2022年の音楽など
2022年は、音楽においてはとにかく良い作品がバンバン出た1年だったと振り返ってます。「割と毎日楽しいな」と感じていたのは、毎月素晴らしいリリースがあったことと無関係ではない。
ケンドリック・ラマーやビヨンセのビッグリリース。DOMi & JD BECKやMICHELLEのような新たな才能との出会い。ファンであるアーティストたちが渾身の新作を出すのも感動的だった。
忙しさに負けて、映画をたくさん観たり、仕事に関係ない本をゆっくり読んだりすることはあまりできなかったけれど、相変わらず音楽は日々聴いて、日々楽しんでいました。
ここにあげていないものの中にも素晴らしい作品がいっぱいあって、世の中には才能のある人が多すぎるな…、とんでもないな…、と圧倒されます。
◆2022年の30作品(アルバム)
1.DOMi & JD BECK / NOT TiGHT
10代から一流のミュージシャンと共演し、シルク・ソニックの作品に参加したことでも話題になったホープ、キーボードのドミ と、ドラムスのJD・ベック による2人組ジャズ・ユニットのデビュー作。はじめてYotubeで演奏する姿を見たその瞬間から「すごいのが出てきたな…」と思わせられたけど、作品としての完成度もすごかった…。JD・ベックのドラムスタイル、かっこよすぎますね。自分にとっては2022年いちばんの衝撃作でした。
2.Awich / Queendom
Awichにとって通算4作目、メジャー1作目でもある本作品は、悪い意味でのメジャーっぽさ皆無のゴリゴリのヒップホップ。語られる内容も相当気合入ってます。冒頭1曲目は、壮絶な自分史がそのまま作品として結晶化したかのよう。ヒップホップはどちらかというとトラックに惹かれることが多いのですが、Awichの場合は圧倒的に言葉にもっていかれます。
3.Rex Orange County / WHO CARES?
前作でアメリカでのブレイクを果たし、スターの仲間入りをしたRex Orange Countyの4作目。あらゆる批評メディアからこの作品がスルーされているのは、彼が今年性的暴行の疑いで起訴されたことが影響しているのか、どうなのか(彼は一貫して無罪を主張しており、12月の時点で起訴は取り下げられている)。ファンとしてはとても複雑で、こういうことがあると作品とどう向き合ってよいのかわからなくなるが、信じたい気持ちはある。作品は本当に素晴らしい。
4.ROSALIA / MOTOMAMI
2022年、最も耳に新しかった作品。ここ数年、スペイン語圏の音楽が世界を席巻しているけれど、フラメンコがベースにあるからなのか、Rosaliaの音楽はその中でもとりわけ異彩を放っている。teriyaki、hentai(なぜこの語なのか…)などの日本語が突然出てくる独特のミクスチャー感覚もおもしろい。saokoはアルバム冒頭で強烈な掴みをもった1曲。
5.七尾旅人 / Long Voyage
七尾旅人の作品はいつも社会を映している。社会の中で弱い立場に置かれる人たちにそっと寄り添う歌であり、普遍的なポップ・ソングでもある、七尾旅人はそういう作品を作ることができる。いや、普遍的なポップ・ソングというのは、そもそもそういうものではなかったか。コロナ禍における「フードレスキュー」の取り組みも注目されたが、そういう活動ともこの作品はつながっている。
6.Steve Lacy / Gemini Rights
Tiktokでのバズも影響してなのか、リード曲の「Bad Habit」は全米シングル・チャートで2週連続1位。「うそ…」と思ったものの、Stave Lacyの曲が売れるならばTiktokも捨てたもんじゃない。もともとはネオ・ソウル・ギターの文脈で聴いていたThe Internetのギタリストは、いまや超人気プロデューサー。この作品で、いよいよソロとしても大成。アルバムとしても最高だし、「Bad Habit」は2022年を代表する1曲では。
7.Alex G / God Save The Animals
フィラデルフィアを拠点に活動するシンガーソングライター/プロデューサーのアレックス・Gによる最新アルバム。なにもかもがいい。「Runner」の00:48、鳴らされるピアノで、この作品の録音のすばらしさに気づかされる。いい曲を、いい音で録る。それだけといえばそれだけなのかもしれないが、まちがいなく名作。
8.Tank and The Bangas / Red Balloon
ファンなので、作品が出るといつも「最高!」となってしまうTank and The Bangas。今年も先行配信曲がリリースされるたびに「最高!」と喜んできた先のこのアルバム。ソウル、ヒップホップ、ジャズ、R&Bの最良の部分を抽出するような今作は、前作よりも耳馴染みがよいポップな曲が並んでいる。最もライブを観てみたいグループ。
9.FKA Twigs / CAPRISONGS
2022年1月にリリースされた、FAK Twigs3枚目のアルバムは、出た瞬間に「これは年間ベストに入るやつだな…」と思わせられる快作だった。ザ・ウィークエンドとコラボしたリード曲「tears in the club」はもとより、コラボ曲全般がとてもよいです。個人的にはジョルジャ・スミスとアンノウン・Tをゲストに招いた「darjeeling」がお気に入り。ポップネスと前衛を絶妙なバランスで併せもっているのは、ロザリアにも共通する魅力。
10.Big Thief / Dragon New Warm Mountain Believe In You
現代のインディー・フォークの希望の星、Big Thiefの5作目。2021年の段階から先行配信されていた曲も素晴らしかったけれど、アルバム全体も期待を裏切らない内容でした。良曲が並ぶのは前提として、自然な録音を活かすものもあれば、不思議な音響が耳を引く曲、凝ったギター・サウンドを聴かせる曲など、全20曲2枚組の大作にもかかわらず飽きずに聴き通せる。「Simulation Swarm」のギターソロ、大好き。
ここからはさくっと書いていきます。
11.OMSB / ALONE
ミュージック・マガジンの国内ヒップ・ホップのランキングでは1位に選ばれてました。それも納得のクオリティ。ラップもトラックも最高です。「波の歌」も素晴らしいけど、個人的には「kingdom」が好きでした。
12.羊文学 / our hope
羊文学も、リリースのたびに「最高だ…」となるので、毎年選んでしまいます。でも、今作はまちがいなくキャリア・ハイを更新するアルバムとなったのでは。アニメ「平家物語」の主題歌「光るとき」もよかったけど、同じギターが鳴り続ける「くだらない」がベスト。歌の表現力がすごい。
13.MICHELLE / AFTER DINNER WE TALK DREAMS
2022年、最も「青春」を感じた作品がこちら。高校生、もしくは大学生だったら、この作品を1位に選ぶと思います。R&B~インディーポップな音を聴くと、Arlo Parksとツアーを回ったのも納得。 次の作品も聴きたい。
14.Beyonce / RENAISSANCE
2022年の最もすごいアルバムを客観的に選んだらこれになります。各メディアでも軒並み上位または1位でしたね。聴いてて圧倒されます。爆音で浴びるように聴いてみたい。
15.in the blue shirt / Park with a Pond
リリースを待ち望んでいた京都のトラック・メイカー、in the blue shirtの最新作。作者本人によるセルフ全曲解説を読んで聴くとまたおもしろい。歌はないけど記名性抜群で癖になります。
16.Loyle Carner / hugo
イギリスのラッパーの中で最も好きなLoyle Carner。今作でもジャズやソウルの影響を感じさせる曲が並び、バンドセットでのライブが観てみたくなる。
17.The 1975 / Being Funny In A Foreign Language
これまでのThe 1975作品でいちばん好きかもしれない。何か特別なことをしている感じはみじんもないのだけど、それゆえかシンプルに「バンドっていい!」と思わせてくれる。
18.Sampa the Great / As Above, So Below
アフリカはザンビア生まれ、オーストラリア在住の詩人、アーティストによるセカンド・アルバム。説明しにくいその独特なヒップホップは、同じくオーストラリアのハイエイタス・カイヨーテと並べると少し理解できるような気も。
19.Cisco Swank・Luke Titus / Some Things Take Time
ニューヨークとシカゴのマルチインストゥルメンタリストのコラボレーション作品。ピアノと細やかなドラムが心地よく、ラッパーのSabaが客演する2曲目が特に良い。
20.Kendrick Lamar / Mr.Morale & The Big Steppers
全世界が待ちわびた作品、というのはこういうものを言うのだ。また来日してほしい。
21.大石晴子 / 脈光
すごいシンガーソングライターが出てきた。優河の『言葉のない夜に』と本作が、今年の日本語ポップスを代表する1枚なのでは。
22.ROTH BART BARON / HOWL
ここ数年、毎年アルバムをリリースしているROTH BART BARON。創作意欲は尽きることがなく、毎作品そのクオリティも高くて驚かされる。デビュー直後からずっと観てきたバンドが活躍するのって、なんだかとても嬉しい。
23.Little Simz / NO THANK YOU
12月に入ってから突然リリースされた今作。前作とも地続きな壮大なトラックとキレのあるラップは健在。これからもっともっと聴きたい作品。
24.Ezra Collective / Where I'm Meant To Be
ロンドンのジャズ・シーンをリードするクインテットの2作目。ヒップホップをはじめ雑多な音楽ジャンルを取り込んで、ジャズ・ファン以外が聴いてもおもしろい。tiny desk concertでのライブも素晴らしい。
25.岡田拓郎 / Betsu No Jikan
音楽の豊饒さというか、積みあがった歴史のようなものを感じさせるのはなぜだろう。フリー・ジャズ~アンビエント的な音像でもあるが、そういった言葉だけでは捉えきれない音楽。
26.Snarky Puppy / Empire Central
作品よりライブが期待されるタイプのバンドだと思うけれど、ライブを楽しみに待つために作品もまた必要ということで。ジャズもロックも、ライブ・ミュージックのファンならば誰もが魅了されるはず。
27.Black Country, New Road / Ants From Up There
ボーカルの脱退という危機を経て、それでもたくましく活動を続けるBCNR。アンサンブルで聴かせる作品で、じわじわきます。室内楽的であり、パンク的でもある。
28.Danger Mouse・Black Thought / Cheat Codes
トップ・プロデューサーであるデンジャー・マウスとザ・ルーツのブラック・ソートによる、スーパーユニットととも言えるプロジェクトのアウトプット。他アーティストのヒップホップ作品と比べるとオールドスクールで、やはりこういうヒップホップも良い。
29.柴田聡子 / ぼちぼち銀河
これまでの作品よりも一段と楽曲・演奏のクオリティが上がった、柴田聡子の最新作。もちろんボーカルの跳躍、表現力もバックを支えるバンドに負けずに耳を引く。アコギでの弾き語りもいいけれど、バンドと共に聴きたい。
30.ゆうらん船 / MY REVOLUTION
前作の衝撃には及ばないものの、やっぱり日本の若いバンドの中では最高クラス。ライブは必ず作品の印象を上回ってくる、いま最も楽しみなバンド。本作と最近のライブで、ロックバンドとしてのイメージを強くした。
次点 . black midi / Hellfire
今年リリースしたキング・クリムゾン「21st Century Schizoid Man」のカバーによって、このバンドの独特な立ち位置と個性を知ることになった。オリジナル作品も出色の出来。
今年はシングル / EPにも好きな作品が多かったので、そちらも少しだけ紹介します。
◆2022年の10曲(シングル・EP)
1.Ethan Gruska, Bon Iver / So Unimportant
カナダのシンガーソングライター、マルチインストゥルメンタリスト、Ethan Gruskaと、言わずと知れたBon Iverによる、インディー・フォーク最良のコラボレーション。アルバムもつくってほしい。
2.Daniel Caesar, BADBADNOTGOOD / Please Do Not Learn
とにかくBADBADNOTGOODが好きで見つけ、繰り返し聴いたこの曲。Daniel CaesarはFKA Twigsのアルバムにも参加していて、そっちの曲も素晴らしかった。
3.Hard Car Kids / 5th Floor
MICHELLEに近いノリを感じるHard Car Kids。それは複数のアーティストが集まったコレクティブ感からきているのか。青春というよりもう少し肩の力が抜けたインディーポップ~ヒップホップが心地よい。
4.蓮沼執太フィル, xiangyu / 呼応
蓮沼執太フィルも、好きすぎてリリースがあれば必ず年間ベストに入れてしまう類のアーティスト。xiangyuによるポエトリー・リーディングが光る1曲。
5.Laura day romance / wake up call|待つ夜、巡る朝
今年の日本のインディー作品の中で、最も耳に残るメロディをもった曲。アルバムもよかったけど、この曲がずば抜けていたと思う。
6.Awich, Yomi Jah / TSUBASA
渾身のアルバムをリリースした後に、それとはまったく異なる毛色の強力なシングルを出せる底力に脱帽。本土返還50年を迎える沖縄をテーマとした楽曲で、シンガーとしてのAwichの魅力がいかんなく発揮されている。
7.Coco Em / Winyo Nungo
ケニアのトップDJによるデビューアルバムの冒頭を飾るリード曲。blkswnjukeboxの紹介する音楽は本当におもしろい。
8.Anxious / Where You Been
アルバムリリース後に出たシングルで、こっちの方に心を掴まれた。少々っハードなパワーポップで、コーラスがとにかく耳に残る。
9.JPEGMAFIA / HAZARD DUTY PAY!
歪なトラックと熱量の高いラップ。ヒップホップというよりはハードコア、実験音楽的な側面を感じさせつつ、それでもポップな不思議。
10.踊ってばかりの国 / your song
アルバムとしても十分成立する充実したEP。バンドのもつサイケデリックなグルーヴが楽曲に結実している。
次点 . ART-SCHOOL / Just Kids
ただただ復活おめでとうと言いたい。特別なことを何もしていない、シンプルにアートらしい曲で、これをやってくれてありがとうという気持ち。
◆その他のよかったもの
今年は映画をあまり観られなくて残念でした。2023年こそは…!
1.ウエスト・サイド・ストーリー
本当は2021年に公開されるはずだったからか、「これ、今年か…」と思ってしまいましたが、名作はやはり名作。今後の人生で繰り返し観たいです。
2.LICORICE PIZZA
ポール・トーマス・アンダーソンのファンというわけでもなく、前評判の高さとHAIMの3女、アラナ・ハイムが主演ということで「へぇ」と思って観たら最高でした。映画らしい映画。
3.地球外少年少女
韓国ドラマよりもドキュメンタリーよりも、ネトフリではアニメを観ている気がするのですが、これはイチオシ。前後編に分かれてますが、とくに前編が圧巻です。
4.チェンソーマン
今年は私にとってチェンソーマンの年でした。何にこんなに惹かれるのかまだよくわかっていませんが、とりあえずアニメは理屈をぶっ飛ばして「すごい」と言わせるパワーに溢れてます。
5.くどうれいん『虎のたましい人魚のなみだ』
地元びいきを除いても、いまいちばんエッセイがおもしろい人。専業作家となった今後にも期待大。文章力もだけれど、観察力がすごいのか、世界の解像度が高いのか。
6.藤本タツキ『さよなら絵梨』
チェンソーマンきっかけで、作者である藤本タツキ作品全般にもハマりました。いまさら天才だと知った…。各作品に何度となく登場する映画モチーフが最もわかりやすく使われているのがこちら。
7.NUMBER GIRL ラストライブ 無常の日
最初で最後かもしれないナンバーガールのライブは、「透明少女」を4回も演奏していて笑ってしまった。「鉄風、鋭くなって」のイントロのベースを初めて生で聴けて感動。
以上、2023年も楽しみです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?