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宝石

昔わたしは宝石屋さんでアルバイトをしていた。
18歳から20歳にかけての2年間。
近所の商店街にある小さなジュエリーショップで職人をしていた。

その頃の私は何をしていたかな。ちょっと思い出してみようかな。
バスに乗って電車の乗り換えをして専門学校に通っていたな。
友達はそんなにいなかったけど、信頼できる先生がいてその先生といろんな話をしたり、学ぶってことが好きだったな。
恋人との関係に悩んでいる友達に優しくできなくて、その子が学校をやめてしまったのはとても寂しかったな。
資格を取るため、就職をするための学校なのに周りの人の就職先なんて知らないまま卒業をした。
わたしは2年間学んだことのおかげで就きたい仕事に就くことができた。
就職が決まった時ジュエリーショップのパートさんたちに口紅を頂いた。
そんな光景を思い出す。

先日上野の科学博物館に「宝石展」を見に行った。

宝石の原石がゴロゴロこれでもかと飾られていた。
ジュエリーショップでバイトしていた時、主に取り扱っていたトルマリン。ご婦人方がこぞってブレスレット・ネックレス・めがねチェーンにしていたあのトルマリン。
まさか宝石店でショーケースの中に飾られた姿を見るなんて。
ほかにもあの頃私がひたすらネックレスに加工した宝石たちがショーケースの中で輝いていた。

宝石展には母と出かけた。何年振りかの遠出で、母はカレンダーの端っこに「宝石展」と鉛筆で書き込むほど楽しみにしてくれていたようだ。
わたしたち親子はそこそこ気が合う。私がなんとなく思っていることが伝わる。たぶん似てるんだと思う。
宝石を見ても値段に例えることなどせず「すごいね」としか感想を言わないのも私たちらしい。
宝石展を見た後私たちは特に感想も言わず、科学博物館のミュージアムショップに入った。
宝石展には関係のない靴下を手に取る。
ミジンコと忠犬ハチ公は私の靴下。
それを見ていた母が私に靴下を手渡す。
「セロトニン ~幸せのホルモン~」
母の選択はいつも少し愉快だ。


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