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漫画「ヒストリエ」12巻を読んだ

漫画「ヒストリエ」12巻を読んだ。面白かったのでそれについて書く。本稿はネタバレを含んでいる。なお以前書いた記事はこちらである(リンク)。

まず、この作品が怒りをテーマとしているということを再度確認させられた。それはアレクサンドロスが父を暗殺されたときに見せる怒りの表情でよく分かる。ただ、それはあくまでも親を殺されたという事実に由来している。それは他者由来の怒りなのであり、自分の願いにもとづいた怒りではない。以前述べたように、僕の推測では、この作品が向かうべき帰結は「自分勝手な怒りの発露」である。今回の顛末を見て、僕は、アレクサンドロスはどうしてもそのような怒りを抱けない人種なのではないかと思った。

次に、運命の皮肉というものを感じさせられた。主人公のエウメネスがエウリュディケを助けようとする場面は、主人公の母親が奴隷商人たちを斬る場面と酷似している。数々の敵をあざやかな剣さばきで打ち倒すのである。彼または彼女は自らの子を助けるために戦う。もっともエウメネスの場合は思い人の子供というだけであって、自分の子供を助けるわけではないのだが。それと、結局母親の立場の人が死んでしまう、というのにも運命を感じさせられた。まるで「百年の孤独」のようだ、と思った。

なお今回の巻では、前半で父を殺されたアレクサンドロスが敵を倒す、という展開なのに対して、後半では子供を助けるためにエウメネスが敵を倒す、という事件が起こっているのにも、運命というものの皮肉を感じた。

また、自由というテーマについても僕は考えさせられた。エウメネスは巻末で旅ということに思いを馳せる。しかしそれはたぶん不可能だろう。彼はエウリュディケの子供をおそらくは見捨てられない。それに、人はけっきょくどこか大きな組織に所属しないと生きていけない。生き続ければ生き続けるほどしがらみは増していき、どうしようもなく、過去の事情に押し流されるようにして人は生きていく。エウメネスの人生に自由があるとは僕には思えない。

以上