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29時間かけてバスでラオス国境を越えた話①

<あらすじ>ベトナムの中部都市ダナンで大学時代の友人と合流した私は、寝台列車で同室となった白人美女2人組とタンホアで別れ、一路北部都市ハノイへ向かったのである。

ベトナムの北部都市、ハノイ。さらに北上すれば水上都市を彷彿とさせるハロン湾、少し下れば世界遺産フエという至れり尽くせりの立地に降り立った2匹であったが、5日6日と滞在を続けるうちに真新しさがもたらす歓喜では覆いきれない疲れにも似ただるさを感じるようになってきた。

それは長旅がもたらす必然なのかもしれなかったが、町中に露店が軒を連ね、ゲストハウスはビルの2階3階に上へ上へと積み重なってゆく都会的な生活に精神の多くをすり減らしていたのは否めなかった。

そろそろラオスに向かわないか」 そのころ同じく“都会的“生活に限界を感じていた友人はそう提案した。「ここから山越えで東へ進むバスがある。出発前に調べた、あれだ」コピーブランド品店を冷やかすのにも飽きて来ていた私は2つ返事で了解して、代理店を探し始めた。

街中には各所ボートツアーに申し込みを斡旋する為の代理店が山ほど並んでいるから、基本的には好きなもの選べばよい。とはいっても必要以上に手数料を支払ったり、北に行くといって南に行くチケットを発券されては目も当てられないので、前から目をつけていた街の中心部にある比較的真面目そうな旅行代理店を訪ねることにした

昼前の旅行代理店と言えばどこの国ともつかぬ旅行客がどこか安いチケットはないかと物色しているものだったが、その日は客が一人も寄り付かず20歳ぐらいの良く日に焼けた女の子が事務机の向こう側に座って退屈そうにPCを眺めているだけだった。

「ラオスに行きたいんだけど」と告げると、こちらを一瞥して椅子をすすめた。どうやらその日は本当に客が寄り付かなかったようで机の上にはその女の子の携帯電話と、仕事用のPCチケット印刷用の小さなプリンターしか置いていなかった。ベトナムではこのような個人店と企業体の境界があいまいな店舗がたくさんある。ここも例にもれずそのタイプのようだ。

「バスで行ってみたい」と女の子に告げると、ちょっと困ったような顔で説明を始めてくれた。説明を聞くところによると、

ラオスまでは大体700km、飛行機だと150$バスだと50$で飛行機は1時間でバスだと27時間かかる

話には聞いていたが本当は17時間の間違いではないのだろうか、間違いで無かったとして果たしてそんなバスがこの地で運行されているのだろうか。その旅路はどの程度過酷なのか。そんなことをたくさん聞きたかったがお互いのつたない外国語でなんと言うかも判らなかった。

「27時間?」と聞き返すと
女の子は私だったら乗らないけどねという顔をしながら空に字を書いた。 

<2・7・h>「トェニー・セブン・アワーズ」

そのころはその後の苦難のことなど知る由もなく、ただ一心に見知らぬことをしてみたい、見てみたいという激しい情動だけで旅をしていた、その上に使えるお金も少なかったから、少しでも安く移動しよう、多少時間がかかっても、オンボロでも移動は移動さと思っていた。

事前に片道40$という情報を得ていた私が「もうちょっと安いバスはないかな」、と聞くと、「ないわよ、存在はするけどuncomfortableだから扱ってないわ

このバスの情報源も、値段のことも嘘があるとは思えなかった。それもそうだ。旅行代理店としては、移動をしたいのであれば飛行機を使うのが当たり前で、ごく一部の何らかの事情があってバスで無ければいけない人間の為におまけ程度でチケットを確保しているのだ

「今日のはある?」と聞くとほどなく電話で確認してくれ、「15時のがあるよ」という。丁度2時間である。
すぐ裏のゲストハウスから荷物を引き上げて予約をキャンセルして、準備をして・・・ぴったりの時間ではないか。私たちは半ば目に見えない何かから急き立てられているような気分になり、その場でチケットを決済し各々食料や荷物のまとめに向かった。


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