190805_慧ちゃんがいなくったって_ヘッダ0

掌編「慧ちゃんがいなくったって」


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星語《ホシガタ》掌編集*14葉目

(731字/読み切り)

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「ドーナツとか、食べてないよ?」
電話口で、口をもごもごやりながら。

「今日は空がピーコックグリーンだったよ!」
曇り空の下、遠くの町から変顔の自撮りが送られてくる。

俺の彼女はすぐにバレる嘘をつく。バレる。というより、隠す気がないのだ。

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そして彼女に視える今日の空はたしかにピーコックグリーンなんだろう。

視え方なんて価値観の話だ。


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「ねっ、今度いつこっち来れる?」
寝入りばなの電話。俺たちは遠距離ってやつだった。

「ん〜まとまった休みが来るまでは、無理かな」

しばらくの沈黙の後

「…まぁ、別に慧介がいなくったって、…やっていけるし……」ばりばりと開封する音。「…キャベツ太郎とか、……食べてないし」

思いきりしょげたような声。

──本当にすぐにバレる嘘ばかりつく。しょうがない、週末、電車を乗り継いで、急に訪ねて──。

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遠くにビル街臨む、雑雑とした駅前を抜け、室外機の風にあおられ、彼女のぼろアパート目指す道すがら、バイトの帰り道、人目もはばからず、もごもごとパンを食べながらぴょこぴょこと歩くちいさな後ろ姿、発見。

「そこのお嬢さん」
振り向く彼女。

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「俺にも一口下さいな」

しばらくぽかんとした後、
「あれ…?慧ちゃん……?え…?」みるみる頬はピンクに。


「……うぐいすパンとか…食べてないし」

とか言いながら、極限まで小さくちぎって渡してくれた。コントか。頬袋にひまわりの種を貯めたような面のまま、ぽろぽろと雫がこぼれた。

「いや」
───俺が欲しい一口はこっち。

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もう我慢出来ず、道端で抱きしめ、チューをした。少し遠く咳払いの音。

しばらく腕の中もがいた後、大人しくなって俺の匂いを嗅ぎ始める。

「バーカ……」

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彼女はちょっと嘘つきで、この世で一番正直者で、

───この世で一番愛おしい。

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─了─


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ツイッターお題ss/書きおろし。
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こちらのアンケをもとにした短編です。みんなわたしのテイストでこのタイトルのが読みたいのか…。なるほどなるほど、つまりこういうことか…?と思って、一切ひねらず書きました。いかがでしたでしょうか?

あ、作者は勿論こういうのド直球ですよ。

御参加ありがとうございました!