音程の言い表し方:度数とクオリティ
音と音の厳密な距離を言い表すために、度数の前に付け加える「クオリティ(接頭辞)」について説明します。これを覚えればインターバルの知識は完璧です。
「かしこい音楽理論①」シリーズの第3回にあたります。前回の記事である第2回の記事を踏まえて説明していますので、そちらを読んでおくとより理解しやすいと思います。
シリーズ一覧はこちら。
今日覚えて帰ってもらうこと
・度数の前につくやつ
幹音は均等に並んでいない
前回説明したように、幹音は均等には並んでいません。
彼らに元々用意されてあった土地に、黒い鍵盤がないところ、黒い鍵盤をまたがずに隣り合う2つの白い鍵盤があるからです。
しかし、このことを都市計画の不備だと批判してはいけません。
「半音で隣り合うこと」これが変化音を含めたあらゆる音同士の生々しい関係に影響しています。とても重要なことです。
元々の音の位置、すなわち幹音の位置関係が均等ではないので、当然、変化音の位置関係も均等にはなりません。
そういうわけで、
「鍵盤をまたぐ回数の違い」
によって元々の距離も違うし、これに加えて、
「二人のうち片方、または両方の変化」
によっても厳密な距離が変わってきます。
クオリティ(quality)
そこで、度数の頭にクオリティ(quality)というものをつけることで、二人の厳密な距離、すなわちインターバルを表すというかしこい方法があります。接頭辞(prefix)だとか位(くらい)とも呼ばれることもあります。
他の人には友達のように見えていても、細かく見れば「種類(質)」があります。それを表そうとしたのがクオリティです。マブダチの「マブ」の部分、親友の「親」、悪友の「悪」みたいな部分が度数にとってのクオリティの部分のようなものです。
クオリティには、major、minor、perfect、augmented、diminishedの5種類があります。
また、クオリティには略記のためのシンボル(クオリティシンボル)が用意されています。かしこい人には、クオリティシンボルが用いられていればそれが度数のことを言っていることがわかるので、1stや2ndなどといった助数詞は省略されて番号だけになることが多いです。
略せるものは徹底的に略した結果として、「クオリティ+度数の数字」という形の省略的なインターバル表記が実現されます。
実はこのクオリティこそが度数の生々しさの根源です。クオリティは、スケールの世界、コードの世界で重要になってきます。今後そういう世界に足を踏み入れるときには、この知識がとても役立ちます。
ちなみに生々しいっていうのは「美しくも醜くく現実的な」くらいの意味で使ってます。もちろん音楽理論の用語じゃありません。
もっとかしこい話:クオリティの和名
日本語でいうと、majorは長、minorは短、perfectは完全、augmentedは増、diminishedには減という訳語が当てられています。こうしたインターバルの呼び表し方は日本語で音楽理論を説明するのにとても便利なので、知っておくと他の音楽理論についての文書を読むときに役立つでしょう。
残念ながら、「かしこい音楽理論」ではシンボルしか用いないため、日本語での呼び表し方の出番がありません。そのため補足的説明に留めておくことにします。
major(略号:M)とminor(略号:m)
B-CやE-Fをまたぐと、またいだ分だけ同じ度数よりも狭くなります。
またぐ回数が少ないインターバルをmajor、またぐ回数が多いため狭くなっちゃったインターバルをminorといいます。
広い業界のことをメジャー業界、狭い業界のことをマイナー業界といいますよね。音程で言う狭い広いの場合は、そういう規模の大小や良し悪しのことを言ってるわけではないです。
広い方のmajorには「M」のシンボル、狭い方のminorには「m」のシンボルが与えられています。大文字と小文字なのでわかりやすいと思います。
幹音同士の音程を例にして、まずは2ndと3rdを見てみます。
もちろんB-CとE-Fだけはm2になります。その他の2度はM2です。ですので、m2は半音、M2は全音と同じ関係になります。
また、B-CまたはE-Fをまたぐ3度はm3、またがない3度はM3です。
同様に、7thと6thも見てみます。B-CとE-Fのうち片方をまたぐmajorか、両方をまたぐminorかのどちらかです。
7thのうち、C-BとF-EだけはM7になります。
かしこい人は、2ndと3rd、6thと7thになにかしらの対応関係があることにお気づきかもしれません。
perfect(略号:P)
perfectというのは「完璧」「非の打ち所がない」という意味とはちょっと違います。それくらいの勢いで褒められたら嬉しいですけどね。そうではなくて、音楽の文脈では「二人がよく混ざって響き合うインターバル」みたいなニュアンスがあります。
perfectには「P」のシンボルが与えられています。
オクターブや変化記号まで含めて全く同じ音名の人を指す場合にはP1、そしてオクターブ違いの場合はP8を用います。後述しますが、同じ音名同士でも、どちらかが幹音でもう片方が変化音である場合(同名異音)には、別の呼び表しかたをすることになります。
P1とP8はこれで大丈夫だと思うので、全く違う音なのによく混ざる不思議な音程、P4とP5を見てみましょう。
4度のなかでもF-BだけはB-CもE-Fもまたがないので二人の距離はP4よりも広く、5度の中でもB-FだけはB-CとE-Fの両方をまたぐので二人の距離はP5よりも狭くなります。
4度と5度の場合、幹音同士のインターバルの中では、同じ度数の中で異なるインターバルがそれぞれひとつだけしかないです。それがmajorやminorとは違うところです。
もっとかしこい話:限られた度数のみに許されたクオリティ
実はperfectがつく度数と、majorまたはminorがつく度数というのは限られています。perfectがつくかもしれない度数は1度と4度と5度と8度だけで、これらにmajor/minorがつくことはありません。一方、majorまたはminorがつくかもしれない度数は2度と3度と6度と7度だけで、これらにperfectがつくことはありません。
夫婦を恋人と呼んだり、恋人を夫婦と呼んだり、友達以上恋人未満のことを親友と呼んだりはしないこと(諸説あります)と同じことです。
augmented(略号:+)とdiminished(略号:o)
同じ度数のmajorまたはperfectよりも半音広いインターバルのことをaugmentedといいます。一方、同じ度数のminorまたはperfectよりも半音狭いインターバルのことをdiminishedといいます。
augmentedには「+」のシンボルが、diminishedには「o」のシンボルが与えられています。M/mやPのように頭文字を取るとAさんやDさんと間違えちゃうので頭文字は取りません。
音楽理論の流派によっては♯や♭を当てることもありますが、変化音の記号と間違ってはいけないので、「かしこい音楽理論」ではもっとかしこい方法を採ります。
幹音同士の音程の中ではF-Bの+4とB-Fのo5だけです。なので、F-BとB-F以外でaugmented/diminishedが登場するときは二人のうち少なくともどちらかが変化音であると言えます。
もっとかしこい話:augmentedとdiminishedのシンボルの由来
augmentedおよびdiminishedのシンボルは、最低音の音名に最低音以外の構成音の音程を付記する「数字付き低音」という一種のハーモニーの表記法、に由来するようです。「数字付き低音」は、今後説明するコードシンボルの由来のうちのひとつともされています。
インターバル同士の関係
ここまでに学んだことで、次回の内容を理解する程度には十分な知識量は確保できました。しかし、ここからはもっと長い目で見て役に立つようなことを書きます。
音と音の関係であるインターバルですが、それと同じように、インターバル同士の関係も重要です。音楽理論を学ぶ上で重要な3つの比較方法を覚えておくとものすごくかしこくなれます。
①同じ度数同士の比較
同じ度数のインターバルの広さの差を区別して表す「クオリティ」と、同じ音名の音の高さの差を区別して呼び表す「変化記号」。広さと高さなので意味合いは違いますが、お互いに関係し合います。
幹音同士のクオリティからみた広さ・狭さの差を覚えておくと、そこから変化音を含めたあらゆる音の度数を導きだすことができます。
もっとかしこい話:特殊な度数
上の図表に出てくる28種類の度数が、オクターブ以内に使われる音程の全てです。このうち図表内で灰色の文字で示したものは、今後の「かしこい音楽理論」ではほぼ扱いません。
覚えておくべきは、黒字で示した14コの音程です。青字で示した+2とo7とo4と+5は、スケールの世界とコードの世界においてはかなり独特な役割を果たします。今はまだ覚えてなくてもよいです。
②半音数と度数の比較
半音数と度数とでは数え方の性質や用いる目的が違うので、両者を本質的な意味で比較することはできないのですが、厳密な距離というところだけをみて比較することができます。①と関連させるとなお良いです。
厳密な距離が同じインターバルのことを異名同音程といいます。第1回「音名」で説明した、異名同音のインターバル版のようなものです。
③転回の関係にある度数の比較
転回については既に第2回「度数」にて説明しましたが、ここでもう少し具体的にみてみましょう。
このときの、「XさんからみたYさんの度数」と「YさんからみたXさんの度数」が転回の関係にあります。
喩えるなら、「姉からみた妹」を転回すれば「妹からみた姉」になるみたいな感じですね。姉から見た妹は生意気で妹から見た姉は理不尽かもしれません。基準にする人が違えば見方は当然変わります。
さて、これにクオリティまでを加えてみると、こういうことがいえます。
すなわち、
majorの転回はminor
minorの転回はmajor
perfectの転回はperfect
augmentedの転回はdiminished
diminishedの転回はaugmented
です。特に図中の枠をつけて示した7組は重要です。
21コの幹音のペア
ここまでの内容をかしこく学んだ人は、どんな音と音の関係も瞬時に答えられるようになっていると思います。最後に、今後いろんな応用に効きそうな21コの幹音のペアについての図を置いておきます。
これら21ペアの二人のうち、どちらかに♭や♯をつけたり、異名同音程として考えたり、転回することによって、今後登場するあらゆるインターバルを網羅できるでしょう。
音楽理論のインターバルは、算数でいうところの九九みたいなものです。
同じことを学ぶなら、答えを導き出すスピードが速い方がより効率的に難しいことまで学べるのが世の常です。そしてその速さというものは、理屈を学んだあとでちょっとした暗記とそれなりの実践をすることによって伸びていきます。
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