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血【エッセイ】

実家の居間に飾ってある書。

書家の祖父をわたしは知らない。妾だった祖母が父を身籠り祖父の前から消えた時に、追いかけてきて渡された書らしい。
祖母は、書家であり政治家であった祖父の家で専属の看護師として働いていた。

祖父には夢の中で一度だけ会ったことがある。写真が一枚もない(祖母は持っていたのかもしれないがわたしが見た記憶はない)わたしが産まれる前には既に亡くなっていた祖父。
高校入試合格の夜、駅で「おめでとう」と言われた声が今でも記憶に残る夢だった。

祖父はとある歴史上の人物の直系ではないが末裔だと、祖母はいつも言っていた。その人の英知がわたしの中にほんの一滴でも含まれているかもしれない、と思うと、わたしは前を向いて歩いてこられた。
母は、祖母のつくり話だと笑った。
それでもわたしは祖母の言葉をずっと信じ続けてきた。

つくり話でもいいんだ。
わたしにとってそれが真実だと思い、支えてくれたことには嘘はないのだから。

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