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ドラマダをプレイして人生を始めよう

 私がドラマティカルマーダー、通称ドラマダを知ったのは約2年と3ヶ月前のことだ。友人に紹介されたそのゲームを私はプレイし、クリアし、キャラクタ-達の妄想を心に留めておけず日常生活に支障を来すようになった。そしてツイッターに専用アカウントを開設し、以来一日もかかさずドラマダに関する妄言を呟き続けている。800日以上、かかさず、だ。ジムを初日で退会した人物とは思えない継続性を発揮しているのだった。そして、ドラマダを知るまでの記憶が無くなった。世界五分前仮説ならぬ世界ドラマダ後仮説なのか?

 あなたもドラマダをプレイして過去の記憶を消そう。ドラマダにはそれだけの価値があると私は信じる。

1.そもそもドラマティカルマーダーとは?

 18禁ボーイズラブ(BL)ゲームのひとつ。18歳未満はプレイしてはいけない。(後述するが全年齢アニメや15禁移植版もある)
 ボーイズラブなので登場人物は男性同士で恋愛関係になる。18禁なので行為もする。エンディングによってはグロテスクな場面もある。しかしエログロに気を取られてはならない。ドラマダの魅力は主人公と攻略対象との関係性だ。
 ゲームの主人公・瀨良垣蒼葉(せらがき あおば)は23歳フリーターの青年。お人好しで朗らかな好青年だが雑で抜けているところもあり、昔荒れていたため喧嘩が強い。彼がドラマダ世界では唯一の「受」であり、「攻」である攻略対象(ここでは「(蒼葉の)彼氏」と呼ぶ。計5名)と交流し、愛し合うようになる。
 誰と愛し合うようになるかはプレイヤーの選択肢次第。いちど一人のルートに入ったら「やっぱりこの彼氏じゃなくてあの彼氏と付き合おう」とはできない。同時攻略型の乙女ゲーなどに慣れている人ははじめ戸惑うかもしれないが、ドラマダは二股を許さない誠実なゲームなのだ。

 どの彼氏が相手であっても最初から恋愛関係にあるわけではないし、きちんと親しくなるまでには大いに揉める。揉めつつも絆を深めてゆき、最終的にふたりの物語はいわゆる「バッドエンド」もしくは「グッドエンド」に着地する。それぞれの魅力を下記に述べたい。

①救われずとも愛してしまうバッドエンド

 ひとりの主人公によって複数の対象を攻略するゲームは、時にカウンセリングゲームとも呼ばれる。攻略対象はたいてい闇を抱えており、主人公は話を聞き、共感し、時に叱咤し、閉ざされた対象の心を開いていく。さながら凄腕のカウンセラーのように。
 その過程で攻略対象は主人公に恋をする。自分を救ってくれた人に焦がれるようになることは物語の描写として説得力があり、主人公もまた、深く関わった攻略対象のことを愛するようになる。対象を救いきれればグッドエンド、救いきれなければバッドエンドだ。ドラマダも大枠はこの構造である。

 ドラマダにおいて、彼氏は「バッドエンドであれ主人公(蒼葉)を愛する」。救われたから愛するのではなく、救われなくても蒼葉という存在を愛してしまう。
 平凡な日常を重視し変化を望まない蒼葉と、それぞれに孤独を抱えた彼氏。グッドエンドを迎えたふたりは手を取り合い明日へ向かって歩くことができる。しかしバッドエンドではそれはできない。互い以外の全てを捨て、どこにも行けないまま閉じ込められてしまう。それでも彼氏は蒼葉を愛している。バッドエンドに辿り着いてしまうのは蒼葉への好感度不足ではなく、明日へ続くための選択肢を選べなかったためだからだ。

 彼氏は何も解決しないまま、救われないままに蒼葉を求める。蒼葉はそれを拒否することができない。蒼葉もまた彼氏を愛してしまったからだ。どこにもいけないふたりが行き着く先を、ぜひその目で確認してほしい。 

②人生のタスクを乗り越えてゆくグッドエンド

 グッドエンドは明るく未来がある。バッドエンドの「詰み」感が嘘のようだ。
 しかし童話のようにめでたしめでたしでは終わらない。ふたりで生きていくと決めた彼らは、だからこそ人生のタスクから逃れられない。未だ囚われている過去、家族との関係、肉体にあるしがらみ……。立ち向かわなくてはならない課題は山とあり、ふたりで生きていくためにふたりきりではいられない。誠実に課題に向き合ったとしても、関係者全員を納得させられる答えが得られるとは限らない。
 それでもふたりは、ふたりで生きていく。時にすれ違い、本心を押し隠し、心を揺らしながら。その様はあまりに「人生」であり、プレイヤーの涙腺を刺激してやまない。

 ところであなたはこう思わなかっただろうか。「グッドエンド後の人生を描くには一本のゲームでは容量が足りないのではないか」と。
 あなたは聡明な人だ。その通りである。次の項で「グッドエンド後の世界線は何に記されているか」を述べる。

2.彼らの「それから」を知ることができる

 ドラマティカルマーダーはPC専用ゲームとして発表された。その後アニメ化され、PSvitaにて移植版も発売されている。18歳未満、もしくは性的・猟奇的描写が苦手な方はアニメ(全年齢向け)、移植版(15禁。新スチル・新規ルートが追加されているため古参ファンでも購入の価値あり)から入ってみることをお薦めしたい。
 この項で新に語りたいのは、PCゲームドラマダの続編として発表されたファンディスク「リコネクト」、更にその後日談としての「ドラマCD」の存在である。
 あの完成度(「どの完成度だ」と思った方はぜひプレイください)を誇ったドラマダの「それから」と「それからのそれから」が公式から発表されているのだ。ここに、前述した「人生のタスクに立ち向かう彼ら」の姿が描かれている。グッドエンドを迎えた彼らは、その後いかにして生きていくのか? 互いの関係性をどこまで他者に開示するのか? リコネクトで一歩を踏み出し、ドラマCDで歩き出すイメージだ。
 真剣な話ばかりしてしまったが、ドラマダはシリアス一辺倒のゲームではない。蒼葉と彼氏が盛大にいちゃいちゃする場面もあり、リコネクトではいちゃいちゃに多くの紙面が割かれる。あなたはリコネクト中盤で「そういえばこのゲームはエロゲでもあった」と気付くだろう。ゲームシステムも使いやすく、スキップ、クイックセーブ、クイックロード等がスムーズにできてバグもまずない。「ちょっと蒼葉と彼氏がいちゃついてるとこだけ見るか」と思えば、さくっとその場面だけ摂取しPCを閉じることもできる。楽しみ方はあなた次第だ。

 タスクは彼氏によって様々であり、容易には解決できないこともある。リコネクト以降のプレイヤーは既に主人公・蒼葉に感情移入しており、蒼葉のことが大好きになっているため、時に蒼葉を傷付ける彼氏に憤ることもあるだろう。しかしプレイヤーにできることは画面の向こうから彼らを見守りその幸福を願うことだけだ。
 そのうちあなたは「この感情を一人ではとても抱えておけない」自分に気付く。同好の士と共有したくてたまらなくなる。しかしその感情を共有できる人が身近にいるとは限らない。いくら人気作とはいえ原作が18禁BLゲームの時点でプレイ人数は限られるし、周囲の友人に布教もしづらいかもしれない。
 しかし安心してほしい。ネットには同じ思いを持つ狂い人(くるいびと)がたくさんいる。

3.界隈の平和さ

 ドラマダ界隈は、平和だ。あくまで私の知る限りではあるが学級会なども発生しておらずのんびりしている。旬ジャンルが都会の繁華街だとすると、ドラマダは穏やかな農村と言える。村の住民はそれぞれ気が触れており、約6年前に発売されたCDの感想をさも昨日はじめて聴いた顔で延々と繰り返したり、ニャン葉(猫の蒼葉。原作にはいっさい登場しない)やにょた葉(女性体の蒼葉。原作ではいっさい登場しない)の妄想を語っては泣いている。自律神経がドラマダに支配されているからだ。自分を森のリスだと思い込んでいる住民もいる。しかし害はない。プレイヤーの年齢層が高いことも一因か、派手な炎上騒ぎなどは聞いたことがない。(念のため追記するが、気が触れていない住民も多くいる)

 私は「ネットで出会った人には決して会ってはいけない」と教えられて育った世代だ。しかしドラマダを通し知り合った方とリアルで会った。コラボカフェにも行った。そうしたかったからだ。いざとなったら走って逃げようと思っていたことは事実だが、今ではこちらから走って会いに行きたい気持ちでいっぱいである。ネットは油断ならない空間だが、警戒しつつ使えば非常に有用なコミュニケーションツールだということをドラマダを通し身をもって知った。

 どうだろうか、少しはドラマダに興味をもっていただけただろうか? ネタバレを避けた結果抽象的な紹介になってしまったことは否めない。
 もしかしてあなたはこう思っているのではないだろうか。「いくらファンディスクやドラマCDが出ているとはいえ、これ以上の展開が望めないのであればつまらない」と。
 最後にドラマダの最新動向、及び今後の希望についてお話したい。

4.まさかの舞台化

 2019年秋。いつものように数年前の情報を反芻しつづけるドラマダ村へ予想もしていなかった情報が飛び込んできた。
 ドラマティカルマーダー、舞台化。
 
なんの前触れもなく発表された舞台化に村人は戸惑い、右往左往し、何かしようとし、しかし何もできずにのたうち回った。この騒ぎは三日三晩続いた。しかし村人は狂い人(くるいびと)とはいえ基本的に社会人のため冷静さを取り戻していき、粛々とチケットの抽選に申し込むなどした。舞台化発表からしばらく何の追加発表もなかったため「盛大なドッキリだったのでは?」「企画がポシャったのでは?」と村人が本気で疑ったり、「仮に舞台の出来が悪かったとしても構わない。生きていてくれるだけでいい」と悟りを開くなどもあったが、概ね平和に開幕の日を迎えた。舞台は通称ドマステと呼ばれた。

 開幕してからも色々なことがあった。まず初期は会場に空席が目立った。会場のキャパシティがそもそも大きかったこともあり後方まで埋まらず、ドラマダを我が子もしくは親戚のかわいい甥だと思い込んでいる一部の村民は嘆いた。そのうえ公式から「DVDは出ません」と発表された。これには正常な精神を保っている村民も悲しんだ。
 しかしここからドマステの快進撃が始まる。
 
カーテンコール時のダンスの撮影許可。更にそのSNS掲載許可。
 これによりまだドマステを見ていない層への普及が容易になった。キャラクターの再現性の高さが広くネットで拡散され、「評判いいみたいだから行ってみようかな」と思う方の人口を確実に増やした。空席は減っていき、サイドシートが解放され、前売り券は売り切れ、ついには当日券に長い列ができた。最後の数日間は満員御礼が続いた。
 そして全ルートの配信が決まった。
 
「全ルートとは?」とお思いの方へ。ドマステは攻略対象(彼氏)ごとに第二幕から分岐する。回によって内容が違うのだ。彼氏は5人いるので5ルート分の台本がある。つまり俳優陣、特にほぼ舞台に立ちっぱなしの蒼葉役の方は通常の5倍の台本を渡され、それを通常の準備期間で完璧に仕上げたことになる。正気ではない。本当にありがとうございました。
 全ルート配信も最初から決まっていたことではない。DVDをどうしても諦めきれないファンが舞台に行くたび執拗なまでに「どうかDVDにしてくれないか。どうか記録に残してくれないか」と(アンケートで)懇願した結果だと私は信じている。希望はここにあったのだ。

 ドマステの美点をあげるときりがなくなってしまうので、二点に集約したい。
 ・原作への愛とリスペクト、「理解」を感じる
 ・解釈違いすらも解釈のうちに収まる
 DMM配信人気ランキング1位に輝いたドマステの実力をあなたにも知ってほしい。「ドマステからドラマダの存在を知った」方も多くいるようなので、完全に初見でも問題ない。

5.終わりに

 2019年の冬に突如として大きな動きを見せたドラマダ。何故このタイミングで舞台化したのかはわからない。俳優の方の家族が人質に取られていた説すら出ている。
 しかし間違いないのは、ドラマダは発売から8年の時を経てもなお新たなファンを獲得する魅力を持ったゲームだということだ。
 あり得ないと思っていた舞台化がなされた今、映画化やVR化、ソシャゲ化の可能性だってゼロではない。私はCDの続編が出ることを祈っている。

 あなたがまだドラマダをプレイしていないのなら、入りやすいところからでいい、ドラマティカルマーダーの世界に触れてみてほしい。
 そして既に私と同じ村に住む方は、私と一緒に祈ってくれないだろうか。新たな供給があり、村で盛大な祭が開かれることを。


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