ショートショート 無情会館


「はぁ〜い。シャツを捲ってください」

ワクチン接種のために近くの会館にやってきた俺は看護師を見せる。
入れ墨の入った俺の体を見ると手の平を返すように態度が変わった。

「すぐに終わりますから。失礼します。気分が悪くなったら手をあげてください」

時代が少しずつ刺青に寛容になってきたとは言え、やっぱり世間の目は冷たい。
若気の至りで入れてしまった入れ墨を今更消すこともできない。
看護師達が俺の方を見てコソコソと話している。
陰口を言われるのも慣れた。
あれっ、思ってるよりも気分が悪いな。
もしかするとやばいかもしれない。
俺は恥ずかしかったが手をあげた。

看護師達は明らかに気づいているのに他の仕事をやっているフリをしている。
困ったものだ。
けど、汗が止まらない。
医者がこっちに走ってくる。
何やら外が騒がしいな。
救急車の音が聞こえる。
あれっ本当に意識が朦朧としてる。
気のせいか。
なんかこの医者笑ってないか。

「申し訳ありません。こっちも仕事でね」

(410文字)

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裏お題 無情会館


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