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味のあるスライム

ジュワワワワ・・・
「それ・・・ダメなの・・・」
さっきまでそこにあったものが音を立てながら煙になって消えていく。
そこにあったものとはスライムだ。
スライムとはプニプニとしたお餅のような見た目で大きさはサッカーボールくらい。2021年になってから日本に出没するようになったモンスターだ。
ただモンスターといっても、ものすごく弱い。この前砂場で遊んでいた幼稚園児がおもちゃのスコップで叩いたら消滅したのを見た。
ただどういうわけかこのスライム。今ペットとして話題になっている。その理由がコロコロとした丸いフォルムとプニプニとした触った感じなども人気だが、住んでいるところによって色や中に入っているこれまたまあるいピンポン球くらいの心臓(マニアの間ではコアと呼ばれているらしい)の輝きが違ったりするからだ。最近のテレビ番組ではスライム評論家を語る怪しいおじさんが出てきて「このスライム・・・味がある!」というフレーズはS N Sで投稿されたスライムの写真に対してもよく見るようになった。なんでこんなに詳しいかというと何を隠そう私も昨日まで飼っていた。
そう昨日までは・・・

「あれ?ここって埼玉なのに青いスライムが居る!」
金曜日、仕事が終わってくたくたになった帰り道、そのスライムはいた。
サッカーボールくらいの大きさ、プニプニとした見た目、そして艶やかな青い透明なボディの中には赤いコアが輝いている。「ここは埼玉のはずなのに・・・」そう。埼玉のスライムは緑色のスライムがほとんど、緑色の中でも若葉のような深い緑やライムグリーンのような爽やかな緑のスライムが居る。そんな中で僕の目の前にいるのは艶々とした青いスライム。
僕はあることを思いついた。

「レアなスライムとなれば、あの番組に出て一攫千金も夢じゃない!」
そうスライム評論家に太鼓判を押されたスライムは今や映画やドラマに引っ張りだこ。中には写真集が1万部売れた人気スライムもいたりする。
僕は周りに誰もいないことを確認し、ドキドキしながら、ジャケットを脱ぎ、そのスライムに被せ、まるで誘拐犯のように連れ去った。

「さて・・・どうしたものか・・・」
途中すれ違う人に不審者を見るような目で見られたが、なんとか家についた。いつもの扉、いつもの部屋にいつもと違う物体が呑気にふよふよと辺りを確かめるかのように動いている。勢い余って持ち去ったものの、自分はスライムを飼ったことがない。自分の知識は「とてつもなく弱いこと」とS N Sで知った「食べ物に好き嫌いがあって嫌いなものを食べると消滅する」ことだけだった。

「最近忙しくて流行りのものとかあまりだったからな・・・」
とりあえず家にある食べ物は・・・とビール、ビーフジャーキー、柿の種、カップ麺・・・改めて見ると自分の食生活に悲しくなってくる。でも何かを食べさせないとお腹を空かせて消滅しちゃうかもしれない・・・と焦っている僕はまずはビーフジャーキを食べさせてみた。恐る恐るスライムに突き刺してみた。そしたらなんとシュワシュワと泡が出てきたと思ったらビーフジャーキが溶けてなくなっていった。

「これ結構面白いぞ!」
スライムの体にさしたビーフジャーキが透明な体内で溶けていく様はまるでドミノ倒しを見ているかのような感じがした。その勢いでビールをスライムにかけて行ったらシュワシュワと音を立てながらこれまたスライムの中に消えて行った。「スライムって結構俗物っぽいのでも大丈夫なんだな」そう思ってたら、1匹の蚊が、ぷーんと目の前を通り過ぎて行った。思わずパン!と両手で叩いたが、手から蚊がぷーんとすり抜けていく。そのとき、すごい勢いでパシュッとスライムが蚊を吸い込んでいった。
そんな便利な機能もあるんだな・・・と呑気に考えていたら、蚊ではなくスライムがジュワワワワ・・・と音を立てて煙と共に消えていった。
「それ・・・ダメなの・・・」僕は消えていくスライムを見ていたら、当選した宝くじを燃えるゴミに出してしまった気持ちになった。

スライムに与えていたビールを飲みながら後片付けをしていたらだんだんと冷静になってきた僕はあることを考えていた。
「生き物を飼うときはちゃんとした知識が大事だな。いくら流行っている!一攫千金だ!とはいえ、スライムにだって僕と同じの命がある。」
今日はスライムについて勉強して明日また探してみようかな。

「あっ蚊に刺されてる・・・」
僕は蚊に刺された右腕をポリポリとかきながら、Youtube で「スライム 育成」と調べた。そこにはスクロールしてもスクロールしても尽きることなく様々なサムネイルのスライムの育成方法があり「やっぱり勉強は明日にしようかな?」と心が折れかけていた。

「このスライム・・・味がある!」
この言葉を聞くのは当分先になりそうだ・・・

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