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図書館情報学とSearch&Discovery

こんにちは!
IT企業でデータ活用プロダクトの開発に従事しているrilmayerです。
この記事はアドベントカレンダー「Search&Discovery 全部俺」2日目の記事となります。

本日は今回のアドベントカレンダーと関連度の高い図書館情報学という学問について紹介しようと思います。
前回、Search&Discoveryは「ユーザーが大量の情報(アイテム)から良いと思える出会いを支援するための技術や知識分野」というお話しをしましたが、実はこうした課題に数百年(もしかすると数千年!)の昔から取り組んでいる職業人たち、学問があるのです。

それが図書館員であり、図書館情報学です。

図書館情報学はユーザーの情報ニーズに答える

ここで「なぜ図書館?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、検索(≒データベースを構築し、ユーザーのニーズに適したアイテムを提供する)の歴史を紐解くと、実はその源流には「図書館学」が存在します。
Webが現在のように発達する以前、大量の知識や情報を扱う場は図書館でした。図書館では古くから本や論文といった大量の情報をいかに効率よく収集し、整理し、利用者に提供できるかと言う課題と日々向き合ってきたのです。

情報検索以前 図書館学編

さて、ここからは図書館情報学に関する歴史をやや駆け足ではありますが、ざっと眺めてみましょう。

図書館学の芽生え
現在の図書館情報学に繋がる、図書館の学術的研究の始まりは1664年にフランスのマザラン卿の司書ガブリエル・ノーデが記した『図書館建設のための助言』と言われています。
この書物では学術的価値のある図書の収集や利用者への公開について書かれており、この刊行を通して書籍の収集・公開に関しての学術的な礎が築かれました。
ちなみにノーデがこの書物を刊行したのが27歳の時らしく、図書館界的にはかなりの偉人です。

図書館学の始まり
1808年にドイツのマルティン・シュレッディンガーによる『図書館学全教程試論』が刊行されました。ここから、図書館をよりよく運営していくことを目的とした様々な知識体系をまとめた図書館学が始まったとされます。
(参考資料:「南泰樹. 司書官及び専門職制度に関する一考察 一明治期~戦前期一」)

資料をいかに整理して保存するか
図書館はより多くの資料を扱うようになり、いかにそれらを整理して利用者に提供できるようにするかという課題に対して、より実践的に取り組むことになります。
特に、文献をどのように記録するかという課題に対して「後から参照しやすすくするため、ルールを決めて記録しておく」という目録規則の整備が進められました。1876年にはチャールズ・カッターによりそれらが体系的にまとめ上げられ、今日の目録規則の基礎となっています。
また「どのように図書を分類して整理するか」という方法論の一つであるデューイ十進分類法が発表されたのも同76年です。

専門職養成とライブラリアンシップ
ここから、第二次世界大戦前に到るまで図書館学は図書館員という専門職の養成を促進するための知識体系として急速に発展していきました。
特筆すべきは1876年のアメリカ図書館協会の発足、翌77年のイギリス図書館協会の発足などです。そこから1900年前半にかけて大学院教育の整備や科学的方法論が発展していきました。
また、この時期に刊行された専門職としての図書館員の行動規範を示すシャーリー・ランガナタンによる『図書館学の五法則』は、図書館経営の基本原則を示した著作として現在でも参照されます。

情報検索以前 図書館「情報」学編

ドキュメンテーション活動の始まり
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ドキュメンテーション活動という図書館という機関に限らない形で世界中の文献情報を収集・整理しようとする動きが活発化しました。

ドキュメンテーションから情報学、そして図書館情報学へ
この後の歴史とやや前後しますが、このドキュメンテーション活動はやがて情報学(Information science ≠ Informatics)と呼ばれる学問へと発展し、1960年代には図書館学と情報学が統合し「図書館情報学」と呼ばれるようになりました。
図書館情報学では図書館は中心的位置付けではなくなり、情報の生成・蓄積・流通・消費といった一連の過程のひとつの要素として位置付けられるようになりました。
(とは言ってもやはり今でも図書館情報学において、図書館は一つの中心的な研究テーマではあり続けています。)

このあたりの研究分野統合の歴史や、現在のコンピューターサイエンスに繋がる情報学との差分に関してはこちらの記事でまとまっています。

情報検索の誕生

直前の内容と時代がやや前後しますが、第二次世界大戦直後の1950年代に時代を遡ります。
この時代は現在のコンピューターの初期形が登場した時期でもあります。

大量の論文や書籍を検索するためにコンピューターの利用を検討されだしたところが、現在の情報検索(Information Retrieval)分野の走りと言われています。当時、図書館員であり研究者であったモーティマー・タウべによるuniterm systemが現在の情報検索システムの一つの雛形となっています。

1960年代にはイギリスでクランフィールド実験と呼ばれる、uniterm systemの有用性に関する一連の実証プロジェクトが行われました。現在では一般的になった「再現率(Recall)」や「精度(Precision)」といった検索結果の評価の際に用いられる用語も、この実験プロジェクトから一般的に使われるようになりました。

そうした中で図書館の蔵書検索や論文検索システムの開発を通して検索システムの基礎的部分が出来上がっていきました。
初期の検索システムは専門の職員による高度な検索式により検索が行われていましたが、徐々に単語のみの現在の形に近い検索の形となっていきます。

そして、時代を一気に1990年代後半まで進めますと、Web全盛期がやってきます。この時代にGoogle等の検索サービスが登場し、検索エンジンで情報検索の世界をさらに一歩飛躍的に前身させたのです。

Search&Dsicoveryと関連のある図書館情報学の研究分野

上記では触れいませんが図書館情報学には様々な研究分野が存在します。ここではSearch&Dsicoveryに関連すると考えられる研究分野をいくつか紹介しようと思います。

メディア論
専門家に怒られそうな乱暴な表現ですが、図書館情報学で扱うメディアというのは「知識や情報」の「入れ物」または「運び手」を指します。
知識や情報とは何かということについてはまた別途議論が必要ではありますが、メディアの具体例としては書籍、映画、音楽、テレビ、手紙など様々な形があります。メディア論では、これらの特性や効率の良い扱い方、そしてメディアに内包される知識や情報につい研究されています。
Search&Discoveryにおいてはユーザーに届ける「アイテムの性質や内容」を考えることに近いかなと思います。

情報行動論
この分野では何らかのニーズを持った情報システム利用者がどのようなことを考えどのように行動するかといった行動のモデリングなどが中心テーマになります。特にSearch&Discoveryと関係のありそうな部分としては、ユーザーが検索を通してニーズを満たす過程の様々なモデルや、そもそも欲しい情報を見つけるとはどういうことかといった適合性の議論などがあります。

計量情報学
計量情報学は情報に関する事象を数学や統計などを利用して分析し、そこから新たな知見を得ることを目的とする分野です。
Search&Discoveryと関連しそうな部分としては「論文(アイテム)間の関係性の推定」や「テキストの言語的特性の抽出」などが挙げられます。

情報資源組織論
こちらは図書館情報学の中でもかなり巨大な分野なので一概に言うのは難しいのですが、簡単に言うと「集めてきた資料をどのように整理して保存しておけば、後から使いやすくなるか」を研究する分野になります。
例えば、メタデータと呼ばれる「資料に対しての説明的な追加情報」をどのように作成して付与すべきかといったことが研究されています。これは商品に対して「製造元」や「原材料」と言った情報を付与する過程と同様です。
そのほかには、資料をどのように分類するかや、いわゆるジャンルのような主題と呼ばれるものをどのように扱うかと言ったことが研究されています。

情報検索
こちらに関しての詳細は、この後の記事で説明していきます。

ウェブ情報資源の管理
図書館情報学ではウェブ上の情報も重要な研究資源です。
この分野ではウェブ上の膨大な情報をどのようにすればもっと効率よく皆がアクセスしやすくなるかを考えます。これを企業として取り組んでいるのがGoogleですね。
またSNSの利用やWebサイトの相互関係といった、Web上の種々の情報に関する人々の行動の分析も研究対象となります。

情報資源と法律
図書館情報学では情報に関する法的な内容も一つの重要な研究テーマとなります。各種図書館の設置に関する法律や著作、利用者等に関する法律を研究しています。
Search&Discoveryに関連のある分野としては著作権法や個人情報の取り扱いなどが挙げられます。

まとめ

長々と図書館情報学について語ってきましたが、言いたかったことはSearch&Discoveryを考える上で図書館情報学は役立つということです。

図書館学の知見は現在の情報検索等の分野に関して多くの影響を与えているため、検索や推薦について深く勉強していく際に図書館情報学の知見は大いに参考になるのです。

ちなみに大学時代の自分の専攻は図書館情報学でした。

参考図書

以下の書籍のp.230〜あたりで図書館情報学そのものの歴史を概観することができます。また、p.43〜あたりでメディア論の概要をつかむことができます。

こちらの書籍では、以下の内容を学ぶことできます。
・p.100〜あたりで情報検索の歴史
・p.15〜あたりで情報資源組織論
・p.119〜あたりではウェブ情報資源の管理

クランフィールド実験の詳細については以下の書籍p.3〜が詳しいです。

情報行動論に関しては以下の書籍が詳しいです。

計量情報学は以下の書籍が詳しいです。


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