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英単語を教えるにあたって考え直さなくてはいけない3つのこと

 英単語を何度も書いて覚えた記憶はありますか?昔自分が中学生だった時には、英語では予習ノートと復習ノートという2冊のノートを用意するよう先生から言われました。予習ノートは授業の板書や本文の和訳を書き、復習ノートは単語が10回、本文と基本文は2回の書き取り練習を宿題として出されていたように思います。今ではあまり見かけなくなりましたが、例えば夏休みの宿題などで、プリントに英単語の練習をしてくるようなものを出す学年はあります。先生方はおそらく、あまり意味がないことに薄々気づいているでしょう。でも、やったかやらないかで評価がしやすいので、このような宿題はなくならないように思います。

 英単語の書き取りの効果について、実は語彙の習得を阻害する可能性があることについて、中田達也先生の書籍『英単語学習の科学』から紹介したいと思います。

 アメリカの大学で行われた研究で、大学生にスペイン語の単語24語を学習させました。24語のうち半分は⑴書き写し条件、残りの半分は⑵書き写しなし条件に割り当てられました。⑴では、単語とその意味を示すイラストが12秒間提示され、学習者はその単語を書き写すように指示されました。⑵では、単語とその意味が同じく12秒提示されましたが、単語を書き写すことは求められませんでした。そして、学習直後と2日後に事後テストが行われ、学習効果が測定されました。事後テストでは、被験者はイラストを見て、それに対応するスペイン語の単語を書くよう指示されました。

 結果、学習直後と2日後に行われたテストの両方で、書き写しなし条件のほうが、書き写し条件よりも高い得点が出たそうです。この研究を行なった教授はもう一つ単語の書き取りについて実験を行っていますが、やはり最も効果的だったのは、まったく書き写しをしない条件でした。

 繰り返しになりましたが、この研究結果は中田達也先生の『英単語学習の科学』(研究社)より引用させていただいています。単語の書き取りという一般的な学習テクニックについて疑問をなげかけたとても興味深い内容だと感じています。

 これを受けて私は最近考えていた英単語の教え方について見直さなくてはいけないなと感じました。

①英単語と和訳を結びつけるのは限界はあるが、有益な方法の一つであるということ

 英単語と和訳を結びつけることに違和感を感じていたのですが、幼児などの小さな子どもに教えるならともかく、中学生のように母語の影響を避けられない世代の初学者に教える場合には、和訳は有効な手段だと認められます。なぜなら、効率的に学習を進められるからです。ここ2年ほどから単語の意味や本文を、日本語ではなくイラストや写真で表すなどして、授業を試行錯誤してきました。生徒はわかりやすいなどとよい反応を示す一方で、教員側の負担は大きいなと感じていました。単語の学習は英語でのコミュニケーションの基礎の基礎です。それをもとにして、例えば本文のリテリングをさせたり、絵を見せてそれを英語で説明させたりすることに時間を使いたいので、単語学習はできるだけ効率的なほうが望ましいと思っています。

②学習状況とテスト状況が近ければ近いほど学習効果は高くなる

 最近毎授業の単語テスト(生徒の自己採点)を聞き取りで行なっています。単語リストのペアでの音読は帯学習のように行なっているので、生徒たちは発音を意識しながら単語を練習するようになってきました。
 ただ、実際成績に関係するunitごとの単語テストは、学年でやり方が統一されているため、日本語を英語に直すテストで行っています。発音を聞き取る力は問われません。ですので、生徒たちの成績を伸ばすという意味では、日本語を英語に直すという学習を継続的に行っていった方が、効果があると考えられます。もちろん、発音をないがしろにしてもいいというわけではないので、正しい発音に関してはこれからも指導していく必要があります。生徒への指導内容が、教員の自己満足になってはいけないなと感じました。

③単語を意図的に学習した後、実際の文脈に多く出会わせる

 紹介した本のなかにも書かれていますが、まだ初学者の段階で知っている単語が少ない場合、文脈から単語の意味を推測することは困難です。イラストや写真などを用いると作る側の手間や時間がかかりすぎます。かといって、単語の和訳をただ覚えるだけに徹しては、実際にどんなふうに使われるか学習することはできません。この問題に関しては、同じテキストを何度も読んだり、特定のトピックに関連した複数のテキストを読んだり(narrow reading)することで、同じ語彙が複数回繰り返され、学習効果を高めることができるようです。

 これは、中学校の授業で実践できます。同じ本文を繰り返し読むことは、ペアやグループでの活動を使えば飽きずにできます。特定のトピックの文章は、同じunitにある教科書のリスニング問題のスクリプトを使えば手軽にできます。子どもたちもリスニングで聞いているので、ハードルが下がります。また、昔の教科書や他社の検定教科書の本文を使うのもよいと思います。レベルも合っていますし、教師側もいろいろ教材を探す手間も省け、安心して使えます。

①英単語と和訳を結びつけるのは限界はあるが、有益な方法の一つであるということ

②学習状況とテスト状況が近ければ近いほど学習効果は高くなる

③単語を意図的に学習した後、実際の文脈に多く出会わせる

 以上の3つのポイントを外さなければ、生徒に効率的かつ効果的に単語を学習させることができます。英語をツールとして使うためには、話せるようにならないといけません。まずは正しい発音を学び、たくさんの英語を読み、たくさんの英語を聞くことが必要です。たくさんの英語を読んだり聞いたりしていくためには、まず単語を知らなければならない。そこを支えていかのが中学校の英語の授業だというのが、今のところの考えです。

 文法の間違いよりも、単語を間違うほうが誤解を招く可能性が高いです。文法指導に関しては多くの書籍がありますが、単語指導に関して詳しく知ったのはこれが初めてでしたので、考え直すよい機会になりました。先生方も、単語指導について気づいたことがあれば、ぜひ教えてくださいね。


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