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[Vol.1] データサイエンスとは何か

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一橋大学経済研究所 教授 北村行伸
(2020年4月立正大学経済学部教授に就任予定、2021年4月データサイエンス学部学部長就任予定)

■ 新しい産業革命
 今、経済社会の在り方が大きく変化しつつあります。例えば、皆さんがよく使う携帯電話の機能や、SNSの流行は数か月単位で変わっていますね。古い機能のソフトから新しい機能を満載したソフトに乗り換えるのはいいのだけれど、どういう目的で、そしてどういう仕組みで、ソフトを提供している企業は機能の拡張を図って、それを無料で提供しているのでしょうか。これがデータサイエンスを考える鍵になります。ひと昔前の社会であれば、5年ぐらい使った古いソフトの契約を中止して、新しいソフトを購入し、かなりの時間をかけて、それをインストールし、ソフト会社に利用者登録を行って初めて利用可能になっていました。今なら、ネット上で新ソフトをダウンロードして勝手にパソコンや携帯電話がインストールして、古いバージョンも自動的に消去される手続きがあっという間に終わってしまします。

■ 開かれた情報社会
 こうした技術進歩の裏側には、多くの情報がデジタル信号化され、無線でやり取りができるようになり、データ容量が格段に増えたということがあります。大学での研究や教育を考えても、これまでは、多くの情報は図書館で、本や資料を読むことで手に入れていましたが、今では、ネット上でかなり多くの情報を手に入れることができます。わざわざ、図書館に行かなくても、自分のいるところに情報を集めてくることが可能になりました。これは素晴らしいことです。これまで、象牙の塔と言われていた大学図書館の情報が、すべての人々に対して公共財として提供されれば、勉強の機会に恵まれなかった発展途上国の子どもや読書や研究の機会を与えられなかった人々が自ら積極的に学ぶ機会が開かれ、その中から、真に社会に貢献してくれるような人材も出てくることでしょう。

■ AIによる安全安心
 デジタル情報の普及が社会生活の利便性を高めるということは通信や教育の分野に限りません。交通渋滞情報は、今は自動車から発信される位置情報を集計することで得ることができます。今、多くの自動車会社が取り組んでいるのが、自動運転の技術です。自動車に積んだAI(人工知能)が、数多くのセンサーを使って、人間に代わって安全運転ができれば、人間の不注意による交通事故も大幅に削減できるでしょう。医師の診断に代わって、膨大な医療情報を詰め込んだAIが診断するほうが、誤診率が低いというところまで来ています。また、ディープラーニングという技術によって、AIの翻訳力は格段に進歩し、主要言語間の翻訳は、近いうちに人間による通訳のレベルを超えるだろうと言われています。

■ データサイエンスはいたるところで使われる
 これらの社会の変化を巻き起こす原動力となっているのがデータサイエンスです。日常生活の様々な面での改善や安全性・品質の向上を生み出すだけではなく、これまでの仕事の仕方を劇的に変え(テレワークの導入)、旅行や娯楽の楽しみ方も変えるでしょう。スポーツの戦術やトレーニングの仕方もデータサイエンスを用いることがごく当たりまえになってきています。
先ほど、企業が新しいSNS用のソフトを開発して、無料で提供しているのはなぜかという質問をしました。技術進歩によってソフトの開発が安くなったからではありません。データをやり取りする通信費が安くなったからでもありません。それはソフトの供給元である企業が、皆さんの発信する情報を手に入れるための手段として使っているからです。すなわち、皆さんはこれまでであれば、お金を払って手に入れていたソフトを、自分の発信する情報と引き換えに手に入れているということです。
 このことの意味は何でしょうか。第一に、皆さんの発信しているSNS上のつぶやきや情報、買い物や移動の履歴を蓄積できれば、皆さんの流行や好みは簡単に知られてしまいます。それが企業側にすれば商売のネタになるという訳です。別の言い方をすれば、こういうビジネスモデルを、世界のインターネット・プラットフォームとして君臨しているグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(頭文字をまとめてGAFAと呼びます)らが作り出し、皆さんの行動から発信されたデータが、集める価値のあるものだということを証明したのです。
 自分がネット上で意味もなく見ている行動を寄せ集めても大して価値などないと考えるかもしれませんが、その情報が何億人分も集まれば、社会全体で起こっていることを知り、他の企業が気づいていないトレンドをいち早く捉えることにつながる可能性もあるということです。

■ 何を学ぶのか
 立正大学データサイエンス学部では、データという情報を使って、経済社会をより豊かに、より楽しく、より安全に変革していくための知識と技術、そして人的なネットワークを提供していきます。データというものは、理系・文系を問わず、すべての分野、すべての側面で使われるものです。したがって、皆さんが学びたいことが、データサイエンス学部の中に必ず見つかることをお約束します。新しい時代の新しいビジネスモデルを共に築いていきましょう。