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零細起業の経営実務(20) ゼロベース思考

起業を考えている研究者さんに、リーゾの経験をお伝えするシリーズです。
今回は、簡単なようで意外と難しい、でも起業に限らずいろいろな場面で役にたつ、『ゼロベース思考』についてお話しします。

たとえば、あなたが会社員で、年収が300万円だったとして、それを1000万円に増やしたいなあと思ったとします(誰でも思いますよね!)。

どうしたらそれを実現できるでしょうか。
現在の状況から考えると、出てくるアイデアは、

・残業を増やす
・昇進を目指す
・アルバイトをする

などでしょうか。
が、いずれも収入を1割から2割程度増やす効果はあるでしょうが、1000万円を目指すのは難しそうではないでしょうか。ここで「無理!」という結論になってしまうことが多いと思います。

そこで、現在の状況は白紙(ゼロ)にして、「どうなりたいか」=理想像だけを設定して、現状と理想のギャップを段階的に埋めていく現実的な手段を考えていくことにします。すると、

・公認会計士の資格を取って、大手監査法人に転職する
・営業スキルを身につけ、歩合制の営業職に移る
・社内でシステムや経理の部門に異動、専門知識を得た上でコンサルティング会社に転職する
・事業計画を立て、経営について学び、起業を目指す

このように、がんばれば実現可能な道が見えてきます。険しそうな道ですが、少なくとも不可能ではなくなりました。

この考え方は、現在の状況をゼロにして考えることから「ゼロベース思考」、言い換えれば、「現状(As is)じゃなくてなりたい未来(To be)をベースに考えましょう」、ということです。

さて、リーゾの起業時にはどうだったかという話です(またかよ!と思われそうですが・・・)。

私の場合、不慮の失業で、職場と収入だけでなく、大好きな実験の場も失ってしまったことから、この先どうするかという思考が始まりました。
幼児の子育てと両立できる、経験を生かせる、やりがいがある、など希望の条件を言いだせば非常に難しいものの、他社に就職する、ポスドクをやる、専業主婦になる、など様々な選択肢が目の前にありました。

これってまさに「ゼロベース」!

当時、やり場のない怒りと絶望感で、心の中はヘドロのような状態でしたが、失うものは何もないと気づいたときに、本当にやりたいこと、なりたい状態( =To be)が、ヘドロの上にほわほわと浮かび上がってきました。

まあそれが、収入は置いておいて、できる範囲でラボもどきを作り、大好きな実験をしよう、新しいお米の育種を目指そう、ってことだったわけです。

良いほうに考えれば、強制的に「ゼロベース」で思考ができたおかげで、今があるのだといえるかもしれません。前職場が無事であれば、環境も収入も万全な状態を捨ててまで、リーゾを起業しようなんて絶対に思わなかったでしょう。もちろん、その未来でも十分幸せだったはずですが、起業したことで得られたことの大きさを思うと、あのとき全てを失った(と感じた)おかげだったんだと、運命に感謝したい気持ちです。

話がそれましたが、読者の皆さんの多くは、幸せな現状をお持ちのことでしょう。でも、さらに理想の未来を考えるとき、その現状が妨げになることがあるということを、覚えておいていただきたいのです。現状をベースに考えた未来はどうしても制限が多く、視野が狭く、飛躍に乏しくなるものです。

現状をゼロとする=積み上げてきた全てを失うことは、非常な苦痛を伴うものですが(経験したのでわかります!)、頭の中でのシミュレーションとしてなら、多少の精神的苦痛はあっても実害はありません。

人生のどの段階でも、例えば進学先を考える高校生から、定年後の暮らしを考えるシニアまで、「自分はほんとうはこうなりたい」ということをゼロベースで自由に思考することで、自分でも気づかない力を発揮でき、思いもしなかった未来が開けることもあると思います。

(この思考法は、企業のコンサルティングにも使われる手法で、ネットで「As is/To be」「ギャップ思考法」で検索すると、関連の情報がたくさん出てきます。)

(2016年10月5日配信のすいすい通信より)

「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html

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