芸人交換日記
この前少しだけ触れた芸人交換日記について
書いてみようと思う。
今年の1月、放送作家鈴木おさむさんが書いた著書「芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜」を元にして作られた朗読劇にキャスティングして頂いた。
お話を頂いた時に抱いた疑問はひとつ。
「なぜ兼近じゃなくて僕なんだろう」
僕の相手役はGenerationsの小森隼君
EXITの起用はなんとなく頷けたが
話題を呼ぶなら華があってフレッシュで
何事も器用にこなす兼近が適役だろう。
そんな疑問を抱えつつ兼近の部屋に行った時に乱雑に並べられた本棚の中に偶然にもその本をみつけた。
「兼近この本貸してくんねぇ」
家に帰ってリュックを開いた時にその本をの存在を思い出し、何気なく開いてみた。
結成11年目ちょうど当時の僕と同じ芸歴。
いまだ鳴かず飛ばずのお笑いコンビ“イエローハーツ”。M-1グランプリの出場資格も失い、所属事務所から与えられる仕事はストリップ劇場やパチンコホールでの余興や前座ばかり。これまでコンビの今後について真剣に話し合うことを避けてきた2人も、気がつけば30歳。お笑いに懸ける思いは本気。でももう後がない。なんとかして変わりたい…。そんなある日、ツッコミの甲本の思いつきで「交換日記」を始めることになり、乗り気でなかったボケの田中も次第に交換日記を通してお互いの本音をぶつけ合うようになっていく。そして芸人人生を賭けたあるお笑いコンテストへの出場をきっかけに、コンビには大きな転機が訪れる。
コンビという運命共同体。お互いを想うあまり複雑にも残酷に交錯していく2人。僕の今までの芸人人生や今まで志半ばで去っていた後輩や先輩達が自然とリンクしていき後半からは溢れ出る涙を止める事が出来ず、嗚咽しながら読みきった。
最後のページを閉じた時、兼近ではなく僕だった意味を理解した。
それから台本の前半部分を読み込み、少しずつ甲本を自分の中に落とし込んでいった。
毎日楽屋や廊下で空き時間に練習する僕に兼近は言った。
「朗読劇すよね?練習いります??」
兼近は楽しみが減るという理由でどんな仕事にも練習も準備もせずに臨む。結果オーライどんな時でも彼はうまくやってのける。ただ、僕はそうゆうわけにはいかない。隼君、選んでくれた人、見に来てくれた人をがっかりさせたくない。
その代わり後半部分は一度も練習しなかった。その時湧き出た感情が読み込む事で慣れが生まれ、生ものじゃなくなるのが嫌だった。多少下手くそでも僕らしく読み切ろうそう決めていたし、なにより涙で読めなかった笑
甲本の様々な感情を察しながら読めるようになってきたかなという頃、多忙なスケジュールをぬって本読みの稽古があった。不安は的中。嗚咽でまともに読めなかった。
稽古が終わり僕はおさむさんに謝った。
「すみませんでした。」
「いいよ。もう稽古いらないや。ぶっつけでいこう」
おさむさんの放った言葉は意外なものだった。それまで用意されていた本番までの稽古は全てキャンセルされた。
とにかく今まで経験してきた芸人という生業、いままで出会ってきた後輩や先輩の想いを持ってそのまま全力でぶつかれという事なのだろうか。
本心こそわからないが、その言葉から僕は僕なりにおさむさんのメッセージをそう解釈することにした。
そうして迎えた本番。パンパンの会場。最初のセリフを読み出した時。自分の手足や声が震えているのがわかった。
(うわーめちゃくちゃ緊張してんじゃん)
懐かしい感覚だった。1年目、2分ネタもまともに出来なかったあの時の自分を思い出した。様々な事を経験し、ここまで緊張する事は久しくなかった気がする。こっからのパターンを僕は知っている、こうなると声は上ずり、緊張してる事にテンパリ大抵失敗する。
しかしこの時、こんな事で本当にやっていけるのかなぁと毎日思い悩んでいた一年目の僕はそこにはいなかった。久々に訪れる緊張にどこか高揚し、緊張してる自分を自らが受け入れた。するとここまでやってきた練習量が僕の高鳴る心拍数を徐々に落ち着かせた。
ひとつひとつの言葉を丁寧に吐き出す度に、甲本が少しずつ体の中に入ってくるような不思議な感覚だった。
しかしその瞬間は突如訪れる。入ってきた甲本が体に馴染んできた頃、りんたろーがふっと体の外に飛び出した。
甲本が田中の事を想い解散を告げるシーンだった。
今までひとつになっていた感情から僕が飛び出し、日記で想いを交換する田中と甲本をりんたろーが俯瞰で見ていた。
お前がこの言葉を発したら2人は解散しちゃうんだぞ!11年という長い年月をかけて、ひとつの目標に向かって歩んできた2人が各々の人生を歩み始めるんだぞ!!それくらい重い言葉をお前は言おうとしてるだぞと思った瞬間
「解散しよう」
の一言が出てこなくなってしまった。
切なくて苦しくて出そうとしても言葉にならない。
どれくらいの時間がかかっただろう。
やっとの思いでその言葉を捻り出してからは
よく覚えていない。こっからは練習もしてなかったしちゃんと読めていたかも定かではないが、
とにかくその時の感情に素直に、魂で読み進めたそんな気がする。気付いた時には泣きながら漫才をしていた。笑
涙は流れてるのに笑いが止まらない。感情のスイッチまでぶっ壊れてしまったのかもしれない。
今当たり前のように隣にいる人は、当たり前のような日常は、当たり前じゃないのかもしれません。謎のウイルスが全てを奪い去るやもしれません。あなたが何気なく発したその言葉が相手にとっては凄く辛いものかもしれません。それは積み重なり少しずつ歪みを生んで気付いた時にはその人や物はそこにないかもしれません。当たり前じゃないすべての事柄に感謝しながら生きられたら当たり前のようにそこにあった幸せにふと気付ける時が訪れるのかもしれません。
ここ数年沢山の事を経験させてもらったが、魂でぶつかった心が震えた仕事だった思う今日この頃の僕です。
お後がヒュイゴー
EXIT りんたろー
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