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[Vol.11] リモートセンシングとデータサイエンス

立正大学データサイエンス学部データサイエンス学科 教授 白木洋平

リモートセンシングって何だろう
 素直に訳せば「遠隔(Remote)計測(Sensing)」となりますが、データサイエンス学部で学ぶことができるリモートセンシングは、主に地球の上空を飛んでいる人工衛星や航空機などに搭載されたセンサ(カメラのようなものを)で地球の表面などを観測する技術や知識になります。
 さて、人工衛星による地球観測はいったいいつ頃からなされていたのでしょうか。世界初の地球観測衛星はアメリカによって1972年に打ち上げられたLandsatであると言われています(同じ場所を2週間に1回撮影しており、代替わりしながら現在も撮り続けています)。Landsatに搭載されているセンサはMSS(1~3号に搭載)、TM(4~5号に搭載)、ETM+(7号に搭載)、OLI/TIRS(8号に搭載)と代替わりによって変化はしているものの、人間の目で認識することが出来る可視光(400-800nmの波長の光)だけではなく、人間の目では認識することが出来ない、たとえば近赤外や熱赤外の情報なども取得することが出来ます。人間の目では認識することが出来ない情報を得られるということは、地球の現状についてより詳しく知ることが出来るということになります。
 それでは、このような情報を得ることでどのようなことがわかるのでしょうか。一例を挙げてみましょう。

 人間の目では認識することが出来ない“地表面温度”
 Landsatの熱赤外情報を利用すると、地表面温度を捉えることが出来ます。地表面温度は気温とは異なった物理量ですので、これをもってその全てを説明することは困難ですが、これを利用することで都市の熱問題、ヒートアイランド現象の一端を捉えることが出来ます。それでは下の図を見てみましょう。

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 これは、東京都区部周辺の1997年8月4日09時46分に撮影された地表面温度画像(左図)と、1994年8月10日20時48分に撮影された地表面温度画像(右図)になります。如何でしょうか。日中では東京都区部を中心とした広い範囲で高温域が広がっており、夜間では特に都心3区(港区・千代田区・中央区)周辺で高温域が広がっている様子が見て取れます。この傾向を素直に読み解くならば、日中では広い(東京都区部や神奈川県、千葉県西部、埼玉県南部)範囲で熱中症に注意しなければならないかもしれませんし、夜間の都心3区周辺は他の地域と比べて寝苦しい夜になっているかもしれません。

データサイエンスで人間と自然の関わり方を見直す
 上述したLandsatの事例は、膨大に存在している衛星画像(Landsat以外にも地球を観測している人工衛星はたくさんあります)のごく一部を解析したに過ぎません。また、今回紹介した事例では撮影時期/時間の異なる2枚の地表面温度画像を視覚的に考察しただけでしたが、たとえば過去から現在までに撮影された膨大な画像についてコンピュータを用いて解析していけば、都市の拡大傾向、言い換えれば人間活動がどのように変化してきたか、それに伴って自然がどのように変化してしまったかを知ることも出来ます。そして、そのような変化を知ることは都市における人間と自然の関わり方(=都市における”環境”のあり方)を見直す大きなきっかけになるのです。

引用:白木洋平・近藤昭彦・一ノ瀬俊明(2007)GISとリモートセンシングを用いた地表面構造が都市の温度形成に及ぼす影響評価.環境科学会誌,20(5),347-358.