*fiction*婚活前線異常しかない
失恋したショックからマッチングアプリ漬けになった私が辛くなって書いたお話。
別に誰も悪くないのに1人傷つき傷つける。
いつのまにか1日が終わっていた時、これを書いた。
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朝8時半
無心で乗り込んだ山手線でお気に入りの音楽を聴きながら出社する。
午前中はまだ眠気がとれず、あくびばかりしている。
午後は昼食後ということでまたまた眠くなる。
一体私は何をしにここに来ているのだろうと思いながらブラックコーヒーを一気飲みして胃を痛め、夜の飲み会でさらに胃袋に負荷をかける。
そしてやってきた週末。
土曜日の午前中は睡眠時間として消えていく。
社会人になってから、休日の大切さを身をもって知った。
土曜日の午前中が一週間の中でもっとも幸せな時間かもしれない。
お昼過ぎ、やっとベッドから身体を起こし、外の空気を吸う。
二日酔いだ。
窓の外は蒸し暑く、息苦しい。
(今日の予定は…)
婚活を始めた私のスケジュール帳は街コン、合コン、マッチングアプリでマッチングした男性とのデートでびっしりと埋め尽くされていた。
特に土日は優先順位の高い男性とのデートということもあり、気が抜けない。
婚活は消耗戦、明らかに脈なしの場合や気乗りのしないデートはドタキャンすることも多い。
街コンでの自己紹介は就活時代の自己PRを彷彿とさせ、初対面のデートで聞かれることは大体9割がた同じ質問。
こんなことをして早5ヶ月。
私の体力、精神力は限界に達していた。
運命の人などいるのだろうか。
あのときなんで告白を断ってしまったんだろう。
営業スマイルと化した私の笑顔を見て、
「笑顔が好きですね!」
なんて声をかけてくれる男性を前に、私は上の空だった。
この男性とのデートも最初で最後だろうな。
3ヶ月前に合コンで出会った男性と別れて以来、私の恋愛運は人生のどん底だ。
歌舞伎町を一人で徘徊したところで、私に声をかけてくる男性はいない。
ナイトプールから渋谷のクラブへ移動して騒ぎ明かすこともない。
もうそんな歳になってしまったのだ。
30歳4ヶ月。
周りの友人は子どもがいる人がちらほら。
週末は家族団らんに費やす友人が増え、予定が合わなくなってきた。
分かってる、自分自身に大きな欠陥があるわけでも独身だから孤独というわけでもないということなんて。
運と縁がないだけ。
でも、今こうして休息日を休息出来ずに過ごさなければならないことが、すごく苦しい。
狩れる見込みの低い獲物を求めて砂漠へ行くようなものだ。
人を見た目と表面上の学歴で判断し、画面上の顔写真を右へ左へ無心にスワイプする。
あっというまに1時間が過ぎ2時間が過ぎ…
ここでは感情というものが軽視されがちで、1つ1つの言葉のもつ重みもかなり低い。
こんなことで夜更かしをするなんて、全くもって本望じゃない。
ありきたりなやりとりを一から繰り返すおままごと。
(このアプリを消そう…)
午前1時半をまわった頃、ふと我に返った。
もう限界だ。
こんな日常なんてごめんだ。
恋愛一つでこんなに苦労するなんて私は一体前世でどんな悪いことをしてきたのだろう。
そんなことを考えてしまうほどに、今が生き地獄だ。
私はアプリの退会手続きを進め、インストールしていた全ての婚活アプリを消した。
街コンアプリも消した。
このアプリを消せば何かが変わるはず…
私はベッドの上に大の字になってスマホを投げ出し目をつぶった。
もうすぐ夏休み。
今年は久しぶりに実家に戻ろうか。
トイプードルのコロンももう4歳になる。
久しぶりにあの畦道を散歩でもしよう。