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NBA初観戦記③ 街歩き編前半

かつては「全米一住みたい街」と言われていたポートランド。
「利便性の良いコンパクトシティ」「サステナブルな街」「自然溢れる美食の街」「住民が主体となった先進的な街づくりを進めた都市」。
この街について調べてみると、こういった魅力的なワードがずらりと並び、ポジティブな発信で溢れていた。
さらにこの独自の地域づくりをモデルとしている日本の自治体も多く見受けられた。
ポートランドは確かに皆の憧れの街だったのだ。

しかし、それは完全に過去の話で(しかも新型コロナのパンデミックの少し前から)「憧れの街」の様子はガラリと変わってしまったのだという。
不動産価格の高騰、ホームレスの急増、政治的要因……
複雑な事情が重なった結果だと考えられるが、これはポートランドに限ったことではない。たった十年で街の印象がこうも変わってしまうのは、現在のアメリカの深刻な状況を表しているように感じる。


と、ここまでネットで知り得た情報をつらつらと書いてきたが、かつてのポートランドも、コロナ後のポートランドも知らなかった私にとって、実際に現地に足を運んで、この街の様子を目で見て、肌で感じることが出来たのは本当に貴重な経験だった。


今回の旅で私が感じた「今」のポートランドをお伝えできればいいなと思う。






ポートランドの公共交通機関

ポートランドにはトライメットが運営している公共交通機関が発達していて、車がなくても気軽に市内を移動できる。共通のチケットやICカードで、MAXライトレール、ストリートカー、バスの乗り換えが可能。
チケットはMAXライトレール駅にある券売機で購入出来て、現金・クレジットカードどちらも使用できる。大人の場合、2時間半乗り放題で$2.80、一日券の場合は$5.60。

hop fastpass
リーダーにかざすだけ。

トライメットのHPが詳しくて分かりやすい。


電車内の治安については、確かに車を持たないホームレスの人が多く乗車している。だからといってお金を要求されたり攻撃的な言葉をかけられたりということはなかった。たまにとんでもないものが落ちているからシートや周りの床が綺麗かちゃんと見て座る必要はあるけれど。

女の一人旅(いやもはや男女なんて関係ないかもしれない)は十分に警戒する必要がある。今までの旅を振り返ってみると、危ない目にあったのはチェコを訪れた時だけだ。10歳くらいの女の子が私のかばんを引っ張って何かを叫んでいたので、こちらも「NO!」と大声で叫んでホテルに逃げ込んだことがあった。怖くてちょっと泣いた。

今回、初めてのアメリカ旅行ということもあって、治安面はものすごく気にしていたし、現在のポートランドの状況もある程度調べていたが、ユニオンステーションやチャイナタウン付近のホームレスの多さと不穏な雰囲気には緊張が走った。

人がまばらで、どこか寂しい印象。
天気もいつもどよんとしている。


荷物はなるべく持たずに「住民ですが何か?」という毅然な態度でいなければいけなかったのと、思い立ったらすぐに行動したい自身の性格のせいもあって、街中の写真が極端に少ないので皆さんに様子が伝わりにくいかもしれない。ごめんなさい。)





本屋の迷路

街歩き初日、はじめに訪れた場所はPowell’s City of Books。いわずと知れたポートランドの名所となっている世界最大規模の独立系書店で、ここの周りには観光客をはじめ、たくさんの人で賑わっていた。

1ブロックを占める巨大な書店。


入口にはおすすめの新刊とともにこの書店やポートランドをモチーフにした雑貨も売られていて、カフェも併設している。
古本と新品の本が同じ棚に並んでいて、値段もさまざま。作者名がアルファベット順に並んでいるのでとても分かりやすい。
100万冊以上の書籍に囲まれながら、果てしななく奥まで続く迷路に、自分の足で意図的に迷い込んでいく。そしてとっておきの一冊に出会うための宝探しができるような、素敵な空間だった。

どこかポートランドの街に似ているな、と感じた。

ずっと欲しかった禅とオートバイと修理技術。
日本語版と交互に読んでる。  





ポートランドのコーヒー文化

この旅で本当に楽しみにしていたカフェ巡り。
正直に言うと、ポートランドには観光名所となる場所があまり多くない。しかし私にとってこの街は、何気ない日常を異国の地で感じることができる理想的な場所だった。
ポートランドのローカリズムを象徴する個人経営のカフェや雑貨屋さんに入ると、温かく歓迎してくれて(たとえ英語がたどたどしくても)ありのままの自分を受け入れてくれる。まるで街の一部に溶け込んだみたいで、ひどく居心地がよかった。

今回たくさんのカフェに足を運んだが、バリスタが作り上げるコーヒーの一杯一杯に、その店の個性が強烈に反映されていた。


Stumptown Coffee Roasters


2000年代に起こった新たなコーヒー業界の波、サードウェーブ。
独自の調達ルートで直接豆を農家から買い付け、焙煎にこだわり、バリスタが一杯ずつ淹れるコーヒースタイルだ。
スタンプタウン・コーヒー・ロースターズは、まさにサードウェーブの先駆けとなり、ポートランドのコーヒー文化を作ったとも言われている。
初の海外出店として、2020年に京都店がオープンし、日本にいながらスタンプタウンのコーヒーを味わうことができる。

今回私が訪れたのはポートランドのシンボル的存在であるACE HOTELに併設している店舗。
黒を基調とした上質でモダンな内装はホテルのお洒落さと見事にマッチしていた。朝にもかかわらずレジには列ができていて、店内もホテルのロビーも満席だったので、ラテをテイクアウトして早々に店を出た。

かの有名なロビーの写真は撮り忘れた。
ごめん。

コーヒーは独特な酸味がありながらも、すっきりとした味わい。
12ozの発音がなかなか通じなかったが、店員さんはにこにこしながらも根気強く聞き返してくれた。



Deadstock Coffee Roasters

NIKEの元デザイナー、イアン・ウィリアムズさんがオープンしたコーヒーショップ。ここではスニーカーとバスケットボールカルチャーにどっぷりと浸りながらコーヒーが飲めるという、両方のファンからしてみれば楽園のような店だ。しかもラテを注文するとシューズのラテアートをしてくれるらしい。心を弾ませながらDunk Low The 50を履いて店に向かったが、ホリデーシーズンのためか滞在中はずっとお休みだった。一番行きたかったカフェだけに残念。

こんなラテアートが!




Water Avenue Coffee

サウスイーストの工業地区にある倉庫を改装したカフェ。スカイブルーのネオンで「COFFEE」と書かれたオブジェクトが印象的な店内は、無骨な天井やむきだしの配管、DIY感溢れるテーブルなど、この地区らしいインダストリアルな雰囲気を醸し出している。

The Chainsmokersみたいなバリスタ二人組が
明るく迎えてくれた。

作業服を着た人、パジャマの人、仲良く手をつないでやってくる老夫婦。地元のお客さんがひっきりなしにここのコーヒーを求めてやってくる。バリスタは慣れた手つきでコーヒーを淹れながら、世間話に花を咲かせていた。


カプチーノを注文。
深い味わいとまろやかな泡のバランスが絶妙。

窓際の高めの椅子に腰かけると、右隣には日記を書く女性、左隣にはコーヒーを嗜みながら、賑やかにクロスワードパズルを解いている家族が座っていた。現地の人たちの会話を聞きながら、美味しいコーヒーを飲む。そんな何気ない日常の一コマに幸せを感じることができたお店だ。


私はポートランドのカフェのあの独特な居心地の良さを、前にどこかで体験したことがある。夏に行ったコーヒーの街、メルボルンのカフェともちょっと違う。
ふと思い出したのは、沖縄で訪れたカフェの天井にあるオブジェクトだ。

天井にはPDXという文字が。

北谷にあるZHYVAGO COFFEE ROASTERYはワールドカップ期間中、何度も足を運んだカフェ。バリスタの方の素敵な雰囲気も、インダストリアルな内装も今思えば、ポートランドを彷彿とさせる。お店のホームページにはこのように書かれていた。

2014年秋、ZHYVAGOオーナーは自身のテーマを確かめるためアメリカポートランド市へと足を運びました。豊かな自然と食に恵まれたポートランドではDIY精神、助け合い、そしてローカリズムと言ったムーブメントが世代を超えて起きていました。時代の流れに流されずにやりたいことをやり、思いやりをもって仕事をしているポートランドの人々とふれあう事で、これからの自分の生き方を見いだす事ができました。“自分らしく生きる” と言うテーマを体現しているポートランドの人々に強い感銘を受けたオーナーは新たな視点から飲食店を立ち上げようと決ました。

出典: zhyvago-okinawa.com


フレンドリーでありながら適度な距離感で、心がほっとする場所を提供してくれるZHYVAGOコーヒーはまさにポートランドのテーマを体現しているように思える。

旅をしていると、思わぬ出会いがあり、ある事が点と点でつながるような、そんな瞬間を体験できることがある。私が旅を愛している理由は、そこにあるのかもしれない。



街歩き編後半に続く

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