見出し画像

【産学連携と技術移転の話】営業とマーケティング②

 今回は、「大西晋嗣(2017), 関西 TLO の目指す産学連携, 産学連携学Vol.13, No.2, 2017」を拝読しての感想文を書いてみます。自分事でもあるため過熱してしまい、各方に失礼な箇所もあるかと思いますが、ご容赦下さい。また、初めに申し上げると私はTLO側の人間なので、そちらに偏った(むしろそちらに厳しいような?)ものになっています。
 いつもながら、感想文といいながら、どんどんと本(論文)の内容から離れていくことがある点、ご容赦下さい笑。

【免責事項】記事の内容は所属組織とは一切関係のない個人的見解であり,所属する/した組織のいかなる営業秘密等を含みません.



(大学)内部の知的財産本部が有望案件を差配し、われわれが有望な案件を扱うことは無くなっていき、ライセンス出来ない案件ばかりを自社で保有することとなった。(一部補足)

大西晋嗣(2017), 関西 TLO の目指す産学連携, 産学連携学Vol.13, No.2, 2017

 上の点は、「結城洋司(2022), 株式会社新潟TLOの現状と課題, 産学連携学19巻1号」にも同様のことが書いてあった。やはりどこも、大学知財部とTLOの住み分けが出来ない問題は起きている様子。この問題が一度も表面化していない大学は、恐らく単にTLO機能が無い/弱いというだけのことだろうと予想。
 各TLOと大学がどのような契約になっているのかは知らないが、やはり案件の差配権限がTLO側に無いと、このようになってしまうのか。TLO側の視点に立つと「大学は我々のスキルに敬意を払わず、おいしい案件は取っていって、売れない案件しかよこさない」という発想になるが、ここは一旦溜飲を下げて自省も大事だと思う。


 話は逸れるが、こういう話になると「売れない案件」へのリスペクトが消失しがちなことには気を付けたい。そもそも売れる売れないに関わらず「案件=発明」が無ければ何も始まらないため、どんなものであっても発明には最大限のリスペクトが必要である。この点はこちらの記事もお読み頂きたいし、大西先生ご自身も、”発明が一番偉い”という表現でリスペクトを示されている。

 

 さて、自省の話に戻ると、TLOはおおよそ大学から委託を受けて動いているサービサーであり、大学はいわば顧客である。顧客がサービサーを選ぶのは当然のことで、選んでもらうにはそのための理由・強みが必要である。

(実績を出していたTLO)に共通する強みはマーケティング力の高さ(一部補足)

大西晋嗣(2017), 関西 TLO の目指す産学連携, 産学連携学Vol.13, No.2, 2017

との記載がある。
 一方で、有望案件は大学が差配するとのことだが、マーケティング力が各案件に効いているのなら、有望案件だろうと何だろうとTLOに委託されるはずではないのか。その案件が事業化される可能性や収入を高めることを期待して。
 直球で言うと、こと有望案件については誰がやっても同じだという判断がされている、即ちマーケティング力が強みとは見られていないということではないか。有望でない案件で実績が立てられていないなら尚更マーケティング力を示せていないとも言える(実際にはかなり難しいのだが)。
 マーケティング力に強みがあり、大学がそれを認めるならば委託されるというのが市場原理ではないかと思う。そもそも、各TLOがそれぞれに強みを持ち、それがマーケティング力の点で重なっているのなら、TLO間で競争がないことにも違和感がある。各TLOは競合他社であり、自TLOをマーケティングして多数の大学から委託を勝ち取る形が自然に感じる。しかし今は?広域TLOであっても、地域で住み分けるという非常に前時代的な体制ではないだろうか。もちろん、承認事業であるからという手続論や、仮に競争市場が出来ても、大学にそもそもTLOを比較選定する能力が無いといった問題はあるのだろうが。
 さらに外に目を向けると、TLO業界以外でも技術マーケティングを得意とする会社は山のように存在する。承認制や大学からの出資による優位性を仮に考えず、彼らがTLO業に参入して来る世界を考えたとき、本当に彼らと戦えるか?

 そして、これは何もTLOという企業体レベルの話だけではなく、各TLO担当アソシエイトにも言えることだ。マーケティング力の源泉は我々アソシエイトではないのか。本当に個人として他業界にいる優秀なマーケーター、特に技術マーケターと戦えるのか。マーケティング力がもし大学=顧客から買われていないのであれば、それは我々アソシエイトの責任ではないのか。

(東大TLOの)山本社長から教えて頂いた言葉が今でも印象に残っている。「1つの案件に対して50~60社に営業したくらいから、本当のマーケティング力が付いてくる.」と. その通りであった.(一部補足)

大西晋嗣(2017), 関西 TLO の目指す産学連携, 産学連携学Vol.13, No.2, 2017

 本当にやってるアソシエイトがどれだけいるだろうか。懺悔しよう。私自身も全案件に対してこれは出来ていない。優先順位なんて言い訳でしかない。時間があってさえやっていないものもある。そもそも「本当のマーケティング力」がつく、と偉大な先人がおっしゃっているのに、優先順位が~なんて呑気なことを言っている場合か。
 発明者とコミュニケーションし、最先端の技術内容を理解し、事業化計画を練って営業してライセンス締結するというのは、異能である!という(し、これには私も賛成だ)が、本当にそこに自信はあるか?単に巷にそう言われていることを受け売りしているだけで、まったく当てはまっていなかったり、嚙み砕けていないのではないか?50~60社への営業を単にこなすだけでなく、ちゃんと頭を使って活動してオリジナリティを発揮出来ているか。先人の真似をして先人のコピーのような人材になっても意味がない。


ここまで書いて、自分でも言いたいことが分かってきた。
TLOのアソシエイトよ、もっと頑張れ。甘ったれるな。研鑽しろ。
ということだった。

以上。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?