【書評】ルポ川崎:磯部涼
読むことは、知ることではない。知るための最初のきっかけに過ぎない。
このことを頭に浮かべながら、本書を読み進めた。
なぜなら本書の舞台となる街、川崎のことを
一冊の本を読んだ程度の距離感で語ることはとても危険であり、
それはすべての読書体験に当てはまることだと、気付かされるような作品だったからだ。
作者の磯部涼は以前に記事を書いた『令和元年のテロリズム』の作者であり、
実は本書の方が先に出版されている。
『令和元年のテロリズム』同様、
いや、さらに深く、街とそこに住む人に接近し生の川崎の声を拾い上げている。
だからこそ、この本を読めば自分も川崎という街で起こっていたことや、その空気感を知ったような気になってしまう。
川崎ってこんな場所だよね。と知ったような口を聞いてしまいそうになる。
しかし、街やそこにいる人について語るということは、
それが良い意味であれ悪い意味であれ、
その人にとっての真実であるはずの、実際に触れたことだけに焦点を当てるべきだと自分は思う。
だからこそ、
どれだけ生の声を聞いたかのような文章に出会ったとしても、
自分が触れた上で感じたこと以外を語ることは、
意図せずとも、嘘や誤解を広めることにつながる行為であると思っている。
自分はこの本を読んで、
川崎という街に興味を持った。
言及されているラップグループ、BAD HOPの音楽も聴いてみた。
こういった行動の入り口になるという意味で、
本書は優れたルポタージュである。
だからと言って、知った気にならない。
自分が興味を持ったなら
実際に触れてみる。
この姿勢がないまま物事を語ることが、
フェイクニュースやソーシャルでの過剰なバックラッシュに繋がっている。
情報に触れることと、体験することは全く異なる事象である。
誰もが簡単に情報にアクセスできるようになった2021年だからこそ、
1次体験の価値、行動の価値が上がっているのだのと思う。
知った気にならず。口だけでなく。
経験しに行く。行動しに行く。
自分が知る範囲ではあるが、
磯部涼はこれを早いタイミングから実践している人であると思う。
彼の次の著作も、一読者としてとても楽しみにしている。
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