読後感#7 珈琲の世界史

 珈琲の発祥から、現代のサードウェーブまでの生産者、消費者両面をバランス良く描いた書物。詳細は本書に任せるが、概略は次の通りだ。
 アフリカ大陸で生まれたコーヒーノキは、スーフィーらによってイスラム圏で15世紀にコーヒーとして編み出される。大航海時代とも相まって、地中海や大陸を通ってイスラム圏からヨーロッパに伝播する。紅茶のイメージが強いイギリスでは、いち早くコーヒーが広がった。その理由が面白い。それまではアルコールを飲んで酔っ払って政治論談を繰り返す中産階級たちが、素面でかつカフェインの効果で頭もすっきりと政治論談ができるようになったというのだ。その後、フランス、オランダ、ドイツ、アメリカと広がり、そして産業革命を経て中産階級の飲み物から労働者階級の飲み物にもなっていく。爆発的な消費と合わせて生産量も増え、20世紀には国際コーヒー協定によってコーヒー価格と品質はコモディティ化する。現代のサードウェーブコーヒーは、こうしたコモディティのアンチテーゼとして品質、持続性を求めた動きだ。

 今我々は、趣味の時間、仕事の時間、どんな時でもそばにはコーヒーをおいている。とりわけ日本では一人でいる時間や一人であることに意味を持つ時間に、コーヒーを飲む。スタバでの読書、PC業務、朝の一杯、友人同士の近況報告。
 珈琲の逸話として羊飼いカルディの話にもあり、効用としてカフェインの覚醒効果はコーヒーの重要な存在要素なのだろう。アルコールが飲めないイスラム圏で初めて飲まれたことも、宗教ともかかわり深い。もちろん当時の人々にカフェインという言葉は知らないだろうが、なぜか頭がすっきりする、ぼーっとしないという経験はしている。
 その覚醒作用は、アルコールを飲んで盛り上げる時のようにハイにならない。どちらかといえば、冷静に落ち着かせる効果があるのかもしれない。雲やぼんやりとした眠気を取り払うというよりは、冷静さの力を援用する。珈琲を飲んで暴れ出したという話は聞いたことがない。

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