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断熱改修ってホントにする価値あるの?

高気密高断熱の新築住宅が浸透してきて、断熱の補助金も手厚くなっている昨今、今住んでいる家やこれから買う中古住宅で断熱改修やってみようかなと考えている人も多いのではないでしょうか。

それはまぁ高性能の住宅に住めるなら、それに越したことはないけど、費用や改修にかかる諸々の手間を考えると、そこまでして断熱改修する価値あるの?というのは、率直な疑問だと思います。

ぼくはこれまでの人生で、年間を通して過ごしたことのある住宅が、高校生以降に限っても10軒以上あります。それゆえ、住宅の過ごしやすさに関しては、住宅建築のプロとしての知識と、体感に基づいた知見の両方を有しているものと自認しています。

特に、自ら設計を手掛けてしっかり断熱改修した一つ前の自宅と、それを売却して引っ越してきた今の自宅の違いがとても顕著なので、今回の記事を書こうと思い至りました。

結論から言うと、ぼくの意見は断熱改修する価値は大あり!絶対やった方がいいし、やってる家に住みたい(早く引っ越したい)!!です。笑

とは言え、こんな主観的な感想だけで話が終わってしまうのではあまり意味がないので、もう少し客観的に説明を試みようと思います。


比較条件の整理

まず、前提条件ですが、「断熱」と「無断熱」の違いを比較するためには、「断熱以外」の要素にも注意を払う必要があります。

例えば、木材は断熱性が高い材料ですが、木材だけで作られていてもそれが隙間だらけの(=気密性が低い)住宅だったなら、断熱性が高いことにはさして意味がありません(だから高断熱と高気密はセットで語られます)。

仮にRC造(=気密性が高い)という条件が同じでも、「周りすべてが外部である戸建住宅」と、「上下左右に隣戸があり2方向でしか外部に接しないマンション住戸」とでは、外部から受ける影響の違いが強すぎてこれもまた比較がむずかしい。

その点で、ぼくの一つ前の家(断熱改修されたRC造マンション)と、今の家(無断熱のRC造マンション)は、条件がそれなりに揃っているので比較がしやすいんです。

さて、その2つの住居の詳細を見てみましょう。

まず、断熱改修されたRC造マンション。約70㎡の広さで、南・東・北面の3方向が外部に接しており、それら外部に接する面すべてに断熱材を付加しました。また、窓面はすべて、既存窓(アルミサッシに単板ガラス)に加えて、複層ガラスの木製内窓を設け、二重窓としました。鉄製の玄関扉部分にも、木製の内扉を設ける徹底ぶりです。

前の家(改修前)。アルミサッシに単板ガラスという一般的な仕様。
前の家(改修後)。既存窓の内側に木製窓を設けて二重窓に。

無断熱のRC造マンションは、約44㎡の広さで、南・東・西面の3方向が外部に接しており、断熱材は無し。前者よりも窓の数が多く、すべてアルミサッシに単板ガラス。典型的な築古物件です。

今の家。左手前にもう一つ部屋があり、各部屋に大きな南向きの窓あり。

ちなみに、断熱なしで、アルミサッシに単板ガラスという仕様は、底辺ランクではあるものの、すべての賃貸住宅はほぼ例外なく同様のスペックです。分譲住宅であっても、築20年くらいの比較的築浅のものであれば、もう少しだけスペック上がってるかなという程度。

こうした条件の元、体感・電気代・健康寿命という観点から掘り下げていこうと思います。

体感でどう違う?

後者の無断熱の家(今の家)には4月末から住み始めたので、まだ2か月半しか住んでない上に、真夏も真冬も経験してないんですが笑、それでも違いをめちゃくちゃ感じています。

一番大きなのは、単板ガラスの窓面からの熱の入り方が尋常じゃないということ。直射が当たっていなくても、ガラスに近寄ると、じりじりと熱波を感じます。さらに、鉄製の玄関扉は西面にあるのですが、夕方の西日を浴びる時間になると、ドアから1mくらいの距離まで近づくと、むわぁぁあっという熱気が。。そして、それらがサウナの熱反射板のように部屋全体を温めていきます。外から帰ってきたときも、部屋の中が蒸された状態になっています。

この数日は特に暑く、エアコンはドライ運転では間に合わなくなってきて、冷房運転26℃設定でかけっぱなしにしてるのですが、それでも昼間は効きが悪いと感じます。使っていない部屋の扉は閉めて、エアコンをかけている面積は35㎡程度になっているのに、です。

一方で、断熱改修を施した家はどうだったかと言うと、エアコン1台のドライ運転で70㎡の家全体を快適な状態にキープできていました。

たまに終日外出する際などにはエアコンを切って出かけていましたが、それでも外から帰ってくると、涼しいなぁと感じたものでした。洞窟の中のようにひんやりしているんです。逆に冬はホッとする暖かさ。魔法瓶のように一定の温度を保ってくれていました。

今の家で寒い時期を過ごしていないので、冬期についてはまだ何の比較できませんが、断熱された家では、訪問客には毎回「エアコンつけてないのにこの暖かさなの?」と驚かれたものでした。今の家は、絶対に寒い自信がある、、今からおそろしいので、寒さに弱い身としては冬が到来する前に断熱された家に引っ越したいものです。断熱面以外はかなり気に入っている家なんですが、一度あの快適さを知ってしまうと、もう断熱なしは耐えがたいですね、、

今の家。ガラス面からの熱の出入りが体感でわかるほど激しい。

電気代はホントに安くなる?

国の立場としては、断熱すると電気使用量が減って(=温室効果ガスが削減できて)エコですよという観点で補助金事業を推し進めているわけですが、実際のところはどうなんでしょうか。

今の家(無断熱)は、まだ5月分までしか電気代が出てきていないので比較はできないのですが、前の家(断熱)の伝票を残してあります。当時、実験の意味も込めて、8月は夜中も含めて四六時中エアコンをつけた状態にしてみましたが、その一カ月の電気使用量は208kWh。

断熱された家で、四六時中エアコンをつけていた8月の電気使用量

下の表は統計による平均電気使用量のグラフですが、集合住宅の一人世帯の月平均が186kWhです。一般的に8月の使用料は月平均値を大きく上回ることと、一人暮らしだと30㎡前後の家であることが多いのに対し、ぼくの家が70㎡であったことを考慮すると、ほぼほぼ在宅しているのに208kWhというのは、かなり抑えられていると言えるのではないでしょうか。

出典:東京都環境局|東京都家庭エネルギー消費動向実態調査

断熱改修が電気代の抑制に有効であることを実証できているように思いますし、なにより、電気代を気にすることなく、まったく我慢せず快適に過ごせているのに電気代も安いというのが良い。

電気代削減を目的として断熱改修するのなら、改修費を取り戻すのに何十年かかるんだってことになりますが、電気代の削減は快適に暮らせることの副産物であると捉えると、満足度は爆上りです。

断熱改修で寿命が延びる?

最後に、嬉しい誤算。健康寿命の観点からも話をしておきます。ここは意外と盲点というか、あまり語られない視点かと思います。

日本の高齢者は、ヒートショックで亡くなる方の数が、交通事故で亡くなる方の2倍である、という数字も出ています。ヒートショックとは、脱衣所とお風呂の中との温度差が大きいことで起きる事故で、断熱された住宅ではこのリスクはうんと下がります。

また、日本建築学会の2014年の研究によると、断熱性能の低い住宅に住む高齢者は、断熱性能の高い住宅に住む高齢者と比較して、以下のような健康上の問題が多く見られました。

・高血圧の発症リスクが約2倍
・糖尿病の発症リスクが約1.8倍
・脳卒中の発症リスクが約2.2倍

また、ニュージーランドのオタゴ大学が2007年に行った研究では、断熱改修を行った住宅の居住者と、改修を行っていない住宅の居住者を比較し、以下のような結果を得ました。

・断熱改修を行った住宅の居住者は、自己申告による健康状態が改善
・仕事や学校を病気で休む日数が43%減少
・病院への入院率が減少

これらの研究結果が示すように、住宅を断熱するということは、高齢者の健康はもちろん、若年者の健康寿命を延ばすことにも効果があるようです。慢性的に続くストレスが病気につながりやすいということは、その他の多くの研究でも示されているところです。こうした結果を見てしまうと、もう断熱改修する他ないですね。笑

記事とは関係ないですが、ひさしぶりに和室のある家。良さを再発見。

賃貸住宅にも断熱を

少し話はそれますが、断熱が施された賃貸住宅って、現状、日本では皆無ですよね。断熱改修は目に見えてこない部分なので、かかった費用を賃貸価格に反映しきれない(=費用を回収できない)という事情があるんだと思いますが、個人的にはここに突っ込んでいきたいなと思ってます。

今のぼくのように、必ずしも自分で購入した家に住みたいわけじゃないけど、断熱された家に住みたいって人は実は結構いると思うんです。だから、価格に反映しにくいと言い訳して二の足を踏んでいるのでなく、「断熱改修された賃貸物件」というのを自分で手掛けてみようかと考えています。供給がほぼゼロなだけに、多少割高でも住んでくれる人はいるんじゃないかな。少なくともぼくは、ちょっと家賃高くても涼しくて暖かい家に住みたい欲がかなり高まってます。

自分がほしいものが世の中にないなら自分でつくる。それが社会を一歩進めるし、ビジネスチャンスにもなるんだ。

なんて、最後は脱線してしまいましたが、断熱改修する価値があるのかどうかという今回のテーマ、結論は「迷ってるならとっととやるべし!」ということで。

次回は断熱改修の選択肢や費用面について書いてみようかな。いつになることやらという感じではありますが、楽しみにお待ちいただければ幸いです。

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