「香りに苦しみ、普通の生活できない」大反響…“香害”のリアル 取材後記
【動画はこちらから】
人工的な香りで体調不良... 広がる「香害」
(2020年11月12日放送)
「香害」第2弾 国や企業の対応は…
(2020年12月11日放送)
筆者:RKB毎日放送 報道部 小松久里子
「香害」ってなに?
私が「香害」があることを知ったのは、ある記事を見たのがきっかけでした。
SNSで「香害について教えてほしい」と呼びかけたところ、多くの人からコメントをもらい、事態の深刻さを知りました。
「香害」とは、主に、人工的な香料で体調不良になることを指し、ほとんどの人は、強い柔軟剤の香りで悩んでいます。
病名は、「化学物質過敏症」です。
「中毒」に分類されていて、症状は、「頭痛」「めまい」「はきけ」「湿疹」「生理不順」など、多岐にわたります。香りを嗅ぐと、すぐに症状出る場合と、時間を置いて出る場合があります。
一般的によく見られる症状がほとんどで、周りからはなかなか理解されにくく、「気のせい」「自分勝手」と思われることが多いそうです。治療法は見つかっておらず、発症するとただ化学物質から逃げる生活をするしかないというのです。
「香害」という言葉が流通し始めたのは約10年前、海外の柔軟剤が爆発的にブームになったことがきっかけと言われています。
「人工的な香料が原因で体調不良を引き起こしている」という科学的根拠は今のところないですが、多くの人が悩まされているというのは事実。一人でも多くの人に伝えたいと、取材を始めたのは去年11月ごろのことです。
しかし、取材を受けていただける人は、簡単には見つかりませんでした。
コロナの感染拡大などもあり、順調に進まず、関係機関やSNSの書き込みから取材をお受けいただける方がようやく見つかり、取材を始めることができたのは、今年9月に入ってからでした。
十分な配慮をしての取材
いろいろと話をうかがうと、「個人差はあるが、少しでも香料を身にまとっていたら、体調不良になる」「症状がひどい人は、呼吸困難になる場合もある」「一度、柔軟剤を入れた洗濯機では、洋服に香料が移るので洗えない」など……。
取材にあたっては、十分な配慮が必要だと思いました。
スタッフ全員分の、新しい洋服を用意。
取材ごとに”無添加・無香料”の洗剤で手洗いし、直前の入浴は、”無添加・無香料”のものを使うように徹底しています。
また、ご自宅の取材の際は、万が一香料がついていた場合の対処として、服の上からレインコートを着て、靴下は履き替えた上からビニール袋をかぶせるなどの方法を取りました。
子供も発症・・・香害のリアル
発症のきっかけは様々です。
シックハウスから化学物質過敏症を発症し、そこから香料にも反応をし始めた人もいれば、柔軟剤のにおいがリニューアルして強くなったことをきっかけに発症した人もいます。
発症すると、日常生活ではマスクが欠かせなくなります。通常のマスクだけでなく、医療用のマスクや、防毒マスクをつけている人もいます。しかし、防毒マスクをつけると、他人からの”冷たい視線”や”興味本位での撮影”に、心が折れそうになるそうです。
それでも、”生きるための手段”として、そうせざるを得ないのです。
日常生活すら、普通に送ることが出来なくなってしまいます。
店に入ると、香りが漂ってきます。買い物や外食もできません。
また、友人など、一緒にいる人の柔軟剤の香りにも反応してしまうため、一人で行動することも増えていきます。
コンサートや映画など、人混みにはもちろん行けません。
また、職場では、周りにいる人の匂いはもちろん、トイレや廊下などに設置される芳香剤に反応し、働ける状況ではなくなり、職を辞さなければならなくなった人もたくさんいる、と知りました。
子供の発症も多く耳にし、取材しました。やりたいことはあるのに、将来の夢すら考えないようにしている現状がありました。
当事者の皆さんは、見た目では全く分かりません。
「香料すらなければ、普通の暮らしができるのに」と訴えかけます。時には、涙ながらに話してくださることもありました。
花粉症のように蔓延したら…
周りにいる人に「あなたのにおいがダメです」と直接話すことは、なかなか難しいことです。もしかしたら、「体臭などを消すために、エチケットとして使っているかもしれない」「柔軟剤を使うことは個人の自由。強制的に止めることはできない」と、理解しているからです。
嗅覚は、麻痺しやすい特性があるため、多くの人が柔軟剤を使っている今、とても強い香りになっていると専門家は指摘しています。
「自分にとってのいい香り」=「他人にとってのいい香り」ではありません。これだけ数え切れないほどの香りが出回っているなかで、食べ物に好き嫌いがあるように、香りにも好き嫌いがあることを認識し、その香りで体調不良になっている人がいるということを忘れてはいけないような気がします。
私は、取材を通して、「なぜ苦しんでいるのに、取材を受けてくださる人が少ないのか」分かった気がします。「気のせい」「精神的に弱いだけ」「自分勝手」などと言った、周りの声が少なからずあるからです。香りにあふれている社会がある限り、理解を得ることは難しい。我慢するしかない。と、諦めているのかもしれません。
化学物質過敏症の専門医は、
「花粉症」と「化学物質過敏症」は非常に似ていると話しています。
・ごく微量で症状が出る
・一度発症すると完治する方法がない
・ある日突然誰でも発症する可能性がある
何年か後、花粉症のように、香害に苦しむ人が蔓延したら…。
すでに発症している人たちは、「発症してからでは遅い」という危機感をも、私に与えてくれました。
目に見えない新型コロナウイルスを懸念して、外出するのを控えるように、目に見えない化学物質で、体調不良になり外出できない人たちがいます。
意を決して取材に応じてくださったみなさんの思いを無駄にしてはいけないと思っています。科学的な根拠は見つかっていませんが、体調不良になっている人たちが増えているのは事実です。何らかの対策が必要と感じています。
(了)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?