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季節はずれの話

小学三年生の頃、友達と三人で下校していた。
話題はクリスマスが近いという事もあり、サンタクロースの話になった。
するとH君が鼻水を垂らしながらぽつりと呟いた。

「サンタクロースはおらんとばい」

私とA君は「何を言い出すのか、夢のない奴だ」とH君をなじり、「じゃあ誰がプレゼントを枕元に置いとっと?」 と問い詰めた。
するとH君はこう言った。

「お父さんが置いてるとこを見たけん」

私とA君はH君の告白を決して信じなかった。
H君も自分の主張を変える事はなく、我々の意見は平行線をたどった。
私だって、どこかの国の太ったおじさんがトナカイに乗ってやってくるなんて、無条件に信じるほど純粋ではなかったが、それでも信じたいと思う気持ちが働いていた。
小学三年生というのは、そんな微妙な時期だ。
なじりになじられたH君の口を尖らせた顔を思い出すたび、私は心が少し痛くなる。

ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうという妄想によって ぼくは廃人であるそうだ 
(吉本隆明「廃人の歌」)

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