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02年

入学式も終わり、春の匂いがあふれる近畿大で僕は「何から始めるべきか?」という気持ちだった。春は大学構内に人が多い。サークルが勧誘活動をしている。僕は「カヌー部」と「薬草部」に勧誘された。思わず断ってしまった。
長瀬駅近くには川が流れる桜並木がある。温い空気の下、トボトボ歩きながら今や何一つ思い出せないことを考えていた。
大学受験の1次試験に落ちた時にバンドを辞めた。春休み中に受けた本屋のバイトにも落ちてややヘコんでいたように思う。あと新しく出来るほか弁のオープニングスタッフにも落ちていた。早くバイトをするよう父に急かされていたのを覚えている。事実、大阪から王寺周りで通勤していた父は「こんなのがあったぞ」とC條王寺店がバイト募集していたことを教えてくれた。そこに採用され、タムラくんと出会うことになるのだが、それはまた別の機会に。
この頃は通学、バイト、サクラ大戦のルーティンだったように思う。商経学部は正門から向かって左のガラス張りの建物で、教室は一階が床が石作りで机も古く、ヒンヤリとしていた。懐かしい。日韓ワールドカップを控え、やたらユニフォーム姿や、ベッカムヘアーの学生が多かった。ベッカムヘアーにした男を見た友人らしき男が「うわ、どうしたん?」「朝起きたらなってた」といった会話が聞こえてきたのを覚えている。掲示板を見ると、「トイレットペーパーを持ち帰らないでください」と貼られていた。「もうやだ、この大学…」、僕は大学デビューに失敗したのである。
正門の近くではゲーム屋からガンガン、デモ映像の音が溢れていた。レコード屋もワクワクしながら通った。余談だが、仕事の都合で近くに来たので、久々に正門前まで行ってみたがゲーム屋もレコード屋も綺麗に消えていた。物が買えない時代になったとつくづく思わされた。
そう言えばまっさんはというとバンドを辞めて以来、若干疎遠になっていた。彼は東京に行っていてよく手紙をもらった。今でも一部、保管している。読み返すとあの頃の鼓動が感じられる気がするのだ。
今、振り返ると「充実した学生生活」なるものを手に入れるため、もがいていたのかも知れない。自分ではとても無理なのに。僕はどんどん学生の群れから外れ図書館に引きこもり、BUCK-TICKを聴き込む妙な人間になった。大学デビューの失敗である。

やりたいことが何もなくて、孤独で、不安で、かと言って絶望もない、そんな02年だった。僕は文章を書くようになっていった。

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