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かくもうつくしきいし

助けての手が生えてきた
初氷を観測した日
息に色が付いた
寒いと知らないうちに死んでしまうから
プロパンガスみたいだね

元々あった二本の手も
内臓を正しく整地し
心のささくれにクリームを塗っている
脱いだ靴下の丸まりを中へ外へと
忙しく履き替えた
どちらかが表で
どちらかが裏で
どちらも表でも裏でもなかった

わたしを飛ばせる石を
胸から外し手に託した
もう脈は手のうちにあり
波打たぬ心臓は石化したまま
胸にぶら下がり
忘れていた記憶を呼び覚ます
相変わらず空は当たり前のように青く
白い雲を自由に動かせている
落ちるか落ちないかギリギリの端で
わたしは手を振り
わたしを見下ろしている

眼下では菫の庭が消えた
囲まれたフェンスがわたしを拒み
これから建つであろうビルを見るたびに
わたしは弔うのだろう

終わりが多すぎる地上
また気付いてしまった
ひとつ店が消えている
夜中に内緒で飲んだ
オニオンスープ
ジュースバー
同じユニフォームの店員
みんなどこへ行ってしまったの
電気のつかない店の奥で蹲る君の背中の曲線がわたしの視線に気付いて顔をあげた
目も鼻も口もない、黒い物体はグズグズと解けて雨になるのだろう
あと少しだけ気温が下がれば
雪になるのだろう

もう終わりは懲り懲りで
それでも次から次へと終わり続ける

石を投げた
留まり続ける踵の角度を
二十三度二十六分に正す
ほんの数ミリの厚さで
生きたり死んだりを繰り返す 
うつくしきいけにえの朝だ

第25回詩と思想新人賞 第一次選考通過

*「天空の城ラピュタ」のオマージュ作品です。

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