みぞれ・14

手を繋いでいた。引っ張られていたと言う方が正確かも知れない。また記憶が曖昧だ。でも、今指に触れているのは東城さんの手だ。

暗いから夜だ、と思った。上を見上げるとオリオン座が見えた。東城さんに教えてあげたかったけれど、振り返ってわたしがいるか確認する様にこちらを見た彼は、いつもの部屋で笑いかけてくれる彼では無くて言葉が出なくなってしまった。

どうすれば笑ってくれるんだろう。分からない。頭が上手く働いていない。

彼が車のドアを開けてわたしを座らせる。ドアを閉めるときにもう一度顔を見たけど、やっぱり駄目みたいだ。運転席に座って煙草に火をつけた彼は酷く不機嫌に見える。そうだろう、夜中に呼び出されたら。でもどうやって。連絡先は知らないのに。でも、わたしのせいだ。

「ごめんね」

「わたし、よくわかんなくて」

「駄目なのかな、大久保さんも変な顔してた」

「ごめんね、上手く出来ないんだ、なんにも」

彼は見た事の無い顔になった。何の表情だろう。車が動き出した。彼は何も言ってくれない。

あの部屋に帰るのだろうか。

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