「Be a Dreamer.」スペキュラティヴ・デザインのその先へ。NY在住パーソンズ美大卒岩渕さんが描くビジョンとは。
19.4.2021
武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース必修である「クリエイティブリーダーシップ特論」では、毎回クリエイティブ×ビジネスを活用し実際に活躍をされているゲスト講師を囲みながら議論を行います。この記事では、講義内容と私自身の気づき、今後の可能性についてまとめています。
2021年度「クリエイティブリーダーシップ特論第2回」となる今回はNY在住、パーソンズ美術大学非常勤講師を務める岩渕正樹さんと「未来志向でビジョンをデザインすること、夢を描き語ることの重要性」についてお話を伺いました。
(岩渕さんのポートフォリオはこちら。私はスペキュラティヴ・デザインの先を見据えた、こちらの記事で一気に心奪われました。)
岩渕正樹さん
東京大学工学部、同大学院学際情報学府修了後、IBMDesignでの社会人経験を経て、2018年より渡米し、2020年5月にパーソンズ美術大学修了(MFA/Design&Technology)。
デザイン思考の「次」、22世紀のためのデザイン、をライフワークとし、現在はNYを拠点に、Transition Design等の社会規模の文化・ビジョンのデザインに向けた学際的な研究・論文発表(Pivot Conf., 2020)の他、パーソンズ美術大学非常勤講師、Teknikio(ブルックリン)サービスデザイナー、Artrigger(東京)CXO等、研究者・実践者・教育者として日米で最新デザイン理論と実践の橋渡しに従事。
(岩渕さんのnoteより引用:https://note.com/iwabm/n/n5d5499f5fee5)
今回の講義の締め言葉は"Be a Dreamer"。ビジョンを創出するためには「夢を語る」ことがまずは大切だという。
そんな岩渕さんの夢は「22世紀に橋をかける」こと。
未来視点でモノゴトを捉えることで、短期的な視点を超えた新たな可能性を生み出せるのではないか、と様々な活動をされています。
事例1:Tekniverse
比較的男子生徒向けになりがちなSTEM教育。より幅広い層が身近に感じられる存在として、世の中にSTEM教育の重要性を浸透させるための開発〜実装までのデザインを行う。
(岩渕さんのポートフォリオより引用:https://www.masakiiwabuchi.me/work/tekniverse)
事例2:労働舞踊
"AIなどが人間の労働を代替し、仕事を奪われた人々がかつて人間が働いていた時代があったことを能や歌舞伎といった舞の形で人の労働の歴史を保存し始めた。"という作品
能や歌舞伎で歴史を労働の記憶を保存する、という着想がユニークで、今後何十年後かの展示会で実際に自分が観覧者になっていてもおかしくないなと不思議な気分になります。
(岩渕さんのnoteより引用:https://note.com/iwabm/n/n5d5499f5fee5)
スペキュラティヴ・デザインのその先へ
講義の中盤では「Social Dreaming through Design」という言葉を強調されていた岩渕さん。
デザインとは「いわゆる問題解決ではなく、問題提起や未来はこうあるべきなのでは?と推測を促し、その結果より良い未来を描く」というスペキュラティブ・デザインの考え方を提起したAnthony Dunne氏。そんなDunne氏の元で師事された岩渕さんの目線は、スペキュラティヴ・デザインのその先に向いています。
「Social Dreaming through Design」という概念にも深く通じますが、お話の中ではPPPP図という"起こり得る未来の可能性の幅"なんかについても言及がありました。
(引用元:アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン』)
現在はDunne氏ご自身でもスペキュラティヴ・デザインという言葉を使うことは少なくなっており「Designed Realities」を最近では説いているとのこと。
後ほど記述しますが、人類にとってより良い未来とは?という視点から哲学・人類学・社会学など幅広い教養を踏まえた文化創造の兆しを感じる点で、スペキュラティヴ・デザインからの変遷を感じました。
"Not Here, Not Now.(ここではなく、いまでもない)
Aesthetics of Unreality(存在しないものの手ざわり)
Show us, Not Tell us.(語るのではなく、机に並べる)"
起こり得そうな社会の未来像をデザインを通じて提起していく。そんなSocial Dreaming through Designあるいは「Designed Realities」という言葉には共感するものがあり、実際にデザインを通じて可視化させることで多くの人々との共通認識を醸成出来るのではないかと思います。
(※少し余談ですが、つい先週「BRAVE NEW WORLD(すばらしい新世界)」というディストピアを描いたSF小説を読みました。約100年前に書かれた小説ですが、2540年の文明社会のあり様が描かれています。
小説の内容は元より、ディティールに富んだ時代背景の風刺(大量消費・生産のさきがけとなったT型フォードの製造を風刺して、時代をフォード紀元と設定するetc...)やセリフの言い回しの秀逸さに驚きます。あり得ないけどあり得そうな仮想現実の世界観に何とも言えない不気味さを感じました。)
Fantasy&Entertainment≠Dream
また、「未来のビジョンを思考する上でFantasy&Entertainmentになりすぎてしまってはいけない、あくまでも現実とFantasy&Entertainmentの間にあるDreamを描くことが大切。」という話がありました。
私個人的には、「すばらしい新世界」の読書感想も踏まえ、Fantasy&EntertainmentとDreamの違いはそのプロセスにあるのではないかと思います。過去や現実への感覚を研ぎ澄まし教養を磨いた上で、未来への可能性に思い巡らす。突拍子もない"ジャストアイデア"なのではなく、その前提には地に足ついた現実理解のプロセスがDreamingにはある気がしました。そして、いかに具体的で詳細な場面設定が出来るかどうか(いつ・誰が・なぜ・どんな理由で・どこで・何をきっかけにetc)で他者を巻き込み「夢」である未来を実現する協働者を巻き込めるかが変わってくるのではないかな〜と。
さいごに...
Design Anthropologistへの想い
約10年ほどデザイン思考で有名なIBMのUI/UXデザイナーとして実用的かつ商業的なデザインに携わり、渡米後はより抽象的で妄想的な未来を提起するビジョンデザインを学ばれるなど幅広い分野で博識な岩渕さん。
そんな岩渕さんが今注目しているのは"Design Anthropology"だという。
未来を提起するためには、過去の行いや歴史的背景を知ることが大切という価値観がベースにあるようで。
今日初めて出会った概念ではありますが、留学先の大学ではAnthropology(文化人類学)を専攻し、大学時代に制作した名ばかりの名刺には「デザイン・エスノグラファー」という肩書きを記載していた私にとっては嬉しいワクワクするキーワード。(今考えると何も知らないからこそ書けていたんだろうけど、とても恥ずかしい。)
これから、自分がデザインを考える上で大切にしたい新たな視点”Design Anthropology"という言葉を手に入れたことが今回の講義の収穫です。
一方で、世間一般からするとかなりビジョナリーな類に入ると自覚している私としては、「個人の夢を語るのは得意だが、その夢に他者を巻き込むにはどうすれば良いの?デザインが持つ力は?」「描いた夢を実現するには?そもそも実現させる前提で描いているの?」などなど多くの疑問が残っている今回の講義。機会ある際には、是非議論させていただきたいなと思います。
#MAU #武蔵野美術大学 #クリエイティブリーダーシップ特論
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