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『キリング・イヴ』 暗殺者と捜査官のレズビアンロマンス

「恋に落ちた」ドラマ

2018年にシーズン1がイギリスで放送当されてから、私が「恋に落ちた」と言っても過言ではないドラマがありました。

『キリング・イヴ』/ Killing Eve 。

まだ観てない方がいたら、全力でオススメします。

このドラマは、なんと!
Phoebe Mary Waller-Bridge (フィービー・ウォーラー=ブリッジ)が脚本を担当したのです。不安だらけなミレニアム世代女性の心の声を、過激だけど愛に溢れたコメディに昇華させた『Fleabag』の脚本、主演のフィービーです。
その彼女が脚本を担当したなれば、面白くないわけ、ない!


ジャンルレス・ジャンルミックス
(※エピソード1のネタバレ有り)

イギリスではSeries 1 (2018年11月〜)、Series 2 (2019年4月〜)放映されていました。このドラマの最大の魅力は、コメディ、スリラー、ドラマといった要素が全く新しいバランスで構成されているとこと。
それはもう「フィービーらしい」と形容してしまうほど、独特なトーンというかリズム感なのです。

ストーリーの基本はスパイ・犯罪を中心に進んでいきますが、
キャラクター描写や背景にちょくちょく笑いのネタを仕込んでいて、そのサジ加減が個人的には超・超・好みです。

一見全く正反対の人生を送っているように見えるふたりの女性が、実は裏と表の関係で繋がっているのがこのドラマの魅力です。

イヴ


MI5(英国保安局)で働くイヴ(韓国系カナダ人女優サンドラ・オー)。彼女には文句のつけようのない夫ニコもいて、ジョークを言い合える仲の良い同僚もいてそれなりに充実した生活を送っているわけです。 

一方、謎の国際的犯罪組織で暗殺者として活動する見返りに、パリで享楽的な生活を楽しむヴィラネル(イギリス人女優女ジョディ・コマー)。

ヴィラネル


このロシア訛りの英語がコミカルな働きをしていることが結構あります。役者のジョディーは実は訛りの強いリバプール出身。テレビ番組でリバプール訛りの英語話しててびっくりしました。

退屈であること、普通であること

シーズン1、2ともに「退屈」という言葉がよく登場します。

MI5(英国保安局)で働いているとは言っても、イヴの実際の仕事は事件の証人の護衛を手配する部署。犯罪学を大学で学んだイヴにしてみたら、ドラマのように殺人事件捜査の現場にいないことは、少し物足りないどころか、「退屈」だったのです。
シーズン1、エピソード1のオープニングに登場したウィーンでの殺人事件で生き残ったポーランド人女性の保護を担当することになったイヴ。犯行手口の概要を聞いて、暗殺者は女なのでは?と同僚で良き友人のビルと20ポンドの賭けをする。でもそれ以上に女が暗殺者という可能性に興奮するイヴ。
そこで業務違反に当たってしまうのをわかっていながら保護されているポーランド人女性の事情聴取に参加し、情報を集める。それを知った同僚ビルは「この仕事は退屈かも知れないけど、だからと言ってルールを無視していいわけじゃないだろう」と忠告する。

ビルの忠告通り、保護していたポーランド女性はヴィラネルに殺害されてしまった上に、警護人の犠牲も出してしまったイヴは違法捜査で上司に解雇されてしまう。落ち込むイヴに、ロシア捜査を担当しているMI6のキャロリンが極秘捜査チームにスカウトする。女暗殺者の捜査に関われることになったイヴ、自分でも気づかないうちに彼女の存在に惹かれていってしまうのです。

対し、ヴィラネルも自分を捜査している女性捜査官イヴに興味を持ち始め、彼女に積極的に接近していきます。

イヴアンドヴィラネル

そこから、イヴの退屈だけど平穏だった人生は崩壊し始めます。

シーズン1の終わりは、不思議な引力で惹かれ合う二人をありがちなレズビアン的関係に納めるのか?と思いきや、(それはそれで納得の)衝撃的結末を迎え、シーズン2に続くのです。

シーズン2でも、イヴはキャロリンの元で捜査官として活動していくことになります。そこでは「退屈」かも知れないけど自分を愛してくれる夫がいる「普通」の生活と自分を異常なほどに奮い立たせてくれるヴィラネルという存在・捜査との間で、もがきます。しかし、イヴはどんどん捜査にのめり込んでいってしまうのです。

シーズン2のエピソード6で印象に残ったイヴとヴィラネルのやりとりがあります。
家を出て行った夫のニコと連絡がつかず、思い詰めるイヴ。そこにヴィラネルがやってきて言います。

V: "He is too nice. He is too normal for you, you know that."
E: "Stop it."
V: "Why?" 
E: "Because... because you will never understand how much harder it is to be nice and normal and decent than it is to be like you"

V: "Like us, you mean."

E: "...."   

突き抜けた異常性を開放しているヴィラネルに惹かれるのは、イヴが同様の異常性を備えているからなのでしょうか。その異常性は「サイコ・パス」という形でこのドラマでは表現されます。

サイコパスである必要は全くないのですが、このイヴの台詞にドキリとする観客は結構多いのではないかと思います。

レズビアンとフェミニズム:突き抜けた女尊男卑

シーズン1では仄めかされていたヴとヴィラネル二人の関係、
シーズン2では関係がよりロマンス的に描かれていますが、その関係は一貫して、プラトニック。
シーズン2では、お互いが他の人と身体関係を持ち、お互いに嫉妬し合って、お互いの気持ちを確認し合うのです。
その関係性が異常か異常でないか、と言ったら「異常」なんですが・・・そこに何らかの合理性といか、なるほどなと思って観ている自分もいるわけです。

二人のレズビアン的関係を描く理由は、女性のエンパワーメント、という意味が大きいでしょう。
男なんていなくても、女たちは強かに生きていってる。
このドラマは気持ち良いくらいに男尊女卑ならぬ女尊男卑を貫いています。
その突き抜け方が極端なのでコメディとして笑ってしまえる。
イヴの夫、ニコが気の毒になってしまいます。
2020年の夏にシーズン3も観ましたが、ニコが、可哀相でならない・・・。
そしてシーズン2に登場するオックスフォード卒のプレイボーイ、ヒューゴにも同情します・・・。 ※訂正:オックスフォードではなく、ケンブリッジです!(設定では)


それでも。


身勝手で周りを振り回す主人公は、人生のお手本にはならないけれど、それが人間らしく魅力的でもあります。支配欲・所有欲・破壊欲など人間のどろどろしたダークな感情を描く作品は、どこか安心感にも似た感情を呼び起こします。「自分だけじゃなかった。」とハッとさせらるというか。


製作背景

厳密に言うとBBC America製作なので、そのためかカナダ人女優 Sandra Miju Oh がメインキャストの一人として器用されています。
プロフィールを見ると彼女は韓国人移民2世としてカナダで生まれ育ったとのこと。アジア系女性でメインキャラクターとして器用されるのって、稀というか初なのでは??
ダイバーシティ!というポリティカルコレクトネスの妙なイヤラシサも感じないわけではありませんが、同じアジア人として、メインキャストでアジア人を観れることは嬉しい。何より今回のこのドラマのキャラクターしてめちゃハマっています。
彼女はキャリアの長い女優さん。『トスカーナの休日』というラブコメで初めて見た記憶があります。偶然だけどこの映画でlesbianのキャラクターを演じていた・・・!(しかも妊婦)

日本ではどうやって観れる?

日本でどれくらい知名度、話題になっていたのか分からないのですがウィキペディアにはすでにキリング・イヴの日本語ページが作られていました。
そのページによるとWowWowで2019年2月と11月ころに放映されたようです。

その後また調べてみたら

WOWOWではシーズン3まで観られるみたいです。

動画配信サービスU-NEXT でシーズン1とシーズン2が観られますようです。

あとはTSUTAYAでDVDレンタルができるようです。オンライン配信のTSUTAYA TVでは検索結果が出てこなかったのでDVDレンタルのみでしょうか。


日本語字幕がどんな風になっているか気になります。
特にジョークの部分〜!

参考リンク:
https://www.bbc.co.uk/programmes/p06jy6gl 

この記事は私が管理しているAmeba blog 『イギリスで映画学』で公開した記事を元に編集・加筆して公開しています。

おまけ

ミラノで

↑ 2018年11月、イギリスでちょうどシーズン1が放送されていた頃、旅行で訪れたミラノの地下鉄で発見したポスター。嬉しくて思わずパシャリ。


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