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川崎ヘイト街宣へのカウンター - 2021年6月27日(日)/神奈川県川崎市

2021年6月27日(日)、神奈川県川崎市川崎区(JR川崎駅東口)で行なわれたヘイトスピーチ街宣に対する反対行動(カウンター)の記録

 全国に先駆けて罰則付き差別禁止条例(「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」)が昨年7月1日に全面施行され、まもなく1年を迎えようとしている川崎で、また差別主義者集団による街宣が行われた。
 この街宣を行ったのは、排外主義政策を掲げる政治団体「日本第一党」の元党員が立ち上げたヘイトスピーチ団体「日の丸街宣倶楽部」で、これまで川崎駅前で差別的言動を含む内容の街宣を執拗に行ってきた。前回(6月6日)の街宣では、開始前に主宰者が暴行の疑いで警察に連れて行かれてしまい主宰者不在のまま行われたため、今回は「リベンジ」として開催したそうだ。自分が起こした不始末を自分自身で受け止めずに、「リベンジ」と称して他者にその怒りや歪んだ思いをぶつける目的で街頭活動を行うのは迷惑そのものである。
 そんな街宣に対して、差別を許さない人々が多数集まり激しい抗議が行われた。レイシストが街宣を行うのであれば、アンチレイシストも抗議を行う。法律や条例が完全に機能しないのであれば、市民の手で差別者から居場所を奪うべく中指を突き立て罵声を浴びせる。

【動画】

2021.6.27川崎ヘイト街宣へのカウンター(7分28秒)

 ビデオカメラ(ハンディカム)からミラーレス一眼に替えて3回目の映像なので、クオリティもある程度は安定してきた。
 現場がどうなっていたか可能な限り丁寧に写したので、この映像を観てもらえたら当日なにがどうなっていたか多少は理解できると思う。川崎駅東口では直接対峙しているカウンター以外にも多くの人々が、それぞれ周知活動などをしていることも忘れてはいけない。
 今回も順撮りで、撮影した順に映像を並べている。時系列を無視して映像を並べ替えると嘘をついているみたいなので、時間順に記録として残すことにしている。

【写真】

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 JR川崎駅東口広場で最も邪魔な場所なのではないかという位置にレイシストがいた。もちろん、こんな位置で街宣をやらせていたのは異常な警備を行なっている神奈川県警察である。この謎の警備フォーメーションのせいで、ガラス大屋根の南西側(川崎ルフロン側)の道は完全に封鎖されてしまった。


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 街宣を行なっているレイシストを囲う柵(檻)のひとつ外側の柵の中には、多数の私服警察官がいて、その視線は街宣している連中に向けられていた。まず、前回レイシスト側の2名が暴行等の容疑で警察署へ連れて行かれて事情聴取をされたことも要因のひとつであるが、この街宣の主宰者が息巻いて警察糾弾をはじめたことにより、多数の警察官ににらまれる状態になったようだ。
 事の発端は、前回の街宣の時にガラスの回廊に掲出されていた「横断幕・ビラの掲出禁止」の貼り紙で、これは川崎警察署が施設の管理者に貼らせたものだった。このことに腹を立てた街宣主宰者は、警察署に抗議の電話をかけたのだが、電話に出た警察官に軽くあしらわれてしまう。味方だと思っていた警察に梯子を外されたのはショックだったようで、その時のやり取りをtwitterにアップして警察を糾弾していた。「公権力介入の弾圧には絶対に負けない」と意気込み、レイシスト連中は今回の街宣を迎えた。
 表現の自由を脅かすような貼り紙を警察が公共の場所に掲出させたことは糾弾されるべきことであり、警察署に抗議の電話をするのは間違っていない。そこまでは理解できるのだが、そのtwitterにアップした糾弾動画には、(仇敵であるはずの)神奈川新聞の石橋学記者が撮影した写真が無断で使用されていた。公権力による権利侵害に対する糾弾は大いに結構だが、自身が別の権利侵害をするのはいいのだろうか。


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 前回レイシストは多重に設置された柵の奥にいてほとんど見えもしなかったが、今回は人目に触れるような位置に警察が設定したので、見物していく通行人が多くいて、まるで檻の中の動物を見ているようだった。この日の川崎駅前の人通りはそこそこあったため、街宣の音を聞きつけた人がやってきて「これはなんですか? ああヘイトスピーチですか」というやりとりが多く見られた。


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 今回も抗議場所は二手にわかれていたのだが、レイシストに近いほうに人が集中していて、その反対側(南西側・川崎ルフロン側)にはカウンターはほとんどいなかった。


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 機動隊員の腰に垂れ下がるカールコード。これは「けん銃つりひも」(ピストル・ランヤード)である。大抵の場合、機動隊員はデモや街宣などの警備にあたる際には拳銃は携帯していない。それは単に重くて邪魔という実務的な理由もあるだろうが、揉み合いになった時に脱落したり場合によっては奪取されてしまう可能性があるため、常に腰の拳銃を気にしながら任務を行うのはしんどいはずだ。このように、一般的なデモ警備は拳銃を携帯するのに向いていない業務で、基本的にはデメリットしかないように思える。
 警察官は制服着用時には原則的に拳銃を携帯することになっているが、屋内での事務仕事や会議、演奏、交通事故の処理・捜査、災害活動、雑踏警備など、職務遂行上特に支障があったり、不適当である場合は拳銃を装備しなくていいことになっている。

警察官等けん銃使用及び取扱い規範
第十一条 警察官は、制服(活動服を含む。以下同じ。)を着用して勤務するときは、けん銃を携帯するものとする。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
八 雑踏警備に従事する場合等でけん銃を携帯することが職務遂行上特に支障があると所属長が認めたとき。
九 前各号に掲げる場合のほか、けん銃を携帯することが不適当であると所轄庁の長が認めたとき。

神奈川県警察官服制規程

第2条2 警察官は、 (中略)けん銃及び警棒を着装しなければならない。
3 警察官は、けん銃を携帯する場合には、けん銃入れに収めけん銃つりひもに結着して着装しなければならない。
第9条 警察官は、けん銃を携帯しない場合は、けん銃入れ及びけん銃つりひもを取り外すものとする。ただし、勤務中一時的にけん銃を取り外した場合のけん銃つりひもは、この限りでない。

 デスクワークの際に腕時計が邪魔で外すなんてことはよくあることで、拳銃なんて邪魔の最たるものだ。いらない時は下ろしたいし、実際には多くの場面で警察官は拳銃を腰から下ろしている。
 神奈川県警察官服制規程では、拳銃を携帯しない場合は拳銃入れと吊り紐も取り外せとあるが、勤務中一時的に外す場合は吊り紐はそのままでいいともある。
 上の写真は規程に則った着装なのであるが、活動中なにかに引っ掛かりそうである。なるべく外す装備品の数を減らして負担を軽減させるための例外規程なのだろうが、逆に足を引っ張っているようにも思える。私なんかは非常に神経質な人間なので、装備のあれこれが気になってしまうが、こういう細かいことを機動隊の人に聞いてみると大抵は「へーそうなんですか」「気にしてないですね」などの返事しかこないので、運用には問題はないのかもしれない。


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【差別禁止条例の全面施行一年に伴う川崎市長コメント】

 突然だが、ここで話は現場から離れる。この街宣の2日後、罰則付き差別禁止条例(「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」)の全面施行1年の節目に合わせて川崎市の福田紀彦市長はコメントを発表した。

 市長は6月15日の会見でも述べていたので驚きもしないが、再び「演説を行う者も、それに反対する者も、その双方に節度のある態度を求めたい」という文言を一周年のコメントに入れてきた。
 以下に、川崎駅前で行われている街宣と抗議に関する部分を掲載するので、目を通してほしい。全文は下に記載したURLで読むことができる。

「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」の全面施行から一年を振り返って(※部分掲載)
 令和2年7月の条例の全面施行後、一年が経過しますが、この間、様々な御意見が寄せられる中で、この一年を条例に基づき具体的な取組を進めていく重要な一年と捉え、日本国憲法の保障する「表現の自由」に留意した上で、慎重かつ丁寧に、この条例を運用してきました。
 こうした中、昨今、JR川崎駅東口駅前を中心に、街宣活動が定期的に行われるようになり、その都度、駅前周辺が騒然となる状況に鑑み、この条例の制定に至った経緯等を振り返りながら、改めて、私の「思い」を率直に市民の皆様方にお伝えしなければならないとの考えに至りました。
 現在、解釈の誤りや見解の相違による不適切な表現は散見されますが、この条例の「禁止規定」に抵触するような言動は確認されていません。これは、条例の要件に該当する行為に対して、本市が「罰則」をもって臨むという強い姿勢を打ち出したことによるものであると判断しています。
 しかしながら、特定の団体等による街宣活動が行われる度に、駅前周辺が騒然とした状況になることについては、大変残念なことであると認識しています。
 そもそも、ある言論に対する対抗言論は認められるものと考えていますが、大きな妨害音を絶えず発することにより、言論そのものを封じ込めてしまう行為は、民主主義そのものの否定に繋がると認識しており、公共の場所で行うものである以上、演説を行う者も、それに反対する者も、その双方に節度のある態度を求めたいと思います。
 いかなる差別的言動も許されるものではありませんが、「禁止規定」に抵触するとは言えないものにまで、川崎市という公権力(行政機関)が直接的にこれを排除しようとすることは、公権力を行使する行政機関の長として、日本国憲法上、非常に危険なことであり、この条例に対する信頼をも損なうことになりかねないと考えています。
 また、公の施設の使用許可に関する事件ではありますが、「泉佐野市民会館事件最高裁判決(平成7年3月7日第3小法廷判決)」では、「集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として、使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことは許されない」ということが示されており、この考え方は、街宣活動にも参考にできるものとして判断しています。すなわち、公共の場所で行われる街宣活動について、その言動の内容によらずに、街宣活動を行う団体の性格そのものを理由として、不当に差別的に取り扱うことは許されないと考えています。
 駅前周辺が騒然となる状況での言動については、いわゆる「差別的言動解消法」や、この条例の立法の契機となったものとは異なるものであり、「条例が機能しておらず、市は条例を適切に運用すべきである」との声も寄せられていますが、全く的外れの指摘であると判断しています。
 この条例を適切に運用するとは、この条例に定めた「ルール」に則り、粛々と対応していくことであり、まさに、それに尽きる話であって、それ以上のものでも、それ以下のものでもないと考えています。

参照元:川崎市 市民文化局 報道発表資料 2021年6月
https://www.city.kawasaki.jp/templates/press/250/0000130461.html

 川崎市が罰則付きの差別禁止条例を全国に先駆けて施行したことは大きなインパクトがあり、街頭で活動していた差別主義者たちへのダメージとなったのも紛れもない事実だ。地方自治体が国よりも一歩進んだ差別禁止のルールを打ち出せたのは、市長の尽力があったのは言うまでもなく、その功績は大きい。
 社会全体の差別に関する意識は急激に変化するようなものではないが、"差別を許してはならない"というメッセージ性を帯びた川崎市の条例の存在は、反ヘイトスピーチの運動が前進したことを感じさせてくれる。

 しかし一方で、本邦外出身者の排斥を訴えるレイシストと抗議するカウンターを同列に扱うばかりか、駅前でカウンターが迷惑行為を働いているとまで受け取れるような市長の意見表明には非常にがっかりした。
 カウンターは、ヘイトスピーチ解消法や差別禁止条例を補強するために行動しているのに、「解消法や条例の立法の契機」とは関連がないと言われるのはとても心外なことで落胆させられた。「差別禁止」を明確に打ち出し、全国初の条例まで作った川崎市とカウンターの行動理念は合致するはずなので、レイシストと同列に扱ってほしくない。マジョリティによるヘイトスピーチは、マイノリティによる反論の機会が確保されないことを考えると、ここで「対抗言論」を持ち出すのは適切と言えない。

 市長は、条例の禁止規定に抵触するような言動は確認されていないと述べているが、現場では外国人排斥を意味する言動やプラカードが認められている。もしかしたら、川崎市の担当者が現場で見落とした可能性があるのではないだろうか。そこで、市長には一度現場に来て街宣をご覧になっていただきたい。
 拡大解釈で罰則条例の恣意的運用がされないか懸念していた私からすると、憲法を遵守するために慎重な態度を取らざるを得ない市の姿勢は評価できる。それでも、自由と権利に留意しながら不当な差別的言動をきちんと認定し禁ずることはできるのではないだろうか。

 日本ではヘイトスピーチに刑事罰を与えるのが難しく、カウンターがヘイトスピーチを押さえ込んでいるという側面があることは忘れてはいけない。ヘイトスピーチが当事者の耳に届かないよう、ヘイトスピーチが許される行為だと思われないように、カウンターは休日を割いて抗議しにきているのに、「駅前周辺を騒然とさせて、迷惑行為を働いている」などと扱われてしまうことは非常に悲しく思う。
 カウンターは差別街宣を行う人々と同じではない。同列に扱われてしまったことは残念だが、カウンターは市長や川崎市の敵ではなく、レイシストの敵である。ヘイトスピーチはヘイトクライムの起こる前兆とも言えるので、市長は市長室で、カウンターは現場で共に差別主義者と闘い続けなくてはならない。



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 左に写る建物は、川崎駅東口の駅ビル「アトレ川崎」で、そこに何人もの私服警察官がいつも並んで立っている。左腕に警察腕章をしているのですぐに捜査員だとわかる。中には腕章をしていない私服警察官もいるが、おおかた似た系統の服装やカバンを身につけているので、慣れてくると私服警察官がほぼわかるようになり、たまに街中で私服警察官を発見することもある。
 ちなみに、私服警察官はミリタリー用品を機能的な実用品として身につけていることも多く、オッと思うようなアイテムをたまに目にすることもある。この日はドイツのミリタリーブランド「タスマニアンタイガー」のショルダーバッグを使っている私服警察官がいたので話しかけてみたのだが、特にミリタリーに詳しい人でもなかった。


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 日本を取り戻すというスローガンを掲げたリベンジ街宣が終わり、片付けているレイシストにもカウンターは罵声を浴びせ続ける。荷物がまとまったら駅の改札口まで神奈川県警察が安全に送り届けてくれる。
 「神奈川県警は差別主義者をVIP扱いするのやめてください」というプラカードを見かけたが、まさにその通りである。


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  毎回繰り広げられる神奈川県警察による駅通路封鎖を伴うレイシストの送り出しは、差別街宣の遠因になってはいないだろうか。レイシストは警察が守ってくれるから街宣ができると思っているはずだ。警察は仕事をしているだけかもしれないが、それがどういう行為なのか考えてみた方がいい。こんな状況だからこそ、カウンターは抗議を続けなければならない。


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 街宣終了後、レイシストを包囲し一帯を封鎖するために設置していた柵を片付ける神奈川県警察機動隊。狭い場所には毛布を使って養生する細かい気配りはプロの気概を感じる。その実務能力をいかして、レイシストを排除してもらいたいものだ。警察官には差別に反対する者たちの味方であってほしい。
 ちなみに、手前に写る後ろ向きの警察官は関東管区機動隊員で、車道側で作業をしているのは神奈川県警察機動隊員だ。それぞれ別のチームで、腕章の違いで見分けることができる。


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 この日、何人かの機動隊員がヘルメットを被っていたが、これは部隊の指揮官チームを区別しやすくするための目印である。戦場で戦う軍隊ではないので、指揮する側がわかりやすいに越したことはない。このように警察が部隊活動を行う場合、隊長らがわかりやすく区別されている。
 今回、私が気になったのはヘルメットの下の中帽の有無だ。部隊ごとに装備の統一を行っているのに、ヘルメットの下に活動帽をかぶっている警察官とそうでない者がいた。

神奈川県警察官服制規程
第13条 警察官は、次の各号のいずれかに該当する場合は、制帽又は活動帽に代えて、 ヘルメットを着用することができる。
(1) 自動車警ら勤務に従事する場合
(2) 交通指導取締り、交通事故現場捜査活動及び交通検問に従事する場合
(3) 災害、爆発等危険性の高い現場において各種警察活動に従事する場合
(4) その他、勤務の性質により所属長が必要と認めた場合

 規程によれば、帽子の代わりにヘルメットを着用することができるとあるが、帽子もヘルメットも両方着用している例は多い。
 時と場合によるだろうが、聞いた話では、活動帽をヘルメットの下にライナーとして着用するしないは、服装の斉一を図っている場合でも、その人の好みによるそうだ。だからなんだという話ではあるが、このような細かい運用の観察は興味が尽きない。


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