元家具屋のおやっさんとかんな話

店舗工事のおやっさんはとにかくマルチな方で。
デザイン科を卒業し、家具屋さんに丁稚入りした後に色んな職種を経て今に至る方だ。

ある日現場に置いてある私の鉋を見て
「おー!鉋持ってるの?見せて見せて!いやぁ鉋持ってる大工さんなんて久しぶりだよ!」
なんて事から鉋の話に。
正直私の鉋はまともな使い方をしておらず、見せるのも憚るような状態だが、それを一つひとつ説明してくれる。

「これはもう少し裏出ししなきゃね。刃の入りはきつめでいいね。でもこれなら硬木には使えないね。」
にこにこしながらここはこうやって…こうすればいいよ、と教えてくれた。

「俺は家具屋さんに丁稚入りしてね。朝は犬の散歩から始まって、仕事をしながら午後は子供の遊び相手して。作業を22時近くまでやってから鉋の刃を研いでね。
親方は刃研ぎもかけ方も全く教えてくれない人だったから、仕事しながら一生懸命見て盗んだんだ。」

「鉋の刃を真っ直ぐ研げるようになったら、次はどうすれば真っ平らに鉋をかけられるか。
刃が真っ直ぐでも、かけ方の癖ってみんなあるからね。これは親方を見てても同じようにはいかない。
何度も練習してね。
それで俺が思いついたのは、角材を2つ用意するんだ。
鉋をかけて、それを重ねて持ち上げる。真っ直ぐにかけられれば、それが吸い付いて持ち上がるだろう?
それが出来るようになったら、親方から仕事を任されるようになったんだよね。」

「あとね、幅広の材料は何度も鉋をかけるでしょ?その続き目がどうしても少し盛るんだよ。
そういう時は刃の研ぎ方を少し変えるんだ。
これも自分の持ち方や癖もあるから、燐光ちゃんなら逆になるのかな?(私は左利き)」

大工作業だと、幅広の材料に鉋をかけるなんてさほど無いような気がする。
おやっさんは独自の理論で身につけた研ぎ方を、身振り手振りで説明してくれた。

「大工と家具屋さんだと、同じ鉋でも使い方が違う気がしますね」
そんな事を言うと
「そうだね。使い方や材料も違うから、俺はたくさん考えて研いできたよ。だからこういう話ができて本当に嬉しいよ。」


次の日の朝
おやっさんは一枚刃の鉋を持ってきた。
「これ俺のデコラ用の鉋なんだけど、燐光ちゃんにあげるよ。デコラも鉋かけれるようになると気持ち良いんだよ〜。使ってみて。」

使い込まれた鉋と共に、おやっさんの後任の重さに身が引き締まる思いである。


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