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昭和の地域音楽見聞録

※写真はサンプルです。
今回の記事は、私の勤めるスタジオ(作業場)の代表が記事を書きます。スター・ウォーズで言えばEPISODE・1みたいな、現在の音楽の世界を作った世界を語ります。


《かつての大衆音楽の現場》

▶毎年のように有能な若いミュージシャン達が世に溢れ出ています。上手さと容姿に、とても感心します。

今から10年前を思い起こしてみれば、その時のミュージシャン、時代の言葉で言うならばバンドマン。その多くも、今とあまり変わらず若くて有能な才能達が溢れていました。
今回、このnoteの記事を書いた筆者は、10年一昔前も、20年二昔前も、30年三昔前も、それほど若い演奏屋ではありませんでした。40年四昔前は?なんとなく若い演奏屋だったと記憶しています。
その頃、職業音楽家として給料をもらって生活をしていました。社会保険、厚生年金付きの給料、つまりギャラで、家賃、ガス代、電気代(たまに止められたり……)などの生活費を真面目に支払う生活でした。その時代、コンビニや携帯、スマホはもちろん世間には無く、パソコンなんて映画の中の世界。銀行に通帳と印鑑を持って行き、面倒な手続きにより銀行口座振り込みや引き落としはありましたが、ATMなんかも無い時代。なので、公共料金や保険は集金係さんへ払ったりが日常システム。
あの時代、筆者の月給はD10G万。あれこれ引かれて手取りはD10C万G千くらいでした。時代と年齢にしては、やや高給取り。  

《箱バン》

▶その時代、音楽の世界ではデジタルなんかも皆無。MIDI音源は更にその後の未来のテクノロジー。箱(夜の店)バンドの需要は、ダンスホール、ジャズ喫茶からディスコにと切り替わりつつあった時代だったので、プロバンドマンは仕事には欠くことがありませんでした。キャバレーは格調高く、ナイトクラブは更にそれ以上。地域により差はあるものの、上手なバンドが多く、厳しい音楽職人の夜の世界は華やかでした。ライブ?ライブハウス?そんな単語すら無い時代。筆者もでしたが、若手バンドマンの多くは、将来の夢を信じて毎年のコンクールを目指していました。ヤマハ主宰のライトミュージックコンテストや出来立てのポプコン。そんな時代でした。ゴトシ(仕事)現場では、バンドマンが使用する機材はと言えば、多くのターギ(ギタリスト)のギターアンプなどは、FenderのツインリバーブとかYAMAHAのタンスみたいなアンプが多かったように記憶しています。スピーカーと真空管式アンプがセパレート型が普通。ベーアンもfender製が多かったです。ELK社のアンプは良い音でした。エフェクターは、ハニーのスプリングリバーブや、ビックリ仰天する弩高級なミラノのテープエコーを持ってるリッチな先輩もいました。どれもこれも、その昔、筆者が在籍した会社でのことです。

《当時のキーボード事情》

▶その時代、キーボードという呼び名はなく、現在のローランドの礎を作ったエーストーン。コンボオルガンTOP-6や名機だったドローバー式GT-7、そしてヤマハのYCコンボオルガン。確かファルフィッサやBOXを使っているバンドもありました。「オルガン」「ピアノ」とかの呼び名。お金持ちプロダクションなら、Rodes Mark1のエレピ、HAMMOND B3やL型とLeslie122や147スピーカーを揃えていました。すごく羨ましかったです。しかし、まだまだシンセなんて稀。数年後にはやっと現場に登場した高価なmini Moogシンセサイザー。モノフォニックなので単音のみ。ローランドから最初のSH?(機種名は忘れました)が発売。モノフォニックではなく2音のみの重音シンセ。もちろん、ポリフォニックなんて呼び名もありません。シンセサイザーは電源投入後、30分くらいは音程が安定せず音痴。VCO.VCF.VCAのセクションを電圧制御し音を作っていました。音程が安定するにも、約30分くらい時間がかかっていました。後に発売されたオーバーハイムポリフォニックは安定していたように思います。
ローンやカードなんて無い時代です。会社から立て替えてもらい(バンス)、給料天引きの月賦でRodes、HAMMOND-portaBなどの中古を、やや怪しげな輸入業者に依頼して購入しました。

筆者は段々と時代の生き証人みたいな音楽家になってしまったわけですが、現在でも音楽作品の生産業を続ける下町工場のような作業場で、注文を頂いた音楽は、ジャンルを問わず何でも作って、頭を下げ、お代を戴き生活している毎日です。

《スタッフもアナログ。現在の作業場》

▶さて、「スタジオ」などとは生涯言いたくないので「作業場」です。その狭い作業場には、最近の機材と昔の機材が混在。27年か28年か、30年近く前のMACとシーケンスソフトlogic2.5が、ノントラブルで今も作曲の核として働いています。Firewire IEEE など普及していない頃のMACに24MIX ProTools. 必要不可欠の外付けSCSIは、今ではネットオークションで段ボールに詰められたジャンク品の山を買っています。昔からのシリーズ物の作品データを入れてるMACが、これ以外は作動しないからです。 シーケンサーのlogicを走らせている、もう一方のMAC LC630と7500/100の、それぞれのモデムポートとプリンターポートにMIDIインターフェースを接続。打ち込みには、30年前くらいに発売された、現在でも高性能なコルグM1。でもコイツが悩みの種。梅雨場は湿気で一番下のC~Bまでの12音の鍵盤全てが、弾いても粘った感じで戻り難く、わざわざオクターブ上で必要なフレーズを打ち込み、後からオクターブ下に移動。効率悪いですが、何せ慣れた鍵盤。年一回は、オーバーホールを行っています。とりあえず、仕事では時代に逆らわず、vst音源が必要な仕事(大半かも)にはDAW打ち込みのために、ローランド製も使用していますが、人間がド級アナログのためか、デジタル特有の打込みによる遅延、つまりレイテンシーの悪さに慣れないのが現状です。

▶近年までPC以外のメインのMTRは、アナログで録り、効率は悪いですが、テープからデジタル機器にダビング。一旦はアナログに通さないとバチが当たりそうで……。FOSTEXの16chオープンレコーダーが以前、地震で落ちてお釈迦。メインのドでかいコロンビア性38/2trの6㎜マスターレコーダーも、ワウフラッターの状態がヨロヨロになり、VUメーターに震えが起こり始めたのをきっかけに、大半のアナログ録音システムに幕を降ろし、Pro Toolsを買い替えながらのデジタル録音へと移り、その後、最近の有能で安価なDAWソフトやモジュール、マスタリングソフトなどを、あれこれ使いながら現在の少数精鋭みたいな便利機材の使用に至っています。しかし、修理に修理を重ねて、アナログMTRだけは復活させて現役を保たせている、そんな作業場です。

《VSTについて》

▶最新のVST-iの音源やVST-eなどのエフェクト類は凄いなと、つくづく感心しています。それらがシュミレートしている実物の音は、筆者のちっぽけな作業場では、今でも仕事には必要なので、ボロボロになったジジイのような本物楽器や機材が、退役せずに現役を続けています。正直、分厚く、とても魅力的なサウンドですが、なにせS/Nが悪い!人間と同じように経年劣化もあり、ノイズなんてあって当然。ノイズリダクションやEQ処理に悩む日々。えらく高値でしたが、ついにノイズ処理ソフトを購入。それを使用したところ、信じれないほど、驚くほどになりました。

▶やはり、最新の音楽を取り巻くテクノロジーに対して、食わず嫌いではダメだと、最近では筆者は反省しています。その時代の音を研究し尽くして作られた現在の機器は、本物の音を更に若く蘇らせる物だと思いました。

《不可能かな》

▶ただ一点。例えば、HAMMONDのVST音源は、まずどんなに優れていても、シュミレーションは不可能だろうなと確信しています。それは、トーンホイール型のHAMMONDは機械的に起こる計算外の音や、ドローバーで設定するレジストに対して、一定の音階以上からは鳴らない音(倍音構成上)があります。弾き方にも、それなりにテクニックが必要になります。タッチレスポンス機能など無いオルガンなのに、なぜタッチレスポンスがあるような弾き方が出来るのか?機能的な説明は難しいので、また機会があれば。とにかく、あの楽器は弾き手の個性がとても反映されてきました。最新のオルガンではハードもソフトも、弾き手側に沿った思いの結果を得られるのには難しいかも知れません。しかし、そんな様々な思いを心にしまい、筆者は最新のテクノロジーにより開発された楽器と、昔のそれらとの比較は避け、黙って新たな良さも見つけながら、コツコツと作業しています。AIは、あの楽器に似せた音色は完全に再現できても、奏法に必要とされる部分の再現は難しいかも知れません。筆者やその時代に生きた方々の中には、CDで聴く音楽に使用されているオルガンサウンドは、いくら精巧なVST音源でも、どことなく違和感を感じるのは、薪で炊いた釜のご飯と、サト〇のご飯の感覚です。それは、オルガンのトーンホイールから漂う潤滑油の匂いと、レスリースピーカーの回転するラッパ(スピーカーホーン)から匂う潤滑油の香りと、空気の拡散ノイズ。耳と鼻へイタズラされる感覚は、さすがに再現は不可能だと思っています。「薪で炊いた釜の焦げ飯を冷やして食う旨さ」例えるならばですが。CDを聴いていて「この楽器は贋作じゃ!」と、ついつい嫌われ言葉の独り言を言ってしまいます。精巧過ぎ、美し過ぎる音に、ゾクッとくるマネキン美人の妖艶さを感じてなりません。しかし、傷だらけの楽器には魅力を感じます。見た目ポンコツほど故障せずに仕事をしてきた証でした。

▶さて、話は尽きませんが、またの機会にでも、ポンコツ楽器談義の講釈をしてみたいと思います。

仕事場代表

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