ショートショート 入浴委譲



「オネェさん。僕もお風呂に入りたいです」
「オネェさんなんて。お上手な坊やね」
「お風呂に入れてくれる??」
「もう少し大人になったらね。それに今日はお客さんでいっぱいなのよ」
「商売繁盛っていうんだよね。父上が言ってました」
「お陰様でね」
「ところで、オネェさん。このお風呂屋さんはいくらなの」
「坊や、お小遣いで払えるかしら」
「僕はねこのお風呂屋さんを買いたいんだ」
「入りたいんだの間違いでしょ」
「権利を委譲して欲しいんだ」
「あんまり大人をからかうものじゃないよ」
「僕はここの家の息子だよ」


私は渡された名刺を見て汗をかいた。
誰もが頭を下げる大富豪の会社の名刺だ。

「うちは普通のお風呂屋さんじゃないの。早く帰りなさい」
「知ってる。父上がよく話しているよ」
「…」
「家族も会社も同様に回すには必要悪だって」
「…」
「僕もその悪を知るんだ」
「…」
「それから存続するか滅すか決めるんだ」

ヒーローにも大悪党にも育ってしまう無垢な少年の笑顔だ。

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裏お題 入浴委譲

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