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強い想いが仲間と流れをよびよせた/Code for Kanazawa(前編)

Photo by Tomoki Yanagawa @civictech forum(CC-BY)

「自分で動けば自分の想いで地域を変えていける。」

日本のシビックテックを代表する存在となった、Code for Kanazawa。今の成功に(成功と定義して良いかはわかりませんが)辿り着いたのは、圧倒的な「行動」でした。Code for Kanazawaの成り立ちも、現理事8名を約1年かけて一人ひとり説得し口説いたという、代表理事福島さんの「行動」が元になっています。

冒頭の言葉は、「CIVIC TECH FORUM 2015」の「地域のつながりをITでバージョンアップする方法」というセッションの中で、「なぜ今の活動をしていますか?」という質問に対する福島さんの回答です。

「自分で動けば自分の想いで地域も変えていける。自分の気になる課題を解決していきたいし、他の人に変えてもらうよりは、自分のやりやすい形でやっていったほうがいい。という気持ちもあります。」(福島氏)

シビックテックにおける重要な要素の一つは「ジブンゴト」な気がしています。自分の気になる課題だから変えたいと思える。そして、これからの時代において、街の課題は、行政に文句を言うのではなく、自分達の手で解決していかなければならない時代になっていきます。

そんな時代に対する危機感と、「だったら、自分たちのやりやすい形で楽しくやろうよ!」という前向きな思いを、「地域のつながりをITでバージョンアップする方法」というセッションで話される福島さんの言葉を通じて、私は感じました。

この記事は「CIVIC TECH FORUM 2015」でのお話だけでなく、独自に取材した内容も盛り込んでいます。


■思いを持って行動することで理解者が増えていく

Code for Kanazawaは日本で初めてできたCode for コミュニティです。Code for コミュニティとは、Code for Americaをはじめとした、テクノロジーを使って自分たちの手で世の中よくしていこうという団体で、2015年7月現在は日本各地でも50団体以上が立ち上がっています。

金沢が立ち上がったきっかけは、代表理事の福島さんがCode for Americaのジェニファーパルカさんの「コーディングでより良い政府を作る」という講演をみたことです。この講演をみるまで、ITエンジニアの地域活動への関わり方は非営利団体のホームページを作るというイメージしかなかったそうです。しかし、この講演をみることで、ソフトウェアで直接的に課題を解決できるイメージがわき、自分たちのスキルが活きるイメージがはっきりと浮かんだこの瞬間は、鳥肌がたったとのこと。

「この講演をみて、"自治体に文句ばかり言っていたって解決できないし、自分達で問題を解決していくべき時代だ!自分たちの持っているスキル(テクノロジー)を使うことがきっと役に立つはず!”という強い想いが生まれました。」(福島氏)

そして、2012年頃から準備をし、現理事8名を一人ひとり説得し口説気落とす形でCode for Kanazawaは始まりました。

活動を開始したのは2013年ですが、当時は役所にいき「テクノロジーで地域問題を解決します」といっても、「良いことをするんだね、面白そう」とは言ってもらえるものの「具体的には何する団体なの?」という感じで、一般の人に至っては全く興味をもってもらえず、メンバーに参加したいと言ってくれる人はほとんどいなかったそうです。

そこで自分たちがやっていることを伝えやすくするためにも、「まずはモノを作ろう。自分たちが何の課題をどのように解決できるのか形にしよう!」と生み出した初めてのアプリが「5374.jp(ゴミナシ)」でした。金沢には4種類のゴミの分別があり、それを捨てる日がひと目でわかるアプリです。

5374.jpはコードをGitHub(ソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービス)でシェアして、みんなで作り出していくオープンソースの考え方で作られており、2015年7月現在、75都市で5374.jpは作られています。

この5374.jpは数々の賞を受賞することになりました。

 ・オープンデータ流通推進コンソーシアム 2013年度 優秀賞/OKFJ賞
 ・アーバンデータチャレンジ2014 ソリューション部門 優秀賞
 ・経済産業省主催「オープンデータ・ビジネス・コンペティション」 最優秀賞

これらの受賞を通じ、地元金沢でも注目を集めることになり、やっと自分たちの活動に興味をもってもらうことが出来、かつCode for Kanazawaが何ができる団体かということも理解してもらえたそうです。

その結果、ITに比較的感度が高いNPOの方々などが、Code for KanazawaメンバーとのMeetupイベントなどに顔をだしてくれるようになり、少しづつ地域のコミュニティの人ともつながり始めていったそうです。

これらの結果も「まずはモノを作ろう」と始めた行動が引き寄せたものでした。

「先に考えずに理解してくれる人でうごいてしまう。先に動いて、こういうことが出来る人なんだとわかると交流ができる。行動をすることで味方になってくれる人が増える。振り返ると不理解者も理解者にかわることもある。」(福島氏)

と、「CIVIC TECH FORUM 2015」でもおっしゃっていたように、あれこれ考えないでまずは行動。

前述の通り、Code for Kanazawaの立ち上げも代表が一人ひとり説得をするという形の行動で仲間を増やしました。そして今度は、自分たちが何者か理解してもらうために必要な発信はシビックテックらしいアウトプットだと信じ、まず行動する。それがCode for Kanazawaの出した結論でした。


■1つのアウトプットが自分たちの知らないところで変化を生みだす

また、お話を伺いわかったことの1つは、アウトプットが自分たちの知らないところで変化を生みだすということです。自分たちは何も変わっていないのに、周りがかわりはじめ、流れができたそうです。

これまでの活動で大きな変化のきっかけとなったことはありますか?という質問を投げかけたところ、こんな回答をいただきました。

「自分たちの活動が認められ、昨年(2014年)から県の地域づくり協会のコーディネータを依頼されました。そこで多くのNPOの方々と出逢うきっかけになり、一緒に活動をしていく仲間としてすんなりと受け入れられた気がします。僕たちの活動は何も変わってないんですが、NPO側として仲間にいれてもらえた感じです。」(福島氏)

以前「ITとローカルコミュニティは融合する!?」で触れた通り、ローカルコミュニティに参加するために、CODE for AIZUは自ら足を運ぶという形で地域の方に溶け込む努力をしています。一方で、金沢は活動が認められたことがきっかけとなり、自然と地域のNPOの方々から一緒に活動をしていく仲間として溶けこむことができたように感じます。 行動により生まれた1つのアウトプットをきっかけに、自分達の知らないところで周りが変わりはじめ、変化を生み出したのです。このような結果に勇気づけられる「シビックテック活動」は多いのではないでしょうか。

また、そのように融け込み、仲間となったNPOの方々と話をする際、Code for Kanazawaに期待されることは、自分たちの課題を解決してくれる新しいアプリを作ることだそうです。既存ツールを提案することもあるそうですが、結局カスタマイズを求められ、新しいものを作る方向になるとのこと。

「いい意味で頼ってくれているのかもしれません。」(福島氏)

と嬉しそうに話されていました。

求めてくれるのって嬉しいですよね。そして自分のスキルが役立つってさらに嬉しいですよね。

5374.jpがCode for Kanazawaの代名詞になり、地域の人から「課題があったら、その課題を解決するサービスを作ってくる人」と認識されたからこそ、「求められて作る」という、とてもいい関係が作られているような気がしてます。そして、求められて作るからこそ、プロジェクトも継続され、いっそう課題が解決される可能性が高まります。

現在、地元のNPOの方々と一緒にいくつものプロジェクトが立ち上がっているとのことでした。ただ、協業という形で活動しているプロジェクトは1つもないそうです。NPOの方にもCode for Kanazawaのメンバーとなってもらい、Code for Kanazawaのプロジェクトの1つとして取り組みをしてもらうよう、いつもお願いしているとのことでした。このように、NPOの方々と一緒にやる際には、仲間として取り組むからこそ、求められながらも一方的に「押し付けられる」のではなく、「頼ってくれる」のかもしれません。

その内の1つである「プレミアム・パスポートのアプリプロジェクト」は、石川県庁からはじめてオープンデータを作りだすという、新しい流れを作ったそうです。

「プレミアム・パスポートという、3人こどもいたら割引をうけられるお店の情報が見られるアプリを現在NPOの方々と作っています。それは、子どもが3人以上いるパパが、ハッカソンで偶然同じチームになったことがきっかけです。みなさん、ジブンゴトとして話をするものだから、話は盛り上がります。そのアプリの作成において、データが必要になり、石川県庁ではじめてオープンデータができました。

このようにプロジェクトが継続されているのは、NPOの人達、そしてCode for Kanazawaのメンバー自身が欲しいと思ったものを作っているからだと思います。」(福島氏)

また行動により流れが生まれたようですね。この流れは次にどのような変化を呼び寄せるのでしょうか。

そして、今のCode for Kanazawaの状況に関して振り返って頂く中で、こんなこともおっしゃていました。

「静岡の島田商業高校の先生が、5374.jpの島田市版を高校生に作らせたという事例があります。高校生がやるのもはじめてだったし、シビックテックの世界を先生が学校で教えていくのいいなーって、こんな風に広がっていくことってすごく不思議だけどすごく嬉しいねって開発者と話しています。その喜びがあるからいろんなところで自信をもって語れるし、それがメンバーにも伝わって、"僕らも作ろう!"って思ってくれているのかもしれません。」(福島氏)

「まずはやってみる」という行動が、やっている人達の喜びや嬉しさにつながり、そこをきっかけに他のメンバーの新たな次のプロジェクトにつながるかもしれないという流れ。これも、自分は変わっていないのに、周りが変わっていく1つの事例なのかと思います。そんな、とてもいい循環が金沢にはあります。

地域づくり協会のコーディネータに選ばれたり、オープンデータができたりといった明確な新しい流れ(変化)も大切ですが、こういったメンバーの内発的動機が作られる流れのほうが、個人的には大切な気がしています。

金沢は自分たちができることからやっていき、動きを作り、あとは流れに身を任せている感じがします。背伸びや無理が感じられないんです。そのような実直な行動が、Code for Kanazawaを日本のシビックテックを代表する存在へと進ませたように思います。


■75都市まで拡大をした「5374.jp(ゴミナシ)」

ここであらためて、金沢の成功事例となった5374.jpについて紹介させてください。 5374.jpは「いつ、どのゴミが収拾されているのか?」がわかるアプリで、引っ越しされた場合や、新しく金沢市に住むことになった時にこのアプリを使えばすぐわかるようになっています。

機能は2つだけ

 ・色でゴミのジャンルを表示・・・一番近いゴミの日とジャンルを上から順に表示します。
 ・捨てることが可能なゴミの表示・・・ゴミのジャンルをタップすると捨てることが可能なゴミ一覧を表示

金沢市のごみ出しの区分けは昔の町会の区域が元になっており、住所でわけられていないそうです。そのため、住んでいる人達にとってもとてもわかりにくく、このアプリを作ったとのこと。 利用者と今後の展望について聞いてみました。

「現在は月間で4000人の方が利用しています。金沢市の人口が46万人なので利用率は約1%になります。その数字は多いのか少ないのかわかりませんが、このぐらいの人に使ってもらうと、自分のまわりで使っている人と出会えるんですね。push通知をいれるとリマインド効果もあり、より継続的に利用してもらえるので、今後有償版を視野にいれながら、対応していけたらと思っています。」(福島氏)

また、5374.jpの特徴は、目的と使い方をとてもシンプルにデザインした点ですが、そのシンプルさは、住民のみなさまに利用してもらうためだけでなく、他地域への拡散をも考慮してのことだったそうです。

「開発メンバーと話し合ってこだわったポイントは、誰でもわかるデザインであること。そして全国にひろがりやすくするために、オープンソースかつコードをシンプルにすることでした。」(福島氏)

そのこだわりもあってか現在では75都市(2015年7月現在)に広がっています。また岐阜県御嵩町、石川県内灘町、静岡県掛川市の自治体には公式アプリとしても採用されています。 そしてそれは、Code for Kanazawaのメンバーが各地のアプリを作成しているのではなく、各地のエンジニアのみなさまがそれぞれの住む地域にあった5374.jpを作り出しています。その土地に住む人が、自分たちの地域の課題を自分たちの手で解決しているんです。

まさにシビックテックですね! 


■日本のシビックテックを底上げをしたCode for Kanazawa

オープンソース化した事により、5374.jpは75都市の地域で作られました。

オープンソースで展開されているサービスは他にもありますが、何故5374.jpはここまで広がったのでしょうか?

 ・データを入れ替えるだけで利用できる
 ・コードはJavaScript/HTMLで改修が容易
 ・GitHub Pagesで運用可能(別途サーバの用意をしなくていい)

など、広がりやすく設計されたところもありますが、福島さんはこんなことをおっしゃっていました。

「全国的に広がるようにと考えてこだわって作りましたが、こんなに広がりをみせたのは、たまたまシビックテックのいい教材として扱われたからだと思っています。」(福島氏)

日本各地のシビックテック活動に取り組む方は、やはりCode for Kanazawaと同様な悩み(自分達がどんな団体か、どんな事ができるのか伝わりにくい)を持っていた事だと思います。 そういった方達が、この5374.jpの開発を通じ、地域に対し溶け込むための手段、自分たちが何ができるのかを説明する手段を得ることができたのではないでしょうか。

このように日本のシビックテックに関しても真剣に考え、自分たちの地域だけでなく、自分たちと同じような課題を抱えている他の地域のことも考え、サービスを設計する、そのCode for Kanazawaの志の高さはすばらしいと思います。

きっと簡単に5374.jpを作れるようにして、「他の地域の人達が楽して同じ課題を解決できたらいいな」という考えだけでなく、自分たちが5374.jpによって何ができる団体なのか?わかってもらったように、「各地のCode for コミュニティが自分たちは何者なのか?を説明するための手段として使ってもらい、活動がしやすくなるといいな」という思いや、「各地の問題をその土地の人が解決する動きがもっと日本で広がればいいな」という想いも込めて作ったのではないでしょうか。

その想いが、現在の広がりにつながったように思えます。

もちろん、他の地域の人達が5374.jpをアップグレードしてくれ、また自分の地域にも還元されるという、一般的なオープンソース化のメリットも考えていたとは思います。実際に川崎市は多言語化してくれたり、生駒市は仕組みを追加してアップグレードし、そのコードをまた金沢版に取り入れるという、いわゆるみんなで一つのサービスをともに向上していくオープンソース的良事例にもなりました。

ただ、今回の5374.jpの一番の功績は、日本のシビックテックを底上げしたことだと、私は思います。

今回の前編はCode for Kanazawaの活動を中心にご紹介しました。後編では、活動の場作りに専念しているというCode for Kanazawaの理事メンバーのこだわりを紹介していきたいと思います。

(→後編「日本のシビックテックの先を走るコミュニティのこだわり」へ続く) 


■蛇足

先日行われた「CIVIC TECH FORUM 2015」は10名の運営委員でコンテンツを決め、私もその1人でした。様々な背景をもった委員が集まる中、皆の意見が一致した言葉があります。

「コードを書くことやテクノロジー活用といったHowではなく、エンジニアリング的な思考と、オープンソースコミュニティ文化こそCode for コミュニティのコアだと思っています。(中略)GitHubを使ってIssueの共有がされたり、Pull Requestを通じてこの流れが加速したり、といった部分こそがテクノロジーの強みだと思うのです。その文化が、エンジニアだけでなくもっと多くの人に伝播していく。10年、20年といったスパンで見ていけば、このようなオープンソース的な考え方が、一般の人たちの中でも普通になる世の中が作れるのではないでしょうか。」

オープンソースコミュニティ文化の素晴らしさを知っているのは、いまのところ関わっているエンジニアだけかと思います。しかし、今回の5374.jpでおこったような流れ(金沢で作られたコードが川崎で使われ、川崎で作られた多言語対応がまた金沢で利用される)は、今後コードだけの世界に留まらないと思っています。

福島さんはこんなこともおっしゃっていました。

「各地域のCode for コミュニティが主役で、現場に実践的な知恵は残ります。これからはそれを横で連携していく時代。地域が主役なんです!」(福島氏)

私も各地域のCode for コミュニティが主役だと思います。現場での実践的な知恵なども、オープンソースと同じように横で連携され、進化していくのだと思います。つまり、オープンソースコミュニティ文化の素晴らしさは、エンジニアだけに留まらず、いろんな人が体験していくことになっていくはずです。

そして、そのオープンソースコミュニティ文化こそがCode for コミュニティのコアなのだと思います。 福島さんはCode for Kanazawaだけでなく、各地域のCode for コミュニティのリーダとしても活動しており、日本各地のCode for コミュニティの横の連携を作ろうとしています。日本でシビックテックを推進していくためには、欠かせない人なんだと、今回の取材で改めて感じました。

(※この記事は2015年7月7日に以下で掲載された記事の再掲載となりますhttp://thewave.teamblog.jp/archives/1039565345.html)

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