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塵も積もれば歯が折れる。

もう10年前の話です。つまり、32歳くらいのときです。32歳っていったら、まだ若いですよね。ええ、まだ若い頃の話です。

ある日、突然、前歯がぐらぐらしたんです。
左前の犬歯です。大人になってから犬歯がぐらつくなんてこと、あります? 私はあったんです。でも、抜けそうになっているわけではない。でも、明らかに歯肉の中で何か起きている感触です。だって、指で触るとぐらぐらするんだもの。これはおかしい。

すぐに歯医者に行きましたよ。歯医者、嫌いだけど、仕方ないでしょ。だって歯がぐらぐらしていたら怖いですから。それでレントゲンを撮ったら歯医者の先生が「歯の根が折れてます」って言うんです。
「え?」
「これ、歯肉の中の奥のほうで歯が折れています。歯の根が折れています。だからぐらぐらするんです。このままにしていたら中で化膿しちゃいます。ほらここ」
そういわれて見たレントゲン写真。私の歯の根がポッキリと折れていました。
(; ・`д・´) ええ……
↑たぶんこんな顔していたと思います。

だって、歯が折れるって、そうとうな力が加わらないと無理ですよね? ときどき固いもの食べて歯が欠けちゃうとか、その程度なら聞いたことありますけど、歯の根が真っ二つに折れているんです。転んでもないし、ぶつけてもない。ましてや殴られてもいません。前歯が折れるなんて、ボクサーかよって話です。いくら私の父親が元プロボクサーで、私も格闘技観戦が好きだからって、さすがに参戦したことはありません。ミルコ・クロコップのハイキックを受けたこともなければ、グレイシー一族の関節技を受けたこともありません。秋山成勲相手にヌルヌルするよ! と叫んだこともなければ、イベンダー・ホリフィールドの耳を噛みちぎったこともありません。つまりは、格闘技はやったことがありません。では、私の歯はどうして折れてしまったのでしょう。

歯医者の先生に聞きました。
「どうして折れたのでしょう?」
「ぶつけたり、転んだりは?」
「していません。思い当たることが全くありません」
「そうなると……」
考える歯医者。
「長い年月かけて、少しずつ同じところに衝撃が与えられて、積もり積もった結果でしょう」

(; ・`д・´) 

はあ?

長い年月かけて同じところ(歯の根)に衝撃を与え続けるって何。
怖いんですけど。
知らないうちに歯の根に衝撃与えるって何。
怖いんですけど。
気付かないうちに宇宙人にでもさらわれて歯に衝撃を与え続けられたのでしょうか。格闘技参戦より身に覚えがありません。
「それって、どういうことですか……」
「例えば……」
「例えば??」
「歯ぎしりですね」

歯ぎしり!!

「ああ、歯ぎしり!」
めっちゃ心当たりありました。子供の頃から歯ぎしりがひどかったんです。しかも、ギリギリという低い音の歯ぎしりではなく、私の歯ぎしりは音が高いんだそうです。「だそうです」というのは、自分では聞いたことがないからです。寝ていますからね。キリキリキリキリ! と高音で絶え間なく鳴るそうです。迷惑な話です。友人と旅行に行った際も「あのキリキリって音なに?」と言われましたし、夫にも「歯ぎしりすごいね」と言われましたし、出張で同じ部屋になった先輩には「私、歯ぎしりがすごいらしいので、すみません」とあらかじめ謝っておいたくらいです。翌朝先輩は「本当にすごいね」と苦笑していました。ご迷惑をおかけします。

そんなわけで、私の歯の根は、長年に渡る高音高速歯ぎしりによって折れたのです。ひどいよね。たかが歯ぎしり。されど歯ぎしり。

それで、折れちゃった歯はどうしようもないので、抜いて、インプラントにしました。30代の前半でインプラントは珍しいと言われました。でも、折れちゃったんだもん、仕方ないじゃん。インプラントの治療は、治療というよりもはや手術です。一年くらいかけて行います。だから、しばらく抜いた歯の場所に仮歯を入れておくんですけど、この仮歯がすーぐとれるんです。歯医者の先生に確認したら、外見の問題だけで、衛生的なことを考えると仮歯はないほうがむしろいい、と言われたので、歯抜けでしばらく過ごしましたよ。その間に、ハマっていたアイドルグループのハイタッチ会がありましたが、歯抜けで参戦しました。推しの彼は前歯の抜けた私を覚えてくれたかしら。

インプラントは無事に終わり、それからはもう二度と歯ぎしりで歯を失わないために歯ぎしり防止マウスピースをして寝ています。歯ぎしりはしなくなりましたが、寝ている間、口が開きっぱなしになってしまうので今度はドライマウスを恐れている日々です。みなさまも、くれぐれも歯ぎしりで歯を折るなんてことがありませんように。侮るなかれ! 

おわり。

#私だけかもしれないレア体験

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