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《編集長が選ぶ「経営に役立つ今週の一冊」第32回/『BtoB広報 最強の攻略術』

BtoB企業に的を絞った広報入門

大企業には立派な広報部(課)がありますが、中小企業には独立した広報セクションを持たない会社も多いものです。広報担当者がいても他業務との兼務であったり、担当者すらいなかったり……。

しかし、中小企業にとっても広報活動が重要であることは、いうまでもありません。広報不足や広報下手のため、マスコミに大きく報じられるべきネタがあるのに、報じられず「宝の持ち腐れ」になる中小企業も多いのです。

広報セクションは売上を上げない「非生産部門」なので、中小企業においてはとかく、営業部などより軽視されがちです。
しかし、優秀な広報担当者がいて、よい意味でのマスコミ露出が増えれば、BtoB企業であっても知名度と信用力アップにつながり、間接的に売上に貢献しますし、人材確保の一助にもなります。

『理念と経営』ではかねてよりそのような問題意識を持っており、中小企業の広報力アップを企図した記事を掲載してきました。

直近の例として、元日経記者で『メディアを動かす広報術』(宣伝会議)の著者・松林薫さんにインタビューした、「プレスリリース活用術 7つの心得」という記事を2022年7月号に掲載しました(執筆は大宅賞作家の稲泉連さん)。

『メディアを動かす広報術』もよい本ですが、その類書で今回取り上げる『BtoB広報 最強の攻略術』は、さらに中小企業向けの内容になっています。「これから広報に力を入れたい」と考えている中小企業経営者に好適です。なぜなら、タイトルのとおりBtoB企業に的を絞った広報入門であるから。

《日本企業の約8割はBtoB企業とも言われています。しかし、新聞や雑誌、テレビ、インターネットメディアなどの読者・視聴者の多くは個人です。このため、メディアは個人がお客様である「ビジネス・トゥ・コンシューマー(消費者)」、つまりBtoC企業を取材したり、報道したりすることが多いのが実情です》(「はじめに」)

そのように、BtoB企業は構造的に報道されにくい傾向があります。知名度や社会的影響力が低い中小企業なら、なおさらです。

中小企業が広報を軽視しがちな理由の一つも、そこにあります。「うちみたいな小さい企業が広報しても、どうせマスコミには取り上げてもらえない」というあきらめに陥りがちなのです。
本書は、そのような先入観に異を唱えます。BtoBの中小企業でも、やり方しだいで頻繁にマスコミに取り上げられることは可能だと説くのです。

《私に言わせれば、「BtoBや中小企業こそ広報をやるべき」です。商品やサービスがよく知られていないからです。BtoC企業の商品やサービスであれば、店頭で多くの個人の目にさらされるわけですから、それほど広報をしなくても意外に知名度が上がっていきます。(中略)しかし、BtoB企業はそうはいきません。(中略)
 知名度に乏しい中小企業がメディア露出でライバルに差をつけるか、あるいは差をつけられてしまうかは、その会社の中期的な成長に大きく関わってきます》

「中小企業だから広報なんか必要ない」というのは、考え方が逆さまです。中小企業こそ、広報に力を入れることがライバル企業に打ち勝つ大きな要因になり得ます。
本書はそのような考え方に立ち、広報に不慣れなBtoB企業、中小企業に、効果的な広報のやり方をレクチャーしていく内容なのです。

メディア・リテラシーも高める内容

著者の日高広太郎さんは、『メディアを動かす広報術』の松林薫さんと同じく、『日本経済新聞』の元記者です。
日経を退社後、BtoBの上場企業の広報部長に転身し、同社のマスコミ露出件数を劇的に向上させ、その後は広報コンサル会社を起業しました。

そのような経歴ゆえ、企業に広報されて記事を書く側の視点と、広報する企業側の視点を兼備しているのです。本書には、その2つの視点が十全に活かされています。
著者には、メディア側の心理も企業側の心理も、手に取るようにわかるのです。だからこそ、マスコミが歓迎し、記事を書きたくなる広報をするノウハウが、本書には微に入り細を穿って解説されています。

類書と比べ、本書はよい意味で「入門書」の色合いが強い内容です。そのことを象徴するのが、随所に1~2ページのマンガが挿入されていること。その章の内容をわかりやすいワンシーンに変えて表現したものです。
本文も、広報の「基本のき」から解説する内容になっています。最初の「基礎編」はとくにそうです。

《従来、メディアと関わりがなかった企業が知名度を高めようとする時、ネックとなるのがメディアへのリテラシーのなさ、つまり知識や理解不足です》
そのように考えるからこそ、広報活動を通じてつきあうメディアの特性や記者の内在論理について、初歩の初歩からわかりやすく説明されています。

それらは、広報歴の長い人にとっては言わずもがなの内容でしょう。が、これから本格的に広報に力を入れる中小企業や、新たに広報担当者となった人にとっては、勉強になります。

つまり本書は、広報入門であると同時に、経営者や広報担当者が基礎的なメディア・リテラシーを身につけるためにも役立つのです。

企業広報の“よき羅針盤”になる

《この本には、私の記者と広報の経験に基づいたメディア掲載のためのキーポイントが詰め込まれています》
――そんな一節があるとおり、本書に紹介された企業広報の「AtoZ」は、すこぶる具体的でわかりやすいものです。

たとえば、「企業ニュースの典型パターンベスト10」という項目では、企業のどんなネタがマスコミに報じられやすいのかが、パターン別に詳しく解説されています。
自社に関する出来事で、その10パターンのいずれかにあてはまることがあったなら、まさにそれは“ネタの売り込みどき”であるわけです。
そうした典型パターンを知らないまま、ただやみくもに売り込みに行くよりも、記事化される可能性は大きく高まるでしょう。

そのように、本書には《メディア掲載のためのキーポイント》が、さまざまな角度から挙げられていきます。
たとえば、マスコミ向けの「プレスリリース」を作る場合、どんな点に気をつけたらよいのかが、一章を割いて解説されています。

また、ネタの売り込み方や記者とのつきあい方などについても、それぞれ紙数を割いて細かく具体的に説明されています。

中小企業経営者にとくに読んでほしいのは、最後の第8章《「社内広報」と「社内理解」は成功の最後のカギ》です。
そこでは、《経営陣や広報以外の部署が広報の仕事の重要性を理解し、正当に評価したり活用したりしなければ、相乗効果や持続的な成功は望めません》との観点から、「社内広報」「社内理解」を推進するポイントが解説されています。

それは広報担当者が推進する面もありますが、何より、経営者自身が広報の重要性を理解するために役立つでしょう。

《BtoB企業は報道との相性が良いと感じます。顧客企業の信頼を得るのが最優先事項の一つだからです。自然な形で信頼を得られやすい前向きな報道がたくさんあれば、顧客企業からの信頼も得やすくなります》

巻末対談(著者とゲストの野沢直人氏の対談)で日高氏がそう言うように、BtoB企業にとってこそ重要な広報活動――。それを推進するための“よき羅針盤”となる一書です。

日高広太郎著/すばる舎/2022年5月刊
文/前原政之

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