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無糖コーヒーと恋

 「ねえ、これとかどう? 店員のオススメって書いてあるし」
 ある日曜日、俺は幼なじみと一緒にショッピングセンターに来ていた。傍から見たら恋人同士に見えるが、俺はしぶしぶ来ている。
 「ねえ、聞いてる?」
 「あ、悪い。聞いてなかった」
 「もう、連れてきた意味ないじゃん」
 俺を連れてきた理由、それは幼なじみには好きな人がいるらしく、男性側の意見を聞きたいらしいことだった。そういうのは本人に聞けばいいのにと、半ば呆れてはいた。本人に聞いたところ「そういうのは恥ずかしくて言えない」、じゃあチャットですれば?と提案するも「読んでくれるかなー?」など弱気な言葉を言う。幼少期から見てきた俺にとっては、あの気が強くて自由奔放な彼女がそんな言葉を言うのはありえない、と同時に確実に彼氏をゲットしたい気持ちが伝わってきた。誰だって告白するのは勇気がいる。だからこそ弱気な発言をする彼女は初めて見る。
 「ねえ、これとこれどっちがいいかな?」
 そんな気持ちに気が付かず自由奔放に振る舞う彼女に俺は参っている。
 「俺は…左のほうが似合うと思う」
 「あたしもそう思ってたんだー」
 幼なじみの笑顔を見るたびに、胸が締め付けられる。
 実を言うと、俺も彼女のことが好きだった。俺なら幸せにできるのに。そんな奴よりも俺を選んでほしい。嫉妬とも呼べる感情が胸の中で渦巻いていた。でも、彼女はそんな俺の気持ちを知らずに、好きな人に見てもらいたくて洋服やアクセサリを選んでいた。
 一通りの買い物を終わらせたあと、フードコートでお昼を頼む。幼なじみはハンバーガーセット、俺はハンバーガーとコーヒーを頼んだ。注文したものが届くまで、椅子に座りながら雑談した。
 「ねえ、やっぱり告白したほうがいいよね」
 「好きならそうしたほうがいいと思うけど」
 「やっぱり持つべきは友人だねー。応援してくれてるもん」
 「応援というか…まあ、アドバイス的な?」
 「たぶん、君の意見なら絶対に外さないと思うもん。一緒にいる時間が長いからかなー」
 「まあ、そうなるよな」
 幼なじみは笑いながら「ありがと」と、言った。
 彼女のあの笑顔を見ていたら、恋人に選ばれなかった落胆と同時に幸せになってほしいという気持ちが湧いた。
 頼んでいたものがテーブルの上に置かれた。
 「いただきます!」
 「いただきます」
 頼んでいた無糖のコーヒーを一口飲んだ。ほろ苦く、でも深みがある味。たぶん、失恋ってこんな味なんだろうなと思いながら俺はコーヒーを味わっていた。

No.2450自由奔放
No.485応援
No.1497オススメ

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