#52 暑い日、君も炭酸を飲んでるのかな【note投稿企画】
小さな子供は大人にあこがれていろいろなことをするものだ。俺も例外ではない。ビールを飲む父親の横で、ペットボトルのお茶をぶんぶん振り回し、「ほら、ビールだよ」と言ってみせて怒られたりした。子どもの飲むものなんか決まっている、お茶か牛乳、そんなところだろう、でも、家族のだれかの誕生日とか、特別な日だと、ジンジャーエールとか、レモンサイダーとかを母が準備してくれていたりする。子どもにとってビールに相当するもの、そう。炭酸の飲み物。独特な喉越しが、特別感をもたらしてくれる。
夏の暑い日、俺が二十歳なりたてくらいのころだったと思う、バイト先の女の子と街に出かけた。デートと呼べるものだったかはわからない。夕方だったけど、女の子の方が二十歳になっていなかったから、お酒は飲まなかった。店に入って、俺はコーヒーを頼んだけど、その子が選んだのはなにか柑橘系のサイダーだった。
「炭酸好きなの?」
こんなの話が続かないのは火を見るよりも明らかだ。でも店に入る前も三ツ矢サイダーW?っていう炭酸のペットボトル持ってたしまあいいだろう。
「ああ、そうなんだよね」
俺はどう相槌を打てばいいかわからず、心臓の鼓動の音と彼女の炭酸が弾ける音が俺の耳元でいい勝負をしていた。どうしようと思っていると、
「炭酸ってさ」
「うん」
焦ったか俺は食い気味に返事をしてしまった。ちょっとびっくりした様子の彼女、でも話を続けてくれた。
「おなかにたまるよね」
ひねりだしてくれたんだと思った。二人になると緊張してしまうのを、時間はなかなか解決してくれない。
「なに、飲み切らない?」
「そういうことじゃなくて」
そりゃそう。俺はいったんコーヒーに逃げる。
「おなかにたまるから、あまりのまなくていいじゃん。」
ん?
「少しの量で満足できて、いいなあって」
いつもなら『何が?』とか言っちゃったかもしれない。まあ好き補正もかかっていたのだろうが、俺のなかの建築家は睡眠中だったようだ。言葉にならない、これが、『なんか、いい』ということなのか。
「なんかそれすごく素敵だな。」
「え、何が?笑」
逆に言われてしまった。
東京は連日猛暑日。40℃以上の「酷暑日」とか設けるべきじゃないなんて考えるが、自販機で飲み物を求めることが増えた。
「ごめん、一瞬水買ってきていい?」
一緒にいる友達にきいて言って自販機に向かって種類をみる。
三ツ矢サイダーシルバー?新しいやつかな?
そのボタンを押し、だれに見せるでもなくウォッチのSuicaをあてて購入。
暑いね、今日も君は炭酸のんでるの?
実体験をフィクションで割っておつくりした文章です。レギュレーション違反だったらごめんなさい~
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