クライヴは戦いの中で何者になったのか

クライヴは、話の後半で神の「器」になるべき身体を持った人間であると言われる。
ここからクライヴは自分を人間ではない何かではないかと感じるようになると同時に人として生きたい、人として生きるために戦うようになる。
では、実際クライヴは何者になったのか、そして異変したがゆえに何が起こったのか。少し考えてみたい。

(1)神になったクライヴ

結論から言うと、クライヴは神の器ではなく、神そのものになったと私は考えている。
アルテマがクライヴを器にできなかったのは、クライヴが同格のそして並び生存できない神的な存在であるからだ。

どういうことか。

アルテマとクライヴについて、ジョシュアは以下のように語る。

(日本語版)
「アルテマは神として自ら作り出した人々の信仰を集めた。つまりやつは願望の受け皿人の思いを託されたものだ。」「やつのなかには、数多の思念が渦巻いている。強固な自我をつくりあげるまでに」
「まったくとんだ皮肉さ。あんなに人の自我を否定しておいて僕達と同じなんだから」
「そして兄さんも多くの思いを託されている」
「兄さんとアルテマは互いに強固な自我を持つがゆえに決して溶け合うことができないんだ」

(英語版)
People once knew that Ultima was their god…That he created them…
(かつて人々は神がアルテマであることを知っていた。アルテマが自分たちをつくったことを)
And they worshiped him. Prayed to him. Looked to him for guidance.
(人々は彼を崇拝し、祈りを捧げ、導きを求めていた)
In vain… for he did not listen. Did not acknowledge our will. And so we strayed from his path to forge one of our own.
(だが無駄だった。アルテマは人々の祈りを聞かなかった。意思を認めなかった。だから僕たちは自らの道を切り開くために、彼の道から外れたんだ)
So absorbed was he in his desires―that he shunned the one thing that could have made him truly powerful.
(あいつは我欲におぼれて―真に己の力を強くするものを見逃してしまった)
Faith. The same faith people now place in you.
(強く信じる人の気持ちだ。今人々は同じ思いを兄さんに向けている。)
The difference is , Clive that you chose to listen.
(これが兄さんとの違いだ。あなたは人の願いに耳を傾けることを選んだ)
 And that is what has steeled our bonds.
(それが僕達の絆を強くしてきた)
Bonds that helped you stand firm when Ultima’s pull was at its strongest.
(アルテマの力がもっとも強かったときでも、絆が兄さんを助けてきた。)

英語と日本語では内容が違うのだが、これは一つローカライズにおいて文化的なものからわかりやすいものが選ばれたのかもしれない。
神自身も人の信仰によってその思念が形作られるものであるというのは、いかにも日本的な神話である。
翻って、キリスト教圏の「神」はあくまでも最初からそこにあるものであって、人の思念に影響を受けるものではない。故に、耳を傾けない神とそれに代替して耳を傾けてくれる新たな存在という説明になったのだろう。

どちらのバージョンにせよ、アルテマは長い間神として人の願いを受ける器であったことには間違いない(器が閉じているか受けているかの違いはあるが)。
そして、クライヴも同等に人々の願いを受ける器として、アルテマに並ぶ存在なのだと言われている。

ゲーム上の都合とはいえ、クライヴがおつかいよろしく人々の話を聞き願いを叶えようとする態度には意味がある。
これはアルテマに代わって、人の願いを聞くことによってアルテマの力を奪っていたといえる。人はより願いを叶えてくれる方へ願いを託すものだ。

神とは人智を超越した力を持ち、信仰の対象になっているものをいう。英語版において、クライヴに対する人々への思いは「Faith」が使われており、「Faith」には信仰という意味が含まれていることを考えるとよりクライヴの立場がわかりやすいのではないだろうか。

ドミナントの力をすべて吸収し、かつ人の願いの受け皿となったクライヴは、アルテマに匹敵するアルテマとは別種の神のような存在になっていた。(※)
だからアルテマと同等に戦えることになったということなのだろう。
すなわち、最後のクライヴとアルテマの戦いは神と神の戦いなのだ。

アルテマが失敗したのは、クライヴがドミナントを吸収できる器であっただけではなく人の願いを聞く器であったことを見落としたことだろう。が、そもそもアルテマに「器」の選択権がなかったことを考えると、アルテマの計画はかなりの部分を運に左右されたものだったと言わざるを得ない。最初からアルテマの願いは実らない運命にあったのであろう。

(※)
劇中歌「Away」において、クライヴはプロメテウスの立ち位置にいることが明かされている。プロメテウスはティタン神といっていわゆるオリンポス十二神とは種族の異なる神でありここからもクライヴが神に等しい存在であり、主神(アルテマ)とは別の種であることが示唆されている。

(2)神から再び人へ
神対神の戦いに勝ちアルテマの力すら吸収したクライヴは、人智を超えたただ一人の存在になり、ある意味完全なる神として、クリスタルに相対する。この際クライヴが「この身が滅びようとも」クリスタルを破壊するというのだ。
私はこのセリフに違和感があった。彼は出発前様々なキャラクターに(特にジルに)必ず帰えることを約束したことを考えると、話を覆したように聞こえる。
だが、クライヴが一度神になってしまっているということを踏まえると(そしてそれは事前に予想し得ないものだったことを踏まえると)、なぜ彼がある意味前言を翻して「この身が滅びようとも」クリスタルを壊すと言ったのか理解できるかもしれない。

”人が人として生きられるように”なるには、一度受けている力をすべて放出してクリスタルを破壊しなければならなかった。そうでなければ、クライヴは神のままであり、人のままに生きることができない。
絶対的な力を持ち人の願いを受ける存在としてあり続けてしまうからだ。
クライヴがアルテマの力は自分の器にあまる、といったがこれは人としてのクライヴの器にはあまるという意味なのだろう。

クライヴのクリスタルとの戦いは、広く民のためであるとともに、前述したとおり「クライヴ自身が人として存在するため」の戦いである。神から人に戻ることができないのであれば、意味がない。
であれば、クライヴには力をすべて放出してクリスタルを破壊するという選択肢しかないのだ。
”人が人として生きられる”世界はクリスタルを破壊すれば必ず来る。運がよければ自分も人として生き残れる。
このような状況であったから「この身が滅びようとも」というセリフに繋がったのではないだろうか。

だから、これは自己犠牲の話ではない。
むしろ自己を救済する手段として、クライヴはクリスタルを破壊したといえる。

実際、クライヴは最後に魔法を使おうとした際、手が石化する。これは、クライヴが神ではなく人間に戻った証であり、彼はその点において自分を救済したのだ。

(3)メティアとはなにか
ここまで人々の願いを受ける器の話をしてきたので、最後にメティアの話をしたい。

メティアはヴァリスゼアの人々が幸運を願う星である。よくクライヴと関連付けられるが、間違いなくクライヴが生まれる前から存在したであろうことを考えるとクライヴとそこまで関係あるのか疑問がある。

むしろ、ヴァリスゼアの世界では、少なくともクライヴが現れるまで、人々の願いを受ける器は(呼称が神であれ別のものであれ)アルテマだったことを考えるなら、メティアもまたアルテマであると考えるのが自然ではないか。
メティアの光が消えたのも、アルテマが消え、クリスタルが破壊され、人々の願いを受ける対象が消滅したからで、(ジルがそう思わなかったにせよ)クライヴの生死には関係ないということもできるのではないかと思う。

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