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ショートストーリー:深緋に染まる雪【531文字】

やっと見つけた。
間違いない。
あの後姿。

少し肩を斜めにして、背中を丸めて歩く、あの男。

忘れもしない。
奴だ。



10年以上も前のこと。

毎日、朝から晩まで玄関で「金を返せ」と怒鳴る奴ら。

家の電気を全て消し、怒声と罵声と壁を蹴る音が去るのを、ひたすら蹲って耐えていた日々。両親に抱えられて「静かにしていてね」と言われ、ただじっとしていた日々。

あれは地獄だったのだろうか。

一度だけひとりで留守番をしているときに奴らがきた。
私は玄関の覗き穴から外を見た。
ひとりの男の顔が目の前にあった。

眉間に皺を寄せて睨みつけている男。

気持ち悪くて、怖くて、私はそのまま台所で給食を吐いた。

そしてまた除き穴を見る。
一通り怒鳴り散らしてから帰っていく奴らの後姿を目に焼き付ける。

両親を苦しめる、奴らは鬼だ。



ある日、両親はいなくなった。私を置いて、いなくなった。
遠く離れた山の中で、寒い冬の日ふたりは見つかった。心中だった。

これが地獄なのだろうか。



それから私は奴を探し続けた。
あの覗き穴から見た、あの男。

親の仇。



やっと見つけた。
間違いない。
あの後姿。

少し肩を斜めにして、背中を丸めて歩く、あの男。両親と私を苦しめた鬼。



私はナイフを握りしめ、冷え固まった雪を踏みしめながら、ゆっくり奴の背後に迫った。



《おわり》


しめじさんの、下記企画に参加させていただきました。ひとつ恋愛ものを書いたのですが、あまりにも普段の自分らしくなかったので、反動で怖いのも書いちゃいました笑。
連投失礼しました☺


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