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星月夜

海の上を水平に二本の帯が進んでゆく
ひかりと、やみの、狭間を泳ぐのは
わたしの脳のうちであり
きみの世界の一部だ

僅かな周期のなかで
わたしの生は保たれていて
ふと、踏み外した階段で
からだを斜めにした
降る前に触れた帯の一糸が
入れ替わり、捻れた

生きながら死んだり
死にながら生きたり
そのことにさえ気付かずに
形態としの硬直のみを畏れていた

あいまいなシグナルを
目をつぶり、ありのままとして
受け容れることの苦手さに
歯ぎしりをする

そっと重ねた手のひらがうなづく
受け容れる用意があまりにも未熟だ
安易に死んでしまわないための
手段に翻弄されすぎて
この手を差し出してしまえない

ここに来たことを忘れているように
ここにいたことも忘れるだろう
この世界でどれだけ触れ合えていたと
しても、それは錯覚でしかなく
最初からひとりで、いつでもひとりで
さいごもひとりだ
だから、こわくないよ
目に見えたことなんて、わずかだった

女である臓器を失うことなど
たいしたことではなかった
しがみついた先は曖昧模糊なこの世界で
目が醒めることで
そんなわたしを嘲笑うようにメスが
すっぱりと切り出して熟れた実を差し出す
もうないのにあった時と変わらぬ腹をさすり
一瞬ひらかれたその内を麻酔の上から見下ろす龍が何度かまわり、わたしが目覚める一秒前に、ひかりのなかに消えた

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