比(単位:cm/mm)。例えば降水量5mmで降雪量が8cmの場合は1.6)についても、温度の関数とするより湿球温度の関数として量的予報を計算する方が誤差がより小さくなる可能性があると考えました。

データ取得の都合上、2022年1月6日から15日11時までのアメダスのJSON形式を利用して、温度と湿球温度・雪水比のデータセットを作成しました。データ数は927個です。この雪水比と気温・湿球温度の散布図を図1に示します。

図1 雪水比に対する気温、湿球温度の散布図
利用データは2022年1月6日0時から15日11時までのアメダスデータを利用

図1の青が気温、赤が湿球温度の分布図です。気温、湿球温度はおよそ0.5度以下ではどちらのプロットもそれほど大きな違いは見られませんが、1度以上では青点のばらつきが多く、赤に比べてデータ数も多くなっています。

気温と湿球温度にどの程度の差があるのか、同じデータで横軸を気温、縦軸を湿球温度とした散布図を作成しました(図2)。降雪時に気温がマイナス2度以下の事例では湿球温度との差は1度未満となっていますが、マイナス2度以上では差が1度以上の場合があり、2度前後では差が2度以上の場合もあります。気温0度から2度の間では雪水比は大きく変化しますが、この温度の範囲では湿球温度との対応関係にばらつきが大きくなっていることがわかりました。

図2 温度と湿球温度の散布図
赤破線、青破線は温度が湿球温度より2度、1度高いところを示す。

降雪量を予想する場合に、(予想降水量) x (予想される雪水比) の関係式を利用しています。実際に気象庁の関東における雪水比の調査が行われており、2014年 量的予報技術資料 2.2 大雪の事例(気象庁予報部予報課 牧野眞一)に、次の図の通り、雪水比の箱ひげ図が示されています。

図3気象庁の調査による気温と雪水比の箱ひげ図
出典:牧野眞一(気象庁予報部予報課),2014年 量的予報技術資料 2.2 P35

今回扱っているデータから図3と同様の図を作成しました。ただし、図2と利用するデータの質が異なっています。図3では雪水比が0と計算される場合(降水量はあるが降雪量が0)を含めていません。これは、降水量0.5mmで降雪量0cmの観測が気温がマイナスでも多く観測されています。降雪量の観測が1cm単位で、実際には0.5cmあっても0cmと観測され、雪水比が適切に求められないため省いています。

図4 雪水比に対する、湿球温度(左)と温度(右)の箱ヒゲ図
0度以下は1度幅、0度以上2度未満は0.5度幅で箱ヒゲ図を作成

図4から、気温は0.5以上の4階級の箱ヒゲは大きな違いがなく、少なくとも気温が1度以上の場合は気温より湿球温度を利用して雪水比を推定する方が適切と言えそうです。

雪水比を湿球温度のロジスティック関数で強引に近似

少々大胆に雪水比を湿球温度のロジスティック関数で表すことにします。ただし、風の影響や雪の沈み込みの影響を除くために、風速が2m/s以下かつ積雪が10cm以下の事例を抽出して、湿球温度と雪水比の散布図に近似させたロジスティック関数を重ねました(図5)。

図5 湿球温度と雪水比の散布図と、ロジスティック関数を使った近似曲線
風速2m/s以下かつ積雪が10cm以下のデータを利用

この近似した関数は、次の式です。ただし、今後データをさらに集めて精査する必要があります。

$$
y=\frac{2}{1 + e^{-1.8  (- x + 0.7)}}
$$

湿球温度から推定した雪水比を利用したGSMの降雪量予想分布図

GSMの予想の地上気圧・気温・露点温度から湿球温度を計算し、この湿球温度から上記で示したロジスティック関数を利用した推定雪水比を算出しました。これに、予想降水量を掛けて、予想降雪量を求めることができます。

2022年1月6日15時初期値のGSMの6時間予想のGPVを利用して、東日本付近の6時間予想降雪量分布を計算しました(図6)。また、その1日前の初期値から同じ時刻を予想した予想降雪量分布も図7に示します。

図6 湿球温度から雪水比を推定して算出した降雪量予想分布(FT6)
2022年1月6日6時初期値GSMを利用し、6時間後までの降雪量予想値(シェード)、
湿球温度(緑線)、等圧線(黒線)、地上風(矢羽)
図7 湿球温度から雪水比を推定して算出した降雪量予想分布(FT30)
図6と表示内容は同じで、初期時刻が1日前で同じ時刻を予想

図6の降雪量予想分布は関東の実際の降雪量分布に近い表現をしています。図7は図6と比べて首都圏では、湿球温度は若干高く、降雪量予想は少なく、新しい初期値になって降雪量予想が増えてきていました。

以上から、湿球温度から雪水比を推定して降雪量予想分布を作成する手法は、ある程度予想の参考になりそうです。今後、事例検証して参考利用できるか確認していきたいと思います。

この分布図作成に利用したコードは、皆さんにお見せできるまで整理・改良でき次第、公開させていただきます。

今回は以上です。



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