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モトヤフ瀧 知惠美さんインタビュー

今回のモトヤフインタビュー第23回は、ヤフーでデザイン思考、UX(User Experience)デザインなど人間中心デザインをベースとしたワークショップ開催や各サービスでの実践サポートなどを行い、UXデザインの全社普及活動に従事された瀧知惠美さんにインタビューさせていただきました。

瀧さんはヤフー在籍中の2016年からは、東京藝術大学大学院に通いながらデザインの実践と研究に取り組まれ、現在は株式会社MIMIGURIの Experience DesignerとしてUXデザイン・サービスデザインをはじめとする事業開発を中心に担当。よりよいユーザー体験につながるモノ・コトを生み出すために、つくり手の体験も重要と考え、事業開発と組織開発の組み合わせ方を実践と研究の両軸を重視しながら探究されています。

-2009年に新卒で入社されたとのことですが、ヤフーでのお仕事内容を教えて下さい。

2009年に多摩美術大学の情報デザイン学科情報デザインコースを卒業し同年4月にヤフーに新卒入社。Yahoo!きっずやYahoo!ボランティアなどの社会貢献系のサービスのデザイン全般をやっていました。Yahoo!きっずの「今日は何の日」のページのリニューアルは初めてUI設計を任せてもらえた開発案件でした。制約はありましたが、その制約の中で最大限ユーザーにとってより良い形を自分なりに考えてデザインできた感覚がありました。

2年目くらいからUIを中心にやるように。広告入稿ツールや社内ツールのインタラクションデザインなどをやるようにもなりました。少し使い方が複雑なツールだったので、そのあたりから、どんな人たちがどんな状況で使うのだろう?どんな体験ができたら嬉しいのだろう?などUX領域も深く考えるようになりました。業務ツールのUIデザインをするためには、まずその業務を理解しなければなりません。インターネット広告の仕組みや広告運用の業務内容など専門用語を理解することから始まり、社内用語を覚えないとミーティングにもついていけないという状況からのスタートだったので最初は苦労しました。

新卒3、4年目には、業務ツール系のデザイナー主導の新規案件でデザインチームのリード役をやらせてもらいました。またこの頃はこれとは別に母校の多摩美術大学(須永剛司先生)とヤフーの共同研究で「コトづくりの方法論」がテーマの研究プロジェクトにも関わる機会がありました。私が学部時代に学んできた自分たちの経験を作文すること(体験作文)や、考えたアイデアを実際に使う環境で体験してみること(アクティングアウト)を通じて、コンセプトを見出し、プロダクトに落とし込んでいくアプローチで、これをWebサービス開発の現場へ適用するにはどうしたらよいかを検討していくプロジェクトでした。

5年目のときに、広告の部署でUXデザインチームが出来、リーダーをやることになりました。ちょうどそのころは、UXデザインというワードが広まり始め、社内外で注目を浴びてきたころだったので、社外のデザイン思考のワークショップに自分自身が参加したのをきっかけに、ヤフー社内でもデザイン思考やUXデザインの普及活動の一環として、様々なプロジェクトに入って、ユーザー視点のものづくりの方法をサポートしたり、社内でワークショップやセミナーを開催したりするようになりました。またUI/UX黒帯インターンの開催では飯島さんも参加してくれましたね。
(※飯島さんは本日のインタビュアーです。)

そしてこの頃は様々な外部イベントにも登壇しました。一番はじめのきっかけは2014年5月にSchooで実施したUXデザインの講座だったかと思います。またヤフーのデザイナー数人と一緒に「一人から始めるユーザーエクスペリエンス」の翻訳をして出版するに至りました。社内で読書会を実施するなどしてUXの理解浸透のためにも活用していました。

2016年からは働きながら大学院(東京藝術大学)でも研究活動をスタートしました。研究には大学院に行く前から興味を持っていて、学会に参加したりしていたのですが、デザインの研究をしっかり学びたい、自分なりのデザインの実践と研究への取り組み方を身につけたいと思い、自分が仕事で行うことを題材に研究に取り組みました。具体的には「チームづくりのためのふり返りの対話の方法と方法論の研究」というテーマで研究をしていました。

修了制作展示

↑大学院の修了制作展示

チームでふり返りを行うやり方について自分でこうやるとよいのではないかと仮説を立て、実際にチームでふり返りをやってみて、やってみたあとにそこで起きたことは一体なんだったのかを考察し、関連ありそうな理論を参照するということを繰り返すやり方で研究を進めていました。最初に論文をたくさん読むよりも、まず自分の仮説をもとにやってみる進め方の方が、自分の実践と研究を一体のものとして取り組むスタイルにあっていそうだということがわかってきました。

ヤフーでの自分のUXデザインの推進活動においても、チームづくりなど組織づくりも合わせて取り組みながら、UXデザインを組織で活用していくことが大事だという話を、ミドルマネジメント層の人たちとも話すことが増えていきました。

-改めて、UI/UXについて教えて下さい。

思い出しながら語ると、私がヤフーに入社した頃は、まだユーザーニーズを把握した上でサービスをつくろうという形でプロジェクトが始まることは少なく、ビジネス戦略起点や技術起点で始まるプロジェクトが多かったように思います。

それに対し、一人のデザイナーとして、どんな人たちが使うのか、彼らはどんな体験ができたら嬉しいのか、そのためにどのようなサービスが必要なのか、ここから考えないとどんなデザインがいいか決められないと感じていました。なので、ユーザーの課題やニーズを捉えることが必要で、デザイン思考やUXデザインの方法論を活用していきました。でも一番難しいのは、ユーザーが何を欲しがっているのかユーザー自身もわかっていないところかもしれません。

-広告のチームだと、クライアントというユーザーがいるのかなと思いますがダイレクトにユーザーにインタビューしたりする機会もありましたか?

ユーザーにとって本質的に何が大事かを理解するという意味では、広告事業部でユーザーとして大きな割合を占めていたのが、広告を入稿したり日々広告運用を行う代理店の方でした。そこで、営業担当の方に同行させてもらって代理店の方にお話を伺ったりしていました。また、営業チーム自体でも代理店向けアンケートを定期的に実施していたので、その内容を一緒に作成してユーザーの課題やニーズを捉えるために役立てる取り組みをしたこともあります。

-私の個人的な体験なのですが、某社のスマートウオッチを利用しているもののうまく使いこなせず、ほぼ時計としての利用のみとなっています。本当は自転車の走行距離などを記録できるかなり高機能製品なのですが説明書を読んでもよくわかりません。でも使いこなせないのは自分の問題だったのかなあと。このように高機能な製品やサービスを利用できないのは、果たして本人が悪いのかというのを、UXエキスパートの瀧さんに伺いたいです。

分かりやすい使い方のガイドがあることでより使いこなせるようになるか、使っていない機能があるのはそもそも今使っている機能だけで十分生活には事足りているので無理に使う必要はないのか、という2つの視点はありますが、実際に良く出来ているプロダクトというのは、使ってみると自然と利用シーンがわかり、使い方のガイドも適切なタイミングでアクセスできような設計になっているため、使っているうちに十分に使いこなせるようになっていくと思います。

-ヤフーで黒帯をやっていたと伺ったのですが、黒帯制度ってコンテストみたいな感じですか?

私のときは自薦か他薦で応募し、その後実績ややりたいことを提出し、いくつか面談をはさみ、最終的にはCTOとの面談で決まるシステムでした。
黒帯になると、社内・社外向けに啓蒙活動してくださいね、という形でした。
(事務局注:ヤフーでは2012年より、エンジニアとデザイナーの才能と情熱を解き放つため、「ある分野に突出した知識とスキルを持っているその分野の第一人者」に新たな活躍の場を提供する施策として「黒帯制度」を導入しています。黒帯の任期は1年間で、全社員のわずか1%で、まさにスペシャリストといえます。)

-UXデザインは資格だけでは図りにくい能力かなと思うのですが、UXデザイナーの採用などはどう見ていますか?

今MIMIGURIでUXデザイナー系の採用を見ています。UXデザインの実績を履歴書に書かれている方も多いですが、プロジェクトの中で実際どのような役割を担い、どのような試行錯誤をしてきたのかなど、具体的な動き方をきちんと聞くようにしています。

UXデザイナーに求めるものは、会社によって違うと思いますが、私はユーザーインタビューやユーザビリティテストをするといったUXリサーチをするだけに止まらず、リサーチをするにしても、そのプロジェクトにとって今何をリサーチすべきか、リサーチ結果をどこにどう活かすのかなど、プロジェクト全体の視野でものごとを捉え、自分の役割範囲に限定せず、関係者と積極的にコミュニケーションを取りながら、プロジェクトが前に進むために必要なことに取り組んでいく姿勢が大事だと考えています。

MIMIGURIは、事業開発や組織開発、人材育成など組織の課題に対して複合的にアプローチしていくことが多いため、全体性を大事にする姿勢はMIMIGURIでUXデザインに関わる上でも重要な視点だと思っています。

-ヤフーで学んだことはどんなことでしたか。また辞めたから分かるヤフーの良さというものはありますか?

気軽にできそうな小さいことからやってみようとすると、社内で仲間も集めやすく、いろんなことが試せるし、そこから次に何をやったらいいかが見えてくる。小さく試すことを繰り返すことで、徐々に成果に繋げていけるということを学びました。
ヤフーの良さとしては、社内にいろんな専門性、個性を持った人たちがいる。社内で人脈づくりができるのに最適な環境だと思います。

-ネクストキャリアを選んだ決め手は何ですか?

ヤフー在籍中からデザインの研究に関心をもって、ヤフー在籍中に大学院(東京藝術大学)にも通いましたが、よりデザインの実践と研究を一体のものとしてやっていきたいと思い、理論的基盤を大事にして広義のデザインに取り組んでいたMIMIGURI(転職当時は「ミミクリデザイン」)への転職を決めました。

-現在のお仕事は具体的にどんな内容でしょうか?

MIMIGURIに移ってから最初は自社サービスとして運営している学習メディアCULTIBASE(カルティベース)のリニューアルにおけるサービスデザインを担当しました。CULTIBASEは、創造的な組織や事業を作るための記事やPodcastを発信する学習プラットフォームです。有料会員であれば、動画コンテンツを視聴したり、週1回開催されるライブイベントに参加したりすることもできます。

今のメイン業務としては、クライアントワークで企業の新規事業開発プロジェクトやデザインを組織で活かすための人材育成関連のプロジェクトなどを担当しています。

その他にも、MIMIGURI社内でリフレクションを実施して暗黙知を表出化させ、一人ひとりのメンバーが持つ実践知を組織内で活用、発展させていけるような、知の循環を回していく取り組みもやり始めています。その活動を実践しながらリフレクションの方法論の研究をしたりしています。実はMIMIGURIは、2022年の3月に研究機関認定を受けていて、企業なんですけど研究もする、というちょっと面白いところです。

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↑日本デザイン学会第69回春季研究発表大会で行った実践研究発表

-現在の仕事の面白いところや素晴らしいところを教えて下さい。

MIMIGURIは日常業務のなかで学びを重視しているメンバーが多く、社内にナレッジが溢れているので、日々刺激になります。自分が探究したいテーマに対しても、興味をもってくれるメンバーも多く、日々社内でコミュニケーションとっているだけでも多くの発見があり、探究したいことが進む感覚を得られるのが面白いです 。

-コロナで変わったことはありますか?

仕事はほぼ在宅ワークになり、MIMIGURIで地方へ移住したりするメンバーもいますが、オンラインでもコミュニケーションの取りにくさをあまり感じないので、対面で初めて会っても違和感なさすぎて、会うの初めてでしたっけ?みたいな不思議な感覚になったりします。

-ライフワークは何でしょうか?

デザイナーのデザインの仕事に役立つようなデザイン研究に取り組むことで、より価値の高いデザインの仕事ができるようにしていきたいです。
デザインの実践と研究を一体のものとして体現していきたい、というのが私の中長期的な目標です。実践と研究を一体のものにするあり方自体がどういうものなのか、自分でやってみながら探究しています。

-モトヤフ、イマヤフ、読者に伝えたいメッセージをお願いします。

ヤフーを離れて2年以上経ちますが、今ふり返ってみても、ヤフーにいた10年は毎年のように変化があり、さまざまなチャレンジ、経験ができました。私の今のキャリア、課題意識もヤフーで得た経験がもとになっています。デザインの研究に興味があると言うと、デザイナーの中ではかなりレアキャラですが、私はデザイナーとしてデザイン実践をしながら研究に取り組むことで、デザイン実践もよりよくなっていく、デザイナーが組織の中でもっと活躍できるようになっていくと思って取り組んでいます。もし、デザインの研究にも興味があるというデザイナーの方(デザイナー以外の方もぜひ)がいたら、お話しましょう。

-本日は、貴重な話を伺わせていただき、ありがとうございました。

インタビュアー:川村英樹、飯島聡美


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