月下の蝶
毀れた刃先の、切り拓くことの出来ない、鋭い、現実と対峙した世界では蝶の化身が人の形をしている ハラハラと舞う月光は鱗粉に似て指先が撫でる宙の見えない黒板に描き続ける言葉はこの世を斜めに切り取る
(もっと正しく切れる刃を下さい)
黒と白の世界では七色の夢など見ずにすむから躊躇うことなく月へ向かえる水の流れぬ川を超えて、踵が淡い光を吸い取りながら、絡み合う感官 軋んだ背骨を正し、折りたたまれた羽を広げた、一斉に飛び立つ蝶がすべて同じ顔をしている、瘴気なき羽ばたき 澄明が覆うこの世界の底に堆積したものたちが奏でる音は定められた階層で咲く揺れて流れる川の向こう岸では見えぬ月の輪郭線を隠し切れない
(幻が現実を反転させる)
いつか見た夢の姿は月になり見えない夢は月の裏側
幻惑の幾重にもなる線の川くだりつのぼる夢のあとさき
長き髪櫛で整え待つ月の上がりて消えるわたくしの足
(月の香りが漂ふ下で)
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