失われたものたちの本(メモ)

ふと思い出したので書きます。
 
1 壜の中の蝶
私が小学生のとき、コーチャンフォーに売っていて、ひとめぼれして買ってもらった。
ボタン電池式で、バタバタバタ!という感じで羽が小刻みに動く。動きのなんの前触れもなく痙攣する感じがかなりリアルに近いと思う。本物の蝶を間近で観察したことはないけれど。友達に見せたら、蝶は無理、気持ち悪いと言われた。
 
2 昔のラルム
高校受験の前に塾に行っていた。帰りにツタヤによく寄った。なんでツタヤってあんなにおもしろかったんだろう。
ラルムの11巻の表紙はHIROMIXが撮っていた。今では珍しくないが、厚手の紙のしっかりした雑誌だった。かなり安っぽいポエミーなエピグラフと写真のクオリティの差が子ども心に異様でおもしろかった。数年前に古本で求めて読み返したが、とくに11~12巻は写真に力が入っていると思う。
私がいわゆるガーリーフォト・ガールズムービーを知ったのはラルムとAMOちゃんの二回目のムック本がきっかけ。ただ長島有里枝の写真集は一度も見たことがない。この前メルカリで初版本を発見したが、一万円だった。
 
3 ジャズを奏でる操り人形のバンド
父の実家の人とぜんぜん仲良くない。かなり気まずい他人のおばあちゃんという感じ。しかし小学生のときなぜか一度だけ旅行に行ったことがある。母の中ではあまりいい思い出ではないそうだが、そのとき泊まったホテルのロビーに自動的に動く小さな人形があって、何時間でも見てしまった。
 
4「エルフさんのお店」「アンとの出会いノート」(高柳佐知子)
父の知り合いの知り合いが献本してもらったらしい。「エルフさんのお店」は不思議なお店の一枚絵の横に欄があって、達筆な字で説明が添えられている。帽子屋さんは大きな木をお店にするときはりんごのように枝に品物をかけて、テグスのような細い線で買いたいものをひっぱってくれる(出店みたいな感じで、売る場所は気分で変わるらしい)。そして手渡す前に帽子に秘密の合図を送る。梯子屋さんは好きな長さまではしごを作ると、それで屋根まで上って、買いに来る人が下から呼ぶまで昼寝している。思い出屋は青いガラスのような透明なものを売っていた。今思い出すとおもしろいが、子ども心には少し薄味な感じだった。「だから何?」みたいな。
絵本は『バムケロ』シリーズが好きだった。なぜかというと、子どもが何度も読み返す前提で作られていて、本筋のストーリーとは別に、よく見るともう一つの話が進んでいたり、壁にかけてある絵が変わったり、別の絵本とつながっていたりするからだ。それを見ていると時がたつのを忘れた。
 
「モモ」や「指輪物語」に触れたのはずっと後のことだったが、ファンタジーをおもしろいとは思わなかった。私はたぶん、現実とは異なるもう一つの国で、泣いたり笑ったりしているキャラクターが「いる」ということを、心の底から信じられる子供ではなかった。だからモモの才能とか、エルフとか、別の世界の言語がお話の骨格をなしている物語には没入できなかった。土日は図書館以外どこにも連れて行ってもらえなかった。することのないお昼、曇りで空がうす明るいときに、家の便座に裸のお尻を下ろしたまま本の挿絵をながめて、こんなことを考え付く人間がいるのだから、この世界のどこかにはこれと同じくらい不思議で豊かな場所があるんだろうと思っていた。今もそう思ってはいるが、これからの人生でそこにたどりつくことはたぶんないだろう。
失われたものを取り返そうとは思わない。語ることで取り戻せるとも思わない。ただ語らずにはいられないだけだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?