猫とパン屑--村上春樹『猫を棄てる』感想文
読みながらずっと、私と入れ替わるようにこの世を去った祖父のことを考えていた。
数年前に祖母が亡くなった。遺品の中から祖父の従軍記録のような書類が出てきた。そこには、忙しくあちこちに送られる様子が小さな字で丁寧に書いてあった。最終地はシベリアだ。
一滴も飲まなかった祖父がアルコール依存症になり、65歳の若さで命を落とした原因。
祖父は職人で、仕事中は厳しくて近寄りづらい雰囲気だったそうだ。けれど、持ち前の明るさと器用さでシベリアを生き抜いた。片言のロシア語で随分かわいがら