ショートショート 甘夏の肉離れ


「痛い痛い痛い」


「お前、なにしてんだよ。肉離れするって」

甘夏が喋った。
食べようと皮を剥いていたら甘夏が喋ったのだ。

「お前もしかして俺のこと食べる気でいた??」
「えぇ…うん…」
「勘弁してくれよ。俺まだ剥かれて1分経ってないぜ。もう食べられるのかよ。も少し外の世界を楽しませてくれよ」

僕は甘夏を食べることができず、机の上に置いた。

「坊主、俺が生まれた木に案内してくれ」
「そんなこと言われても、お母さんがスーパーで買ってきたんだもん。君の生まれた場所なんて…って愛媛産??無理無理。ここ東京だから」
「よくわからないこと言ってんな。その愛媛に連れてってくれよ」
「だから無理だって、スーパーで買ったんだし」
「じゃあスーパーに連れっててくれ」





「ここだよ」
「ここがスーパーか。それにしても俺が知ってるところとは随分違うな。俺は自然に帰れないのか」
「知らない」

僕にはどうしようもない。

「どうしても愛媛に帰りたいの??」
「いや、育った町で死にたいって思わないか」
「難しい話。なら、僕と一緒に過ごしてこの町を故郷と思えるようにしよう」
「坊主…すまん」


「やっぱり、坊主…もうすぐ俺の旬が過ぎる。さっさと食べてくれ(笑)」

僕がゴミ箱に捨てる素振りを見せると慌てていた。

それから二人でしばらく過ごし、今では庭に新しい甘夏の木がある。

木が喋った。

「坊主、またスーパー行きたいな(笑)」
「もう坊主じゃないよ(笑)」

(592文字)

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裏お題 甘夏の肉離れ

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