声優自主養成マニュアル【①滑舌】
どうも、RinDaと申します。
この【声優自主養成マニュアル】では、私が思う声優に最低限必要な技術や思考の鍛え方を身に付けるための情報をまとめています。
「なんで上手くならないんだろう」を解決するのが目的で、養成所で周りの人達を出し抜きたい人に向けた知識とトレーニング方法を解説していきます。
初心者目線で解説するため、養成所に通っている人だけでなく、これから通う人にもわかりやすいと思います。
最初のテーマは「滑舌」です。
滑舌は声優を仕事とする上では必須能力と言えます。
現役の声優の方々ですら頭を悩ませる滑舌との向き合い方を解説していきます。
はじめに
改めて少しだけ自己紹介をさせて頂きます。
私は「RinDa」という名前で活動している者です。
一応、声優として仕事を経験しており、Twitterで演技ノウハウを発信し続けています。
役者に限らず、誰もが演技を勉強し上手くなる権利があるし、人生を上手く生き抜いていくためには必要だと考えており、ゆくゆくは演技の知識やノウハウが世間一般に広められるようになることを目的としています。
元々は、私もいわゆるコミュ障でした。
他人と上手く距離が取れず、心を通わせることがとても苦手でした。
現在もそれを克服してれたとは言えませんが、そのために苦悩してきた自負はあります。声優を目指したのも、自己改善の一環でした。
そんな私も例に漏れず、滑舌が苦手で、仕事が出来るレベルになるまでに8年くらいかけたと思います。
色んな方の意見を伺ったり、本に書いてある練習を実践してみたりと紆余曲折ありましたが、そんなことに8年かけるよりは、演技力の向上や、現場経験を得るために時間を使いたいですよね。
なので、ここで滑舌に対する基本的な考え方を共有させてもらおうと思います。
成長は人それぞれで、中には少ない苦労でプロレベルの滑舌を身に付けた人も大勢います。そういう人が早く現場に出て、仕事を増やし、養成所で講師をするケースが割とあります。
ですが、滑舌に苦労していない人間が、出来ない人間を上手く教えられると思いますか?
ここには、滑舌が苦労した私が、それを克服するために考えに考え抜いた考え方を記していきます。
きっと、滑舌が良くならないことに頭を悩ませているアナタの助けになるはずです。
ぜひ、解説を読んで、納得して、稽古に励んでみて下さい。
滑舌の重要性
先ほども書きましたが、
滑舌は声優の必須能力です。
まずは、その理由について解説していきます。
映像作品や舞台作品で演じる俳優と
音声作品やアニメ作品で演じる声優の違いはなんだと思いますか?
それは「表現の手段が声しかない」ということです。
もしかしたら、「声だけで演じることが楽だ」と考えている方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
全ての物事には「二面性」が存在します。
正しいことも状況が変われば間違ったことになるし、その逆になることもあります。
これはとても重要な考え方なので覚えておきましょう。
確かに、体型や服装を問わず、台本も覚えることもしなくていいのはとても楽ですが、その分も苦労も存在します。
それが「表現の手段が声しかない」ということです。
俳優は顔を含む全身で演技をしなければいけませんが、その反面、表現の手段は多彩です。
上の図のように、俳優には「声」「表情」「動作」「立ち位置」という表現方法があるのに対し、声優には「声」しかありません。
料理で例えるなら、俳優がフルコースでお客さんに与える満足感を、声優はどんぶり一杯で与えなければならないという感じでしょうか。
その不足を補うのが、今回のテーマである「滑舌」です。
滑舌が良ければその不足を全て補えるわけではありませんが、その不足を補う余地を生み出すことが出来ます。
言い方を変えれば、
「滑舌が悪い」という状態は「キャラクターの首から下が存在しない」という状態になります。
例外はいくつかありますが、首から下のない人間は存在しません。
そういった演技をする役者に対して、果たしてお金を払って演技をしてもらう価値はあるんでしょうか?
つまり、滑舌が声優の必須能力である理由は
「表現の手段が声しかない」という制限を補うために必要な能力だからです。
滑舌の目標
これで滑舌の悪い声優に需要がないことがわかったと思います。
では、滑舌が良いという状態は一体どのような状態を指すのか。
それはズバリ
「100人が聴いたら100人に同じように聴こえる滑舌」です。
通常の会話で滑舌があまり気にならないのは、聴覚以外の情報を使って相手の滑舌が悪い部分を補っているからです。
声の演技の場合、声を使って聴覚以外の情報を伝えなければいけないので、それを期待することが出来ません。
むしろアニメ作品の場合、キャラクターの動きに適した音を出せなければ、聞き手に違和感を与えてしまい、集中力を奪う要因になりかねません。
なので、聴覚だけでちゃんと言葉を伝えることが出来れば、それは滑舌が良いと言えると思います。
なので、声優に必要な滑舌の目標は「100人が聴いたら100人に同じように聴こえる滑舌」です。
実際にできているかは決して判断できませんが、目の前で見てるディレクターさんを納得させられないと仕事にならないので、このくらいを目標とするのがちょうどいいと思います
滑舌のセンス
では「100人が聴いたら100人に同じように聴こえる滑舌」を身に付けるためには何を鍛えたらよいのでしょうか。
ただがむしゃらに早口言葉や外郎売を練習しても効果は薄いです。
ちゃんと自分が何を鍛えているのかを意識してこそ、練習の効果は十分に発揮されます。
鍛えるべきは三つのセンスです
①客観的な音感
皆さんは録音して自分の声を聴いたことがありますか?
録音した声を初めて聴くととても違和感があります。
どこからどう聞いても自分の声なのに、音が微妙に違うのです。
実は人間の耳は内側の音も拾うようにできており、実際に口から出ている音とは違う音が聞こえています。
そして声優にとって「内側から聞こえる音」と「外側から聞こえる音」のどちらかと言うと、もちろん「外側から聞こえる音」です。
なので、声優になりたいのであれば、自分の滑舌は必ず外側から聞こえる音を聞いて、客観的に判断しなければなりません。
これは滑舌に限らず、演技を判断する際にも必要な感覚なので、必ず身に付けましょう。
②コントロール感
皆さんは普段、どうやって発音を区別しているか理解していますか?
例えば
「あ」と「や」の違いとか
「ば」と「ぱ」の違いとか
「か」と「が」と「か゜(鼻濁音)」の違いとか
多くの人はそんなことを気にせず生活しています。
ですが、声優になるということは、こういうことを気にして生活するということになると言っても過言ではありません。
我々は、唇や舌、歯、アゴなど、口の形を変えることによって発音を区別をつけています。
そして、厄介なことに、正しい発音の仕方は、人それぞれ違い、文章の構造でも違います。なので、こればかりは誰かに教えてもらったところで、完璧なものにはなりません。
その形をちゃんと理解し、正確にコントロールできるかが滑舌を左右する大きなカギとなります。
③リズム感
人間はいくつものリズムを持っています。
睡眠や食欲などの生活リズムや、呼吸のリズム、脈拍や鼓動のリズム。もっと言うと、月日や時間、干支なんかも定期的に巡るものなのでリズムと言えるかもしれません。
そんなリズムの中で生きている人間が発する言葉もまた、リズムを持っています。
例えば
「なまむぎ なまごめ なまたまご」という有名な早口言葉がありますが、一気にドバーッて読もうとすると、割と噛んでしまいます。
ですが、「なま・むぎ なま・ごめ なま・たまご」と区切ってみたり、「な”まむ”ぎ な”まご”め な”また”まご」と強調する部分を決めて言うと、キレイに言えるし、早くも言えるようになると思います。
つまりどういうことかと言うと、リズムを持つ言葉は言いやすく、聞きやすいのです。
なので、その文章に適したリズムや、自分に適したリズムを見つけて覚えておくことで、滑舌をよくすることが出来ます。
以上、三つのスキルを身に付けることで、目標を達成していきましょう。
滑舌の鍛え方
ここからは、滑舌を鍛えていく上で、最低限やっていただきたいトレーニングについてご紹介していきます。
用意するものは
・1分から3分くらいの台本
・ボイスレコーダー
の二点だけです。
用意する台本は、好きなものをご用意いただいて結構です。
ただ、出来れば最初は、掛け合いの台詞ではなく、独白やナレーション・朗読など、1人で演じる前提の台本がやりやすいと思います。
自分にとってモチベーションの上がる台本が見つかればそれでいいですが、ちょうどいいのが見つからない時は外郎売を使いましょう。
ボイスレコーダーについては、ちゃんと録音できるものであれば、スマートフォンのアプリでも構いません。
頻繁に使うので、シンプルで使いやすいものがいいと思います。
音質は悪くても大丈夫です。むしろ悪い方が、聞き取りにくい環境でも聞きやすくすることになるので、トレーニングの成果が上がりますね。
以上を踏まえて、トレーニング方法について解説をしていきます。
①台本を録音する
とりあえず、台本を録音してみましょう。
この時に気を付けてほしいのは、
「何回もやり直しをしないこと」です。
仕事での収録の時には、自分で回数を決められることはありません。
ディレクターさんからOKが出れば終わりだし、OKが出なければ終わらない。一番最悪なのは、OKが出ないのに帰されることですね。
つまり、役者が自分の演技に納得するかしないかは、基本的には仕事には関係ないことなのです。
なので、必ず事前に録音する回数を決めておきましょう。
オススメは1~3回です。
あと、「何をハードルとして読むのか」も大切です。
初めのうちは「キレイに読む」が最優先になりますが、そのハードルが高いと感じたなら「ここの箇所は絶対に間違えない」とか「カ行をキレイに言えるようにする」と言うように、自分に合わせたハードルを用意しても大丈夫です。
演技に限ったことではありませんが、自分の能力の少し上のハードルを用意することが成長のコツと言われています。
とにかく、「自分の中の理想形」と言うのを必ず持って録音に臨みましょう。
それともう一つ、録音した時にやってほしいことがあります。
それは「失敗した部分に印を書いておくこと」です。
読んでみた感覚で自分がどこを失敗したのかをちゃんと残しておきましょう。ちなみに私は、失敗した部分に赤ペンで「×」を書き、その横に「正」の字で回数を書いていました。
という感じで、録音する際には
・回数を決めること
・何をハードルとして読むのか決めること
・失敗した部分に印を書いておくこと
に注意して行ってください。
②録音を確認する
続いて、録音を確認するのですが、できればある程度の時間を置いてから確認した方がいいです。
初めのうち録音したばかりの音源は、少し上手く聞こえる傾向にあります。
それは、成功と失敗の感覚が強く残り過ぎて、その通りに聞いてしまうからです。それは客観的とは言えません。
なので、朝か昼に録音したものを、夜に確認するという流れが作れるといいと思います。
まず、ここでやって欲しいのは
「自分の中の理想形」を100点とした時に何点だったか
を確認することです。
採点基準は自分の感覚で決めて大丈夫です。
大切なのは、「用意したハードルが適切か確かめること」と「自分の成長を数字にして実感すること」です。
もし80点以上か30点以下が連続して出る場合は、ハードルが自分に合っていないかもしれないので、意識することを変えてみて下さい。
また、点数が上昇してるなら、自分のやっていることが有効であるとわかるし、下降しているなら、有効でないということがわかります。
こうすることで、地味な基礎トレーニングのモチベーションを保ち、有効な対策を取ることにつながります。
なので、毎回点数をつけて記録しておきましょう。
それともう一つ、
「録音に聞いてどこが失敗していたか」
の確認もしておきましょう。
これも録音直後にやったチェックと同じで、印をつけておきましょう。できれば違う印か違う色でチェックしておいてください。
これをすることで、自分の内側から聞こえる音と、外側から聞こえる音がどのくらい違うを確認することが出来ます。
その違いを理解できると、「内側からは聞き取れるけど、外側からは聞き取れない音の出し方」を自覚できるようになります。
それが自覚できると、自分で外側から聞こえる音を確認しながら喋れるようになるので、滑舌が良くなるという訳です。
以上が二点。
・「やろうとしたこと」を100点とした時に何点だったか
・録音を聞いてどこが失敗していたか
が録音をする際に気を付けることになります。
③苦手を改善する
録音を確認し終わった段階で、台本を見ると①の時と②の時の二種類の印があると思います。
ここからはそれの対策を考えていきます。
滑舌の失敗の理由は
・口を適切に動かす準備が出来ていない
・口の形が適切ではない
大きく分けてこの二つです。
そして、その理由は印を見ればだいたいの予想がつきます。
①の印が付いている場合は、準備が出来ていない可能性が高く
②の印が付いていている場合は、口の形が適切ではない可能性が高いです。
両方ついている場合はどちらの可能性も高いですが、準備が出来ていない可能性から考えるといいと思います。
また、この練習を初めてある程度の期間が経ってからわかるようになることだとは思いますが、両方ともついていない場合も存在します。その場合は、口の形が適切でない可能性がとても高いです。
準備が出来ていない場合、改善するのはリズム感です。
リズム感を改善する場合は、音楽を聞く時みたいに体を揺らしながら台本を読んでみることが有効です。そうしながら、自分が言いやすいリズムを見つけてみて下さい。リズムが見つかったら、体の揺れを減らして読めるようにしてみましょう。
口の形が適切でない場合、改善するのはコントロール感です。
コントロール感を改善する場合、自分が出来る限り一番遅いスピードで読んでみるといいでしょう。「ゆっくり読む」というのは、「一文字を伸ばして読む」ということで、「出来る限り」というのは「自分の息が続く限り」と言う意味です。つまり、「自分の息の続く限り、一文字を伸ばして読んでみる」ということですね。
これをすることで、口の形とその変化の仕方を自分の感覚に植え付けることが出来ます。また、息の吐くペースも自覚できます。
それを植え付けた後に、読んでみると意外とアッサリ読めたりすると思います。
こうやって苦手を確認することで、段々と自分が失敗しやすい場所が事前にわかるようになります。
また、改善を続けていくうちに、対処法が確立され、初めて読む場合でも失敗せずに済むようになります。
初めは失敗ばかりでうんざりしたり、自信を無くしたりすることも多いですが、誰しも初めはそうなので、恥ずかしがることはありません。
それに大きい壁は、ストレスや責任の少ない初めのうちに乗り越えた方が、得なので、ここで滑舌の悪さに直面したことを幸運に思った方がいいくらいです。仕事があるようになってからスランプに陥ると、信用を失う場合があるので大変だと思います
以上、
①台本を録音する
②録音を確認する
③苦手を改善する
が今回解説するトレーニング方法になります。
あとは「③が終わったら①に戻る」を繰り返せばいいだけです。
滑舌を含む基礎訓練で一番肝心なのは「モチベーションを保つこと」です。
なので、飽きたら台本を変えてみたり、ハードルが適切でないなら下方修正したり、点数や印を記録して自分の成長を実感できる工夫をしたりすることを忘れないで下さい。
最後に
今回は「滑舌の重要性」に始まり、「滑舌のスキル」と「滑舌の鍛え方」について解説させて頂きました。
皆さん、いかがでしたでしょうか?
何か質問や、他に取り上げてほしいテーマがありましたら、是非コメントしてください。
感想もお待ちしています。
重ねて申し上げますが、滑舌は声優の必須能力になります。
「キレイな滑舌」と言う認識ができないと、お芝居にも悪い影響ができてしまうので、ちゃんと鍛えておきましょう。
滑舌の練習をサボるとサボった分だけデビューが遠ざかると言っても過言ではありません。
逆に言えば、練習に時間を費やした分、デビューに近づくことが出来ると言えます。
しっかりと自分の不足している部分を見つめて、自分の実力を高めていきましょう。
また、今後のマニュアル作成のため、このマニュアルに関するご質問やご感想を頂けたら幸いです。
「~がわかりずらい」
「~が見にくい」
「~でよいと思った」 など
ドシドシご意見ください。
では、また次回のマニュアルで。
RinDa
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